追い詰められる会議
「ま、まさかついにここまで攻め込まれるとは」
シュトウルム城の会議室で官僚はおののいた。
別の官僚は続けた。
「後はこの城と最難関ヴィドラ砦のみです」
ハーブラー伯爵は溜息をついた。
とうとう、追い詰められたか。と。
オロゴン様はもっと頼りになった。
ミミーデン様は本当に死んだのか。
この男、一体どの様な逆転の策を。
肘をついた姿勢でメガスに視線をやった。
皆の視線がメガスに集中する。
それに対してか軽く圧を与える様にメガスはドンとテーブルを叩いた。
勿論この位では威圧にならないが。
その後突如メガスは大変に悔しがったそぶりで言った。
「おのれ! おのれ!」
ディスピット伯爵は思った。
あの男がこれ程取り乱すとは、まさか策がないのではあるまいな。
しかし突如メガスは落ち着きを取り戻し微笑した。
「ふっ」
な、何だ?
演技か?
と皆思った。
「私とした事が取り乱した、いや取り乱したふりをした、すまない」
メガスは目を閉じ微笑した。
何? 取り乱した振り?
と家臣たちの疑念は強まった。
「まさかここまでヘリウムが攻め込むとは私は予想だにしなかった、しかし!」
と冷静さと穏やかさを装いながら急に語尾を強めた。
そしてまた冷静な分析を始めた。
「急にヘリウム兵が強くなると言う事はない。ありえん。では何故負けたか。それはひとえにあの勇者シギアと仲間のパーティの為だ。あいつらの為に異常に兵士の士気が上がっているんだ」
「確かに」
「だから、それを切ってしまえばいい」
軍長ガルマスは聞いた。
「切る?」
メガスは自信ありげに答える。
「うむ。つまりは勇者シギアとその仲間を最優先で、いや奴らのみを倒すのだ」
再度ガルマスは聞いたが他の家臣も同じく疑問に思った。
「のみ?」
「うむ。他の兵士は戦わなくていい」
これはどよめきが起きた。
「ヴィドラ砦に6大幹部を配置させ勇者パーティを戦わせ倒すのだ」
「他の兵士は戦わないと?」
「そうだ初めからそういうルールを申し入れる。勇者パーティを先に倒せばヘリウムの兵士達は士気はさがり希望を無くす。そうすれば勝ちは簡単だ」
か、かなり思い切った策だ、と皆どよめいた。
その後ヘリウム城にシュトウルムの使者が突如来て手紙が届いた。
「これは?」
ワンザ達はそれを読んだ。
「兵士達は戦わず、幹部と勇者パーティで決着を付ける? 負ければ砦を空ける」
「こ、こんなの嘘です。きっと大勢の兵士で待ち伏せて」
「うーむ」
「盗賊の件で騙されたばかりです」
ワンザは悩んだ。
「しかし我が軍も多くの犠牲を出した。これ以上犠牲を出す事は」
そして回想した。
まあ、わが軍部も自分の都合の良い分析だけして勝てると踏む、今までの悪い癖だ。
ガルデローンを負かしシュトウルムを降伏させるなど愚かな事を。
何手も先を読んでいるとは思えん、敗北から学んでいない。
回想は続く。
わが軍は降伏をしたくなかったのだろう。自尊心が悪い方に出たのか。
その話は騎士団にも伝わった。
「シギア達だけで砦に行かせる?」
「そんなの罠だ」
勇者パーティにはシギアを助けてくれた恩としてミンガードとリザリーが加わった。
レオンハルトはシギアに言った。
「どうも、それが決定しそうなんだ」
「大丈夫さ、力を合わせれば」
「それなんだが、俺達はもっと強くならなければならない」
「強く?」
「ああ、俺達は今までシギアに頼り過ぎた。しかし今度はボスが6人いる。つまり我々が実質1人ずつ相手にしなければならない計算になる。そうなれば我々全員がシギア並の強さにならなければならない」
「上手く連携すれば」
「いや、連携は確かに大事だ。しかしやはり我々がシギアに頼っている部分を無くさなければ、個人個人で強くならなければならない」
「でも、どうすれば」
「命を賭ける修行だ」
「命を?」
「うむ。前のシミュレーションバトルはどこか安心感があった。しかし今回は本当に相手の命を取り合うような修行だ」
「もう3日しかない」
「ああ、だが俺達は皆限界までやりたい」
「俺もだ」
とデュバンも言った。
そしてその夜からシギア達は命を取り合うような激しい修行をした。
そして砦攻略当日は迫った。
ところで、ガルデローンの敗北占領時は短期間で行い戦犯処刑も自国責任で行った。
王が方針を自分で考えるのでなく占領軍が上にいて方針を決めた。
シュトウルムの要求に交渉余地はないと文書に記載され傀儡政権となった。
ガルデローン幹部はシュトウルムにすり寄った。しかし毅然とした者もいたが。
文書の内容は完全従属で賠償金は国の生活経済最低ラインを維持するのみだった。
概して戦勝国は主権に介入する。
しかしシュトウルムは多少ガルデローンの軍事を残す方向に転換しヘリウムとの戦いの際利用するつもりだった。
3大国以外の国同士が戦争する時もシュトウルムがどう出るかは読めなかった。




