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mistake8.なんだか私、調子がいいみたい……です

「これが……魔界への入り口」

「みたいですね」


 シースがやってきたという転移魔法陣を見つけたリエルとトルス。


「森の奥にポツンと立ってるちっせえ祠……こりゃ、気付かんわな」

「しかも偽装結界を施して、一見ただの巨木に見えるようにした上に幻惑の魔法でこの魔法陣の周辺に近付いた人を迷わす仕掛け付きです。十中八九、重要拠点への入り口でしょうね」


 断定するリエルに、そうだろうな、と思いながらも一応疑問を呈してみるトルス。


「因みに、一方通行って可能性はないのか?シースさんは、井戸に落ちて……いや、覗き込んだんだったか……そのまま元に戻れなかったんだろう?」

「あちらは偶発的な魔界への入り口だったのかも知れませんね。だから魔界から人間界へは戻れなかった。でも、こちらは確実に出入り可能なやつです。一方通行の出口なら、ここまでして隠したりしないでしょう」

「確かに……」


 リエルの洞察力に納得し、頷く。


「それに、魔王城がこの山にあるという噂の裏付けとも言えます」

「そういや、そうだった」


 元々、グレイマウンテンに魔王の居城がある……そういう噂を聞きつけて2人はここまではるばるやってきたのだ。


「よし!それならもう迷う必要はないな!行こうぜリエル、魔界へ!」


「はい!」


 2人は意気揚々と魔法陣に入り込む。


「おっ」

「動き始めましたね……」


 ブゥン……と魔法陣が魔力を放出し、2人を魔界へといざなう。

 そして2人の視界が波のようにぼやけ、身体は光の粒になり……消えた。


 ◇


「ん……もう着いたのかな?別に衝撃も何もなかったな…っと」


 トルスが気付き、ゆっくりと目を開いて腕を地面につき、身を起こすと……むにゅん……そこは、別の祠だった。恐らく、シースが言っていた魔界の祠だ。


「ん?あれ、リエル、どこだ?」


 座り込んだままキョロキョロと辺りを見回す。


「うん?そういえば、さっき身を起こした時に右手にむにゅんって柔らかい感触が、ってうわぁ!!」


 トルスは自分の右側で倒れているリエルに気付く。そして咄嗟に右手を離す。

 別に死んでいるわけではなく、まだ転移中だと思っているのか、それとも本当に寝ているのか、目を瞑ってすぅすぅと寝息のような穏やかな呼吸をしているだけだった。


 どっ、どっ、どっ、どっ、どっ。


 心臓が早鐘を打ち、気付かなかったとはいえリエルの胸に手を触れてしまった事にトルスは罪悪感で死にそうになる。


「ごめんごめんごめんリエル、マジで」


 まだ目を瞑ったままのリエルに平謝りするが、リエルは目を醒まさない……寝てるのか?


「……リエル?」


「……はっ!」


 トルスが呼びかけてみると、リエルは意識を覚醒させ、目をぱちくりと開いた。


「……あ、もう魔界に着いてたんですね。なんか私、ワープしてる最中にちょっと眠気が来ちゃって、軽く微睡んでました」

「あ、そう……」


 さっきの事は気付いていないらしい……わざわざ言うのも藪蛇だな。


「お怪我はないですか?」

「うん、全然」


 健気にもトルスの身を案じるリエルの言葉に、更に罪悪感を後押しされるが、今はそんなしょうもない事を言っている場合ではない。


 ―――魔界なのだ。


 魔族の住む世界だ。気を引き締めていかねば、いつ寝首をかかれるか分からない。


「よし、行こう」


 気を取り直してトルスは立ち上がり、聖剣を背負い直し、周りを見渡す。

 リエルも立ち上がり、白銀の杖を天高く掲げた。


「うーん……魔王城、多分あっちですね」

「え?分かるのか?」


 リエルは杖を掲げてすぐに、その方向を指し示した。


「ええ、はい。ハッキリと強い魔力を感じます」

「俺には感じられん……魔力探知はリエルに任せっきりだな、すまん」

「適材適所ですよ」


 リエルはそう言うと、歩み始める。


「気をつけよう。敵がいつ出てくるかわからない」

「そこら辺にうじゃうじゃいますね」


 トルスが注意を促すと、リエルは即答した。


「え?」


 トルスでさえ気付かない殺気があったというのか?


「殺気はあんまりないですけど……、なんていうか、露骨に魔力を垂れ流してる魔族さんたちが多いですねえ、魔界って。魔力濃度が高いのも頷けます」


 リエルは平然とそう語るが、大丈夫なのだろうか……?

 聖女……という訳ではないにしても、神聖な空気をまとう彼女にとって、魔界の魔力というのは身体にあまり良い影響を及ぼさないのではないか?

 トルスがそんな不安を覚えて尋ねるが、リエルはけろりと答える。


「んん……なんだか私、調子がいいみたい……です」


 リエルは少し思案したが、そう答えた。

 調子がいい……そうなのか。まぁ、それならそれに越したことはないが……。


「魔法使い……というか、魔力を持つものにとって良い影響なのかも知れませんね」


 そんな風にリエルは言う。なるほど、トルスは魔力がそんなに強くないし、呪文も多く覚えているわけではない。

 魔法が不得手なトルスには理解し難いが、魔界の魔力濃度の濃さとやらが、リエルに良い影響を与えているのであれば、それは心強い。


「まぁ、心配しなくていいですよ。この辺の魔族さんたち、中級魔族(ミドルデーモン)上級魔族(アークデーモン)に類するっぽいですけど、今の私達にとっては敵じゃなさそうです」


 そんな余裕の発言をするリエルも珍しかったが、彼女の魔力に関する見立てで間違ったことはなかったため、素直に安心した。


「ほら、その証拠に。私達を恐れて、近付いてこないです」


 キッと軽く周りを睨むリエルに、トルスは先ほどまでうっすらとしか感じなかった気配が蜘蛛の子を散らすように逃げていくのを感じた。


「これは……行けそうだな」


 段々と不安と警戒心が薄れ、魔王城へ今すぐにでも乗り込みたい気持ちになってくる。


「あ、でも街を探して休みましょうよ。やっぱり一度きちんと準備はしたほうが良いと思うので!」

「……そうだね」


 と、先ほどまで頼りになる様子を見せたリエルがいつものように呑気な口調で一時休息を提案するので、毒気を抜かれた。

 ま、良いか。リエルの言うことも、もっともだ。魔界にちゃんとした街があるかは、甚だ疑問ではあるが。


 ◇


 街に向かう途中、殆どの魔族は逃げ出していたらしいが、たまに向かってくる凶暴なやつもいた。だが、トルスが聖剣を振るうまでもなく、リエルが先制攻撃で仕掛ける魔法の威力により、あっさりと倒れていくのだった。


「……すげえな、なんだかリエル、いつにも増して強くなってないか?」


 これが魔界の魔力の影響……という事か。


「そ、そうですね」


 だが、一気呵成に敵を倒したリエルは、少し苦しそうだ。軽く汗をかいて、頬は紅潮している。やはり、多少無理しているのだろうか?

 トルスは少し気がかりになり、リエルの様子を窺う。


(戦闘に……全く問題はないな。いつもより若干、光の攻撃魔法を減らして、炎や氷……超自然系の攻撃魔法を増やしてるが……)


 リエルは魔法を繰り出す度、少しずつ消耗しているように見える。いや、当然の事だが、その消耗の仕方がいつもと違うというか。魔力がからっけつになりそうな時の消耗と違って、精神的な疲弊を感じさせていない。

 むしろ……昂揚する気分を抑えきれずに、余裕がなくなっている……というか。


「な、なぁ。リエル、本当に大丈夫か?なんか、顔もいつもより結構赤くなってる気がするし、ちょっと休んだほうが良いんじゃ……」


 と、言おうとしてぎょっとなる。


「え?」


 リエルの頭に、何かうっすらと妙な影が見えた。


 トルスは目を疑い、パチパチと瞬きする。

 ……何もない。


「どうしたんですか?トルスさん」

「え?いや……」


 リエルの頭に、そんなものが見えるわけがない。疲れているのは、俺のほうだったのか。そうトルスが考え、これは早く街を見つけて休息しないとな……と思っていると。


「……見つけました!あれ、街ですよ!」


 遠くの方にポツンと、黒い影。どうやら、魔界にも本当にちゃんと街があるらしい。


「……魔族の店員相手にコミュニケーションを取る自信は、ないけどな……」


 よく考えてみれば、人間は魔族の敵である。そんな所に、呑気に休ませて下さい、なんて言って泊めて貰えるものだろうか?


「心配しないで下さい。変身魔法を使います」

「変身まで出来るのか?」


 もはやここまで来ると驚くに値しないとはいえ、リエルの多彩な魔法のバリエーションに舌を巻くトルス。


「街につく少し前に、誰も見てない場所で変身しましょう。魔族に擬態するのは、トルスさんは心苦しいでしょうが……」

「いいよ。この際、そんな些末な事を気にしていられない」


「良かった」


 リエルは何故かそこで、ホッと安心したような顔を見せるのだった。


 ◇


「……ああは言ったものの、自分の頭から角が生えて背中から羽が生えて……って、すごい違和感だな……」

「そうですよねぇ」


 リエルとトルスは変身魔法で魔族に偽装していた。

『聖女』たるリエルの頭に角が生えている図は、とてもシュールだった。自分だって『聖剣の勇者』なんだが、その違和感は段違いだった。


「あ、あんまり見ないで下さい……」

「ごめん。魔族に変身している姿なんて、まじまじ見られたくないよな」


 聖女と呼ばれて喜ぶ彼女が、偽装とはいえ魔族に変身している姿をジロジロ見るのも、デリカシーに欠けるな。トルスは反省する。

 リエルは恥ずかしそうにモジモジとしていた。


「とにかく宿を見つけて休もう。それから、魔王城への侵攻の作戦を立てよう」

「そうですね」


 とは言ったものの、トルスは少し不安を覚えた。


「……人間界の金、使えるのかな……」


 ◇


 結論から言うと、換金はできた。

 通貨そのものの概念がなかったらどうしよう、という心配は杞憂に終わり、貨幣の質や量などから判断して魔界における(この地域の)通貨と交換する、いわゆる両替商のような店があったのだ。


「お客さん珍しい通貨持ってんね。人間界のものじゃないか。強奪してきたのかい?」

「そんなところです」

「はいよ、これなら60,000 Dem(デモニー)だね」


 トルスは魔族との取引に嫌悪感を少し懐きつつ、魔界の通貨を手に入れた。


「これどんくらいの価値なんだ……?」

「お宿に行ってきましたけど、ひとり一泊が500 Dem(デモニー)だそうです。ご飯付きだと」

「じゃふたりで1000 Dem(デモニー)ってわけか」


 ご飯付きの情報はどっちでも良かったが。食えるのか?魔界の飯は。


「元々人間界から持ってきた通貨のManiel(マニエル)は50,000ほどだった。王都ベルロンドの一泊が確か、ひとり800Maniel(マニエル)ほどだったから……えっと」

「だいたい1.2倍ですか。でも、物価はあっちとあんまり変わんないですね」


 リエルは答える。

 トルスは暗算ができなかったので頷くのみにする。

 こちらの貨幣の1.2倍~1.25倍くらいの数字に上がっているが、相対的に得られるモノは人間界となんら変わらない、という事実に、トルスは妙な親近感を覚えてから、否定しようとする。


「魔族が人間と変わらない生活してるなんてな……なんだかなぁ」


「……彼らも人間と同じように、生きてますからね」


 リエルは少し寂しげに、呟いた。祖国を魔族に滅ぼされているというのに、リエルは魔族にさえ優しく出来るのだろうか……その底の深さの知れない器に驚嘆しつつ、トルスは話題を変える。


「それはさておき、宿で作戦会議するか。ちゃんと別々に取ったね?」

「もう~、1回だけの失敗を引っ張りすぎです!」

「ははは、ごめんごめん。そうだよな。言ってもリエルはそんなに何度も同じ失敗って、しないもんな」


「……そうですよ」


 リエルは膨れっ面から一転、何かを思って遠くを見つめたが、頭を撫でつつ笑うトルスは気付かなかった。

まちがいだらけのプリンセス、第8話です。


魔界到着編。

リエルの調子が何故か良くなったり、

そのお蔭で向かう所敵なしだったり、

魔族に偽装して魔界の文化に触れたり。


魔王城は、もうすぐだ。


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もし、本作品を少しでも面白いと思っていただけたら


☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると、モチベーションになります!


ブクマ・感想・レビューなどもお待ちしております!

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