勇者パーティ構想
「では改めて紹介しよう、伊坂宝児君だ」
ワンザ以下重臣達が集う中、他の騎士はおらずシギア、クリウ、レオンハルト、ドレッド、フィリオの5人だけがいる場所に集められ宝児は紹介された。
レオンハルト逹は、何故このメンバーだけなのか、と最初から疑問を感じていた。
家臣チューベンは説明した。
「彼は17歳、向こうの世界で言う『高校』と言う所に行っている。水泳をやっていて泳ぎには自信がある。また掃除、洗濯、料理など家事全般がとても得意らしい。性格もいつも礼儀正しくへりくだっていて皆に慕われている、とのことだ。これから仲良くしてやってくれ」
シギア達は別に宝児に嫌悪は抱いていなかった。
しかし戸惑いは隠せない。
何故わざわざ『人間界』から宝児を呼んだのか、何かとてつもない力でもあるのか、それはかなり気になる事項だった。
チューベンは気が付いた。
「ん? レオンハルト、何かあるのか」
「あっ、いえ、宝児君をこのメンバーだけで紹介したのは何か意味があるのかと」
「あっ、その事だがな。実は今『勇者パーティ構想』と言う物が会議され、やがて実行に移される予定だ。君たちはそのパーティのメンバーだからだ」
「え? 勇者パーティ? 我々がメンバー? 初めて聞きました」
「うむ、これから帝国との戦いはもちろん軍団対軍団だ。しかし今後必勝を期すため、小回りの利く独立部隊を作ろうと言う事となっている」
「ええ? 独立部隊」
どよめいた。
皆は顔を見合わせた。
「うむ、メンバーは恐らく6から8、9人となる。君たちに加えるメンバーはギルドなどで集める」
クリウは少し不安げに言った。
「私逹が独立部隊、このメンバーだけの少数精鋭で?」
「つまり、少数精鋭のフットワークを生かし帝国を騎士、兵士団が大群同士の戦いで引き付けている間に敵の親玉格をたおす、そういう役目だ。君たちは選ばれたんだ」
皆まだ皆戸惑っていた。顔を見合わせ不透明なこれからの成り行きに少なからず不安を覚える。
チューベンは言う。
「かなり大役だ。若い君には大変かもしれんが」
レオンハルトは少し不安はあるが期待に応えようと力強く答えた。
「いえ受けます。ただクリウも加えるのですか? 危険では」
「うむ、しかし癒しの白魔法を使えるものが必要だからだ。クリウ君、頼めるか」
「はい!」
クリウは迷いなく答えた。
むしろ選ばれ皆と行動できることが嬉しかったようだ。
彼女はあまり戦場で弱い所を見せない。あるのかも知れないが根性は座っていると良く言われる。
シギアも珍しく聞いた。
「つまり、我々が少数精鋭行動で敵の親玉格を倒すと言う事ですか」
「そうだ、それに実はこれは君を中心に据える構想なんだ。君がいてこその勇者パーティだ」
「え?」
これはさすがのシギアも少し驚きが隠せない。表情が変わった。
嫌われていると思っていたのに「君がいてこそ」「中心に」と言われた。
「君が凄まじい強さを持っているからだ。これまで圧倒的な強さで強者を倒しているからな」
「……いえ」
シギアは珍しく謙遜していた。
彼がこんな控えめな顔を見せたのはいつ以来か。
「当然かつ周知の事実ですが……」
と少しおいて反対の意味の嫌みな一言を付け加えた。
皆は本心70%皮肉30%位と解釈している。
「こいつ中心ですか⁉️」
唖然としたレオンハルトは言った。
「変人をリーダーとは!」
シギアは嫌々な顔をし反論した。
「何てみじんも容赦のない言い方だ。パーティー名は『伝説の勇者と下僕一行』でお願いします」
「また始まった」
ドレッドは目をつぶり呆れた。
チューベンは明るく答えた。
「まあ、何だかんだでこの中でシギアは最強だからな。それとドレッド君」
「はい」
「それとフィリオ君」
「はい」
「君はシギア君のパートナーとして同行してくれ。大丈夫かな?」
「私は戦闘力はありませんがやります」
フィリオにも恐怖を見せない強さが感じられた。
「うむ。もちろん無理はしてはいけない。あまり危険な事はせずともよい」
シギアは嫌みに言った。
にやりとはせず真顔で落ち着いて言うのがさらに嫌味だ。
「まあ、いざとなれば俺1人で十分だが、俺の子分達は足を引っ張らないように。胸を張って歩け、俺がチェックする」
本心89%位と解釈されていた。
ドレッドは突っ込む。
「だから変人って言われるんだよお前は」
シギアはさらり言い返した。
「俺は孤高の男だ」
「友達いないだけじゃないのか」
「ま、俺はクリウがリーダーがいいと思うけどね」
「え?」
クリウははっとした。
シギアは意外な事を言った。
そしてチューベンは話を変えた。
「で、ここでもう1つなのだが、宝児君は何の為に来たか知っているか?」
「いえ」
「それはな」
宝児はシギアの前に出た。
「宝児君、脳波を送るんだ」
シギアは戸惑った。
「えっ」
「ぬっ、ぬっ!」
宝児が集中し脳波を送るとシギアの体が重くなりやがてほとんど動けなくなった。
「どう言う事なんだ!」
「ふふ、何と彼はバクク様と近い脳波を持っていてな。バクク様のペンダントは宝児君が念じると君の動きを封じる」
「そんな」
レオンハルトは驚いた。
「え、バクク様と同じことが?」
「で、宝児君はこれから君のお目付け役となり城の仕事などもしてもらう」
「な! こ、こいつに動きを封じられなければならないんですか? 何で! 俺の方が先輩なのにこともあろうに後輩に従わなきゃいけないんですか! 上下関係を、いや世の中をなめている! 先輩には絶対服従じゃないんですか!」
「4日しか違わないくせに」
ペンダントが反応した。
「い、痛い!」
「じゃあそう言う事で、これから我が国の反攻が始まる! 必ずや帝国を倒そう!」
話がひと段落してシギアはレオンハルトに言った。
「急な話だったな」
突如チューベンは言った。
「ああ、シギア君、これから君には掃除をやってもらう。宝児君の監視付きでだ」
「えっ!」
その後、シギアは床のモップ掛けをやった。かなりの面積だ。
「はあはあ!」
宝児や他の家来は同行した。
「あっもう少し強く腰の力を入れて」
「ああ、腰が痛い腰が」
「老人ですか」
さらに今度は料理運びだった。
シギアはなれない手つきで震えながら慎重に様々な物を運び届けた。
「落とさないように、手足から震えを取る!」
次は皿洗いだった。
慣れない仕事は相当な負担となり手が冷たくなっていた。かじかんで来る。
「疲れた」
休憩前一息溜息をついた。
しかし宝児と家来は指摘した。
「ここにごみが残ってます」
「はあ」
シギアはまた溜息をついた。
戦闘は辛くても耐えられるんだけどね、とシギアは思った。
そしてやっと仕事が終わりシギアと宝児は座って話した。
シギアは感心し言った。
「しかし、君は随分家事に手慣れてるな」
「あ、いえ、そうですね。母が家事をやらない事もあり自然にやって行くうちに身につきました」
「何か全体的にすごく几帳面だな」
「あ、」
「ん?」
シギアは宝児があまり嬉しくなさそうなのに気が付いた。
「そ、そうですね、よく言われます『真面目、真面目』って言われるんですがあまりうれしくないです」
「?」
シギアは意味が分からなかった。
「自分の意見を言えず頼みごとをよくされます。自分の本位でなく」
「そうか、つい自分を抑えるのか。それはすごく疲れる。何より自分の望みどおり行かなくなる」
「そうですね。で悩んでいた時にペンギンさんに会ったんです。この国に来てほしいと。今すぐって言われて戸惑いましたけど」
「かなり無理難題だな」
「でも『君しかいない!』『困ってる人がいる』と言われて決めました」
「すごい決断力だな」
「ええ、自分でも驚きました。ペンギンさんのおかげですよ」
「俺も本当は元の世界に……あっ、いやそういや朝の話だけど俺達がパーティ組むって」
「僕も朝初めて聞きました。やはり不安です」
「君に何をさせようと言うんだろうな。武術やった事ないんだろ」
「はい」
それを家臣や家来たちが陰から見ていた。
「おや2人とも仲良く話してるじゃないか」
「良かったですね王様の取り計らい通りで」
「これで彼が心を開いてくれればいいのだがな」
シギアは他の人がいない所でクリウに気軽かつ真面目に言った。
「さっき言ったけど、俺はクリウがリーダーが良いと思う」
クリウはかなり驚いた。
「私がリーダー?」
「真面目に」
「え? な、何で無理よ、理由がわからない、私は一番弱いし」
「いや、色んな意味でさ。じゃあ表のリーダーは俺であんたは裏のリーダーで当面良いんじゃない?」
「裏……」
「繰り返すけど真面目に」
しかしクリウは呆然として彼の真意が分からずじまいだった。
シギアは思った。
(やっぱり強さも大事だけど一番は人格だよな……クリウの様に公平公正な目を持ってる人がいい。俺はリーダーには向かないから、縁の下の方が良いかも)




