初めての犠牲と絶望
シギアはクリウに言われてはっとした。
「そ、そうだな、俺女神様に遣わされて『皆を守れ』と言われたから協力する、て言うより守るって意識が強かったのかもしれない。それに今まではぎりぎり何とかなっても、あいつはちょっと一騎打ちでなく卑怯でも数人がかりでないと無理かもしれない。追い詰められたよ」
「私は女だから男らしくとか騎士道とか、一騎打ちにこだわるとか完全には理解出来ない部分があるわ。皆で力を合わせる、って言う良い方向に捉えるから」
「ドレッドが前にこだわってやられそうになってた事があるけどさすがにそうも言ってられない」
「貴方がそういう面見せるの珍しいけど、皆と協力するって言う良い意味に取るわ」
「よし、ありがとう回復した」
シギアは復活した。
「ぬう?」
シギアは言った。
「ミラムロ君、2人で攻めるぞ。宝児もフォローを頼む」
宝児は言った。
「初めてじゃないけど、シギアさんが数人かかりをしてる。それだけ余裕がない位あいつ強いんだ」
全員が相手か。
とフェミングは思った。
ミラムロは言う。
「この人、特徴がないって言うか。凄く戦い方が変わってるとか特殊能力がないのに純粋に強いです」
「うん」
そしてシギアとミラムロは2人でかかる。
3本の剣が舞う。
シギア達2人は迷う事なく2人で攻めて言った。
さっきまでより確かに精神的余裕が出来た。
フェミングはミラムロとの戦いでは余裕だったが、少し汗をかいたり疲れを見せたりしてきた。
「水大砲!」
宝児は水魔法で援護したがフェミングは戦いながら上手くかわした。
シギアは思った。
こいつ余裕がまだあるのかよく分からない。
汗も垂らしてるし。
でもそれが演技なのかもよくわからない。
2人は勢い付いた。
ミラムロの上30度からの袈裟切りとシギアはそれをすこしずらすように36度の袈裟切りを放ったがフェミングは何とかかわした。
楽々、ではなく何とかだ。
シギアは思った。
こいつ本当に強い。1人では今頃負けていたかも。でも3人でかかれば負けない。プライドを捨てれば。
宝児も思った。
僕も男だから数人かかりはあれだけどそんな事言ってられない。
シギアとミラムロは確かに優勢に立った。少しずつフェミングから余裕がそがれる。
しかしフェミングはバックステップすると急に姿を消した。
「えっ?」
すると後方から悲鳴と血しぶきが舞った。
クリウは体を大きく切られ倒れた。
「え……」
一瞬の出来事であった。
「くっくく、あの女は回復係だろう」
「クリウさん!」
ミラムロがクリウに駆け寄った。
ミラムロは青ざめ震えた。
「し、死んでる」
「!!!」
3人共絶句した。
確かに信じられない事だが、クリウが死んだのだ。
その事実が受け止めきれず呆然としたシギアとミラムロは大きく切られてしまった。
さらに宝児も。3人共致命傷を負った。
「はっはっは! あの女がいなければ回復も出来まい。終わったな」
「ぐぐ……!!」
しかしシギア達3人は歯を食いしばり怒りの形相で立ち上がった。
「ゆ、許さない!」
3人共怒り心頭だった。
しかしフェミングは嘲笑った。
「何だ⁉ 許さないだと⁉️ 仲間が殺されて許せないとでも言うか? はっはっは!」
「何がおかしいんだ」
「じゃあ、今まで貴様らは兵が1人死ぬ度切れたり涙を流したか?」
「うっ!」
「どうせ自分の親しい仲間が死んだ時だけ激しく怒ったり悲しむんだろう⁉ それを偽善と呼ばないで何と言う? 貴様らは人の命全てが重いと思っていない。家族や恋人、親友だけだろう。この偽善者どもが」
「うっ!」
シギアはあまりに心の痛い所を突かれた。
確かにあいつの言う通りだ。俺達は今まで何人も人が死ぬのを見たけどクリウの時ほど切れなかった。
いやそもそも怒りも悲しみも次元が全然違う。それが偽善なのか。
「貴様らはシュトウルムを悪としているが貴様らも冷たい人間だ。自分の近い親しい人間の死で初めて深く悲しむんだからな」
「……」
さらにフェミングは続ける。
「それに、もしかしてその女が急所を外れて生きてるんじゃないかとか生き返らす方法があるんじゃないかとか思ってるんじゃないのか。仮に生き返らす方法があってもどうせ親しい人間だけ生き返らすんだろ。この偽善者どもが」
言われて皆意気消沈してしまった。
偽善者と言う言葉があまりに痛かった。
完全ではなくとも今までヘリウム=善、シュトウルム=悪と思っていた構図が偽善者と言う言葉でエゴイズムを突き付けられたのだ。
力を無くした3人はさらに切られた。
絶望の淵に追い込まれた。




