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救世主現る

 「なりませぬ! お一人で外出等!」

「しかしわし一人で来るよう言われてるんだ」


 やはり、予想通り翌朝城内は揉めた。

「しかしな、その女神様は『私一人で』と強く言っていた。反対もあるし迷惑もかけるが、約束として行かねばならんのだ」


 ワンザと家臣の言い争いは一歩も引かない様相となった。しかし家臣は切り出した。

「どうしてもと言うなら、少し離れた場所を後ろから警護させていただきます」

「すまぬな」


 会議を開く時間の余裕もない。

 早く決めなければならなかった。


 結局ワンザは危険を顧みず神殿に行く事になった。

国民には発表しなかった。


 何故外出を許可したかと言うと、ワンザが黙って抜け出したりすると大騒ぎになるからだ。

 それならば警備を後ろにつかせて行かせる方が良いと考えられたからだ。


 しかし、城下町はざわついた。

 町民はワンザをとんでもない物を見る様に視線を向け噂した。


「あれ、王様?」

「えっ? まさかお一人で外出って」

「窮屈になって城下へ遊びに来たとか?」


 ざわめきがあまり大きくならない様、なるべく目立たない様端を歩こうとしたが元々歩きなれない。

 遂に町の外に出る事になった。兵たちの緊張が一気に上がった。


「いいか! 王様からも外敵からも1瞬たりとも目を離すな」

 ワンザは不安の塊で怖がりながら外を歩いた。野盗や怪物らに会わないように。


 王だから堂々としなければならない気持ちと不安が混じり少しずつ少しづつ歩を進め、一キロメートル半以上離れた神殿に向かう事になった。


「王様、馬車にお乗りに!」

「いや儂は歩いていく、そなたたちは馬車のスピードを落として後から来てくれ」


 幸い、意外にも何事も起きなかった。

少しずつ神殿に近づいて行く。


 ゆっくり怯えながら歩いたため遅くなった。

 そして三十五分ほどの時間を経て遂にワンザは神殿に付いた。


 到着した安堵感が王を包む。

荘厳な神殿の意匠はさらに王を安心させた。


 外の新鮮な空気と景色も確かに美しく新鮮でもあったがそれ以上に不安が大きく楽しめなかったからだ。

 しかし家来たちは言う

「神殿内に何があるやもしれん。気を抜くな」


 すると、神殿の入り口付近にまるで受付のような少女が立っていた。


「よくいらっしゃいました。王様こちらです」


 その女性は夢に出た女神と雰囲気が似た少女であった。

「ええと」

「私は女神さまと同じ世界から来た案内役のフィリオと申します。私がナビゲート致します」


 少女は十七歳ほどで笑顔が愛らしく、接客業の女性の様に誰にも良い印象を与える感じでスタイルもよく、何より白色半透明な服が女神と同様に違う世界の人と認識させた。


 彼女のナビゲートは実に手慣れており、一人でなくなれば王の安心感はぐっと増していた。

 兵士たちは噂した。

「あの少女、怪しくないのだろうか」

「何とも言えん」


 そしてついに神殿の奥の祭壇についた。


「ここです。到着しましたよ王様。御足労ありがとうございました」


「ふう、ここでは一体何が」

「ここでお祈りをして下さい」


 ワンザはフィリオの言う事を全く疑わず、敬虔に身を低くしひざまずき祈った。


 三十秒、一分。

ただ女神を呼び彼女が何をしてくれるのか確かめたかった

 すると祭壇に昨日と同じような柔らかく強い光が集まり発せられついに女神の姿になった。


「お、おお!」

 ワンザも兵士たちも驚嘆した。

 フィリオは説明した。


「私たちの住む天界の女神様です」

「ようこそおいで下さいました王様。国が攻められて困っているようですね」

「は、はい」


「ではお約束通り私たちの世界の勇者を遣わしましょう」

「勇者⁉」


 女神は両手を天に上げた後ゆっくりと何かを包み込むような仕草をした。


 王たちが感嘆しているとおそらく別世界の言葉らしき言語で呟き続け、それが終わると姿を消した。


 女神が気持ちを高める様にいう

「いよいよ現れます」

「おお!」


 何と空中に一七歳くらいの少年が現れた。

 彼も光に包まれかつ目を閉じたまま空中で制ししていた。


「では」

と言い女神は去った。


 直後すごい速さでおちフィリオは下敷きになった。


「いたた。落とす場所を考えて下さい!」

勇者とは思えない不細工な降臨にさすがにワンザ達も戸惑った。


「き、君が勇者?」

「あ?」

凄まじいインパクトの返答だった。


 少年は眠い顔で嫌気と面倒くささがはちきれんばかりの表情で答えた。


 さすがに皆唖然とした。

知っているかどうかわからないとはいえ一国の王にこの態度である。


 少年は細身で顔も細め、さらりとよく手入れしてありそうな髪、しかし腕や胸は貧弱ではなく鍛えられていて無駄な脂肪がない感じだった。


 しかし何といっても外観より振る舞いだった。


 全身けだるそうで時々猫背になり、鋭く冷たそうな眼は攻撃心と冷めた態度とやる気のなさが同居し、しかしどこか辛さと寂しさも印象として与える。


 まるで寝起きの少年で話したり体を動かすのが面倒くさいと全身で表現している。


 そして少年は何かを思い出し急に生気が戻り叫んだ。


「おっと! こうしちゃいられない。早く天界に戻らないとあいつらを取り逃がしちまう!」


 兵達はざわめいた。

「取り逃がす? 天界に戻る? 何か訳ありのような……」


 ワンザはひるまず嬉しそうに話しかけた。

「あ、き、君が勇者なんだね? 女神さまが遣わしてくれた我が国を救ってくれると言う、そうなんだろう」


「誰だお前」

 場がしーんとした。


 少年は敬意がみじんも存在しないような態度で聞いた。

流石に家来たちは唖然とし怒りと青くなるもの両方いた。


「こともあろうに王様に無礼極まりない!」


 フィリオは叫んだ。

「ちょっと、口の利き方を考えて下さい!」


 王は何とか平静を保った。

「あ、ああ、私はいかにもへリウム王国の国王ワンザじゃ。女神様が天界から苦しんでいる我が国に使いの勇者を送って下さると言われてここでお祈りをしていたんだ。そうしたら女神さまが現れて君が今降りて来た」


 しかし少年は少しあたふたして答えた。


「あ、いや、あの、俺は勇者じゃない……」

少年は少し返答に困った顔をした。


「は?」


 意外過ぎる答えに皆が顔を青くした。

 少年はまた無礼な言葉使いで説明を加えた。自己紹介の様に少年は話し始めた。

「ま、まあ、一応、勇者です……俺はシギア。手違いで送られた最低ランクの。堕天使勇者だ」


「手違い? 最低ランク? 堕天使勇者? 何の事だ?」

兵は首を傾げた。


「俺は勇者ですけどランクは最低です。その辺ご承知おきを」

「最低ランク?」


「と言うか諸事情により最低ランクに最近なりました。自分の本位とは別に女神に落とされた落ちこぼれ勇者ですよ」


 フィリオが言った。

「やっと敬語使いましたね」


 ワンザは話をまとめた。

「ああ、わかった、じゃあその話は全て城で聞こう! 近くにある城へ行こう、いいね」


 またシギアが変な事を言った。

「たくこんなしけたへんぴな国に……」

「へんぴ?」

「しけた?」


 その言葉が兵たちの神経を逆なでした。

フィリオがなだめた。


「あ、あの、シギアさんは目覚めたばかりで頭がぼうっとしてるんです。あの、私も指導役としてシギアさんに同行する義務と役目があります」


「ああ、わかった」

結構可愛い娘ですね、と兵士たちは噂した。



 しかし出発の時になってもシギアは座ったままだ。

兵士は聞いた。


「どうしたんだ」

「俺はだるくて眠くて動くのがしんどい、歩くのつらい、運んで」

「な⁉」

相変わらずシギアの態度は兵士たちを苛つかせるのに十分であった。


 ワンザは言った。

「……しょうがない! 馬車まで運んであげなさい!」

家来たちは非常にいやいや少年を馬車に運んだ。


「あいつ、本当に勇者なんですか?」

そう思われるのは至極当然の事だった。


「だまされた?」

「いや、そうは思いたくない。あの女神様が騙したとは。手違いがどうとか言っていたな。それは後々聞こう。しかしすごい存在感だな。勿論『悪い意味で』だが。だが『天界に戻ってしなければならない』と言っていたのは何の事か」



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