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mistake7.コソコソ、何話してたんですか?

 シースを伴ってトルスとリエルは一度、山の麓の村へと下りた。

 そこで一晩ぐっすり休んで、シースには道案内をお願いする事にしたのである。


 翌日。


「お待たせしました、リエルさん、トルスさん」


 シースはゆっくり休めたようで(温泉にも浸かったと言っていた)、今日は元気そうであった。


「いや、大丈夫っす。俺たちも今、起きてきたところだし。な、リエル?」

「そうですねぇ、今起きてきたところですもんねえ、まぁ実は10分前くらいにですけどね!」

「何故わざわざそういう事を言う……」


 相変わらずトルスがシースと話しているとヤキモチでむくれるリエルだったが、そのたびにトルスは頭を撫でてなだめるので、シースも見ていて思わず『お安くないですね』、などと言ってからかうのだった。


「お2人はそういえば、どういった切っ掛けで旅をなされているのですか?」


 昨日はそこまで突っ込んだ会話はしなかったので、シースの興味本位の質問にリエルはすかさず答えた。


「私は『聖剣の守護者』で!トルスさんは『聖剣に選ばれた真の勇者』なんです!かた~い絆で結ばれた、こぃ……相棒なんですよ!」


 その肩書、むやみに他人に吹聴するもんでもないだろ……と気恥ずかしくなり顔を覆うトルスであったが、まぁ別に知られた所で害はないか。『誇大妄想か』『大袈裟な自称だ』『イタい』とかそんな感じで呆れられるくらいなら、まぁ……うん……と我慢する。

 ……いや、ていうかリエル、相棒の前、何を言いかけた?

 しかしシースはその説明にいたく感激したようで、


「まぁ、素敵。わたくしも神官の端くれですから、あなたのような心清らかな聖女と、聖剣に選ばれし勇者が共に旅をしているだなんて、神様の導きを感じますわ。まるで運命のようですわね」


 などと言うのだった。

 それを聞いてリエルは満足したようにドヤ顔になり、それから少し恥ずかしそうに言った。


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう……せ、聖女……って呼ばれるのは、照れますが……」

「自分からそう名乗ったんじゃないか……主張したいのか謙遜したいのかどっちなんだよ」


 照れながら「うんめい……」などと呟いて恍惚としているところを見ると

 聖女云々よりも『運命のよう』などと言われたほうにこそ、むしろリエルは大いに照れているようだが。


 ドヤったり照れたり恍惚としたり、百面相を繰り広げるリエルを置いといてトルスはシースに尋ねる。


「……んで、肝心の魔界への入り口なんすけど」

「あぁはい。そうでしたね。昨日お二方に助けて頂いた場所から、それほど遠くないとは思います。何せ、同じような場所をグルグル回っていたようですから……」


 やはり、リエルの読み通り道に迷わせる何らかの結界があったのだろうか。

 そうなると、すぐに見つけるのは難しいかもな……とトルスが思案していると、リエルは言った。


「それなら、大丈夫ですよ。シースさんの歩いた痕跡をトレースすれば良いんです」

「……そんな魔法も習得しているのか」


 改めて、リエルの使用可能な魔法の範囲の広さに驚くトルス。


「色々勉強しましたから」


 ここはリエルに道案内を頼むとするか……ん?


「じゃあ、シースさんにグレイマウンテンまでついてきて貰う必要って」

「いえ、それはあるんです。シースさんの存在と、歩いた痕跡をきちんと照合しながら追跡魔法を継続してかけ続けないと、トレースできませんから」

「そういうもんなんだ……」

「探索・走査系魔法の原則です」


 にこりとリエルは笑って説明する。トルスはリエルの知識に改めて感服する。

 そして、シースに向き直って言った。


「……じゃ、そういう事らしいので。お手数ですがもう暫く同行をよろしくお願いします、シースさん」

「いえいえ、こちらこそ。……リエルさん、きっとお邪魔でしょうけれど、これも恩返しのため。わたくしも同行させて頂きますわね」

「べ、別にお邪魔とかそういう事は」

「ふふふ」

「ははは、はぁ……」


 傍から見ていて分かりやすすぎるリエルの動揺に、トルスと同様、シースも生暖かい目で見守る事しかできないのだった。


 ◇


「……近いですね。昨日シースさんと出会った場所から、ほんの数十分くらいの位置のようです」


 シースと出会ったグレイマウンテンの中腹ほど、森の中に到着してしばし追跡魔法を発動させていたリエルは、そう呟いた。


「それほど遠くはないとは言いましたが、本当にそんなに近くでしたのね……」


 シースは驚く。リエルは説明する。


「……かなり強力な『幻惑の結界』が張られています。シースさんが辿ってきた痕跡がなければ、私達も同じように永遠に惑わされていたかも」


 トルスはそれを聞いて得心したように頷く。


「偶然とはいえ、シースさんのお陰でお互いに助かったって訳だ」

「ですね」


 リエルも同意する。


「怪我の功名……いえ、やはり神様のお導きなのでしょう。魔王グレイファーを『聖剣の勇者』と『聖剣の守護者たる聖女』が打ち倒す、その運命の軌跡に、一介の神官たるこのわたくしがひとつの道標となれたこと、光栄に思いますわ」


 神官らしく神への信仰心を語るシースに、リエルとトルスは照れる。


「……見つけました。ここから先は、もう大丈夫です、シースさん。行き先はマークしました」


 どうやらリエルが道筋を完全に把握したらしく、シースを促した。


「良かったですわ。では、わたくしはこれで……」


 トルスはぺこりとお辞儀する。


「ありがとうシースさん。助かったよ」

「いえ、そんな。……トルスさんと、リエルさんに、神様の御加護がございますよう……」


 シースは十字を切り、祈った。

 その瞬間、トルスの手のひらがまたチクリと傷んだ気がしたが、森の中には虫も沢山いるので今度は気にすらしなかった。

 そしてシースが下山するのを途中まで見送ろう、とトルスが言おうとしたが、シースに遮られた。そして、ボソボソと耳打ちされる。


「……トルスさん。あなたは気付いてらっしゃるのでしょう?リエルさんのお気持ちに」

「え?ええ、いや、まぁ……その……」


 それを何と呼ぶべき気持ちなのかは、リエルにはまだハッキリと訊いていないが……恐らくは。


「目を離しちゃ駄目ですよ。あんな良いお嬢さん、今時どこにだっていませんもの」

「それは……そうっすね。はい、肝に銘じますよ」


 苦笑して、シースの言葉を心に刻む。


「それでは。魔王討伐の旅、無事終えられることをお祈りしております。そして、いつかまたお会いできると嬉しいですわ」


 にこりと笑って、シースはトルス達に別れを告げるのだった。


 ◇


「……シースさんとコソコソ、何話してたんですか?」


 どうやらしっかりと見咎められていたらしく、嫉妬でムスーッと膨れるリエル。


「何でもないよ。旅の無事をお祈りします、とかなんとか」


 流石にリエルの気持ちについて考えろと釘を差されたなどとは言えない。折を見て……いや、魔王を討伐できたら、その時にしっかりと告白しよう。

 トルスはそう考え、適当に誤魔化す。


「む~、怪しいなあ。そんな事だったら、コソコソ話さなくて良いじゃないですか。そういえば、最初に会った時からトルスさん、彼女に好意的でしたもんね。やっぱり神官とか、清楚な感じの女性が好きなんですね~。ふーんだ」


 それを言うならリエルの雰囲気も十分それっぽいと思うが……

 仕方ない。こうなったリエルに、言葉で何か言っても無駄だ。奥の手を使おう。


「ごめんごめん、シースさんとは本当に何にもないからさ。機嫌直してくれよ」


 なでりなでり。

 優しくリエルの頭を撫で、なだめる。


「ふわぁ……もっと撫でて下さいぃ……」


 と、いつものごとくリエルはトロンと恍惚の表情になり、えへへぇと甘えた声を上げるのだった。


(そういえば、リエルの頭撫ですぎて手のひらにリエルの香りが……)


 いつも自然にこうしているから気付かなかったが、トルスは不意に手のひらを見つめてそんな事を考えてしまう。


「……」


 一瞬だけ匂いを嗅ごうとしてやめる。変態か。

 ―――と、そこで気付いた。


「……あれ?」


 手のひらの、恐らくはリエルの髪や肌に触れた箇所……と思われるところが、わずかに。

 ほんの僅かに、黒く滲んでいるように見えた。それは、奇しくも王都の教会や、今しがたシースと別れ際に感じた微かな痛みと同じ箇所のように見えたが……


「……気のせいだよな」


 茫洋とした不吉な感覚がトルスの胸によぎる。しかし、手のひらの微かな痛みやアザなどこれから魔王討伐に向かう事に比べれば些末な事だろう。

 胸に浮かび上がった違和感を押し込め、トルスはリエルと共に魔界への入り口へ向かうのだった。

まちがいだらけのプリンセス、第7話です。


いざ魔界へ、そしてリエルの嫉妬その2です。

最初はこのエピソード挟む予定なくていきなり魔界行くつもりだったんですけど、ラブコメ書いてて嫉妬シーン少ないのって寂しいな~って思ったからか、筆がノっちゃって追加されたエピソードって感じです。


そんでもって物語は折り返し地点。何やら不穏な空気が……。


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