シギアの無言の訴え
シギアは剣を捨て拳で戦いを挑んだ。
何故か彼は黙って戦ったままで素手で戦う理由を説明しない。
しかしシギアは素手の戦いも上手いが、サリディアスは剣を持っていてリーチが長い事もあり、かわされてしまった。
段々不利になって行く。
サリディアスは嘲笑う。
「どういうつもりか理解出来んが、血迷ったかやけになったか」
シギアは大声は出さずとも憎しみを目に浮かべパンチを繰り出して行った。
しかしサリディアスはただのおかしな奴だと鼻で笑いながら攻撃を避けていた。
さらに反撃もしてきた。
「言っておくが貴様が剣を捨てたのはただの勝手だ。俺は遠慮なく剣を使わせてもらうぞ。貴様に合わせる義理などないからな。プライドがないと思いたければ勝手に思え」
しかしシギアは何も言いかえさずただ戦闘ポーズを取っていた。
そしてサリディアスの剣に切られてしまった。
シギアは目をつぶったが何も言わなかった。
また2、3発胸にも食い血が飛んだ。
レオンハルトはたまらず口を開いた。
「あいつ、どういうつもりなんだ。何故剣を持たないんだ? このままではやられてしまうぞ」
タードは言った。
「もしかして素手で繰り出す奥義でもあるのか」
「うーん、違う様に見えます」
アレーナは口を開いた。
「これは私の推測だけど……通常剣で相手を切るのは殺す時だけ。それ以外に剣を持つ、使う目的は基本的にない。でも『殴る』と言う行為は憎しみや殺し合いだけじゃなく、相手に何かを教えようとする場合もある、だからシギアはあの騎士に何かを訴えかけようとしてる? のかも」
「まさかあいつ説得しようとか」
アレーナは続けた。
「そこまでじゃないかもしれない。でも自分の拳に言いたい事を込めてる様に見える。さっきから何もしゃべってないでしょ。でも目の力はものすごく強い。怒りや人の痛みを教えようとしてるんじゃ」
「帝国兵の奴ら相手にか、何でそんな感情論に走るんだ」
「多分、多くの人が傷ついたから。敵も味方も」
シギアは遂に声を発した。
「俺は一杯敵も味方もそれこそ多くの人を傷つけた。だから言う権利ないけど。お前だけが悪い訳じゃないけど!」
サリディアスは聞いた。
「けど何だ!」
「あんた達のせいで多くの人が傷ついた!」
「戦争なんだ当然だろう」
そこへガイが救出に入った。
「俺にやらせてくれ。俺のせいで迷惑をかけた償いやマギーを捕らえた怒りを晴らしたい」
シギアはこくりと頷いた。
そしてガイは再度、今度は自ら獣人化して素手で圧倒的なスピードで攻めまくった。
「く、こいつ!」
皆感心した。
「すごい、何てスピードだ!」
サリディアスはたちまち押された。
「くっ、こいつは長時間獣人化出来んはず! 恥ずかしいが逃げ回れば!」
「グガガガ!」
ガイは逃がさず回り込みサリディアスを押さえつけた。そして片言で叫んだ。
「シギア! 止めを刺せ!」
シギアは黙った。
そしてパンチを繰り出したが寸止めで止めた。
「何で止めるんだ?」
「こいつは捕まえて捕虜にする。教えなきゃならない事が一杯ある」
サリディアスは怒りと笑いを交え言った。
「教える事だと⁉ 貴様に何が教えられると言うんだ? 戦争が片一方だけが悪いとか1人の人間だけ責任があるとぐらいしか思っていない貴様の様な単純馬鹿な若造に! 貴様には世の中がそう見えるんだろうがな!」
「ああ、知らないよ! あんたが全部悪いとか思ってないし帝国兵が全部悪じゃないとか」
「ふん!」
隙をついてサリディアスはガイを払った。
そして再度剣でシギアを切った。
苦しみ倒れそうになったシギアをレオンハルトは受け止めた。
そして剣を渡した。
「自分の体を不必要に傷つけるな」
「……」
「これで戦うんだ」
シギアはこくりと頷いた。




