mistake5.平和な時に気を抜いて何が悪いんですか~!
温泉宿でなんとも気まずい状況になりつつもゆっくりと体を休められたトルスとリエルは、翌日になってから村人に魔王城の場所について何か知らないか、と尋ねて回ることにした。
「なに?魔王城を探しておるじゃと?やめなされ、山には近づかんほうがええ」
「魔王城?あぁ、山の奥にあるって噂だが……おっかなくて、近づけないよ」
「おにいちゃん、ゆうしゃなの?かっこいい!」
「げへへ、ねえちゃん良い身体してんなぁ」
「婆さんや、飯はまだかいのう」
「にゃーん?」
トルスとリエルはめいめい散らばって村の人々に情報を聞いて回るが、ろくな情報が出てこない。
「……疲れた」
……いや、なんで猫に話しかけているんだ、リエル。あ、うんうん頷いてるし。
と、そこでトルスとリエルは合流した。
「あっ、トルスさん!そっちはどうでした?」
「収穫なし。本当に魔王城が近くにある村とは思えないくらい、穏やかだし……『山には近づくな』以上の情報がないよ」
そう言って脱力するトルスを前に、腕組みをするリエル。しばし思案し、
「うーん、魔王城なんて本当にこの山にあるんでしょうかね?」
リエルはそんな事を言い出す。
「えぇ……根本的な事じゃないか。なかったら、魔王は何処にいるっていうんだよ」
トルスはもっともな疑問を呈する。
しかしリエルは答える。
「いえ、もしかしたらなんですけど、魔王城ってこの世界じゃなくて、例えば魔界にあったりするんじゃないかって」
「魔界?」
それは、確か魔族たちが住む世界……だったか。
トルスはあまり学があるほうの勇者ではないので、詳しいことは知らないが…
イメージとしては、マグマの海、真っ暗な空、淀んだ空気、全土が枯れ果てた不毛の大地……って感じ。
「魔界ってそういう土地じゃないですよ!」
リエルはすっぱりと言い切る。
「え?なんでそんな事知ってんの?」
トルスは普通に疑問に思い、それに対してリエルは少し躊躇いつつも、答えた。
「え、ええと。魔族の特性とか、生態について調べたことがあるんですよ。
彼らも人間と同じように、こういう住みやすい世界を好むんです。
それで、魔界というのはこちらの世界と違って確かに住みにくい、らしい、んですけど……少なくとも、私の調べた書物に書いてある限りではマグマの海とかありませんし、全土が枯れ果てた、なんて記述はありません。
まぁ要するに、デマですね」
「そうなんだ」
人間が魔族に対して抱く恐怖が生み出した風評被害……といったところなのだろうか。
それにしても、と。トルスは滔々と語るリエルの博識っぷりに感服した。
「リエルは物知りだなぁ。偉いなぁ」
なでなで、と恒例のやり取り。えへへと照れながらにこにこするリエル。
ただ、リエルはいつもと違って何故か少し気まずそうな顔をしていた。
「……でも、魔界にあるんだとしたら、どうやって行けば良いんだろうな。それに、なんでこの山に魔王城があるなんて噂が立つんだ?」
トルスは疑問に思うが、それを受けてリエルは答えた。
「多分なんですけど、山の何処かに魔界への入り口があるんじゃないでしょうか。
魔界への入り口って、結構色んな所に開いているらしいんですけど、やはり魔王の居城となるとそれなりの霊格を持った土地や地脈の流れとかが重要で、魔王城への扉を開く事が可能な場所
……それがこのグレイマウンテンなんじゃないでしょうか」
まぁ、推測ですけどね、と最後に付け足して。
「なるほど。だから魔王城があるって噂が立つと。それなら納得だな」
トルスは頷く。
と、そこで重要なことに気付いた。
「……俺たち人間って、魔界に入れるの?」
リエルは困ったような顔をする。
「う~~~ん……前例を知らないので、なんとも……ただ、先程話した魔族の生活環境の関係を考えれば
……無理じゃないとは思いますよ」
人間と同じく、住みやすい世界を好む、か。
「……俺の故郷を滅ぼした魔族共の生態なんて、知りたくもないけどな」
ぼそっと、トルスが呟いたその瞬間、リエルは苦笑いする。
「そうですよねぇ」
◇
「じゃあ、魔王城『そのもの』を探すより、『魔界への入り口』を探すって方向に捜索を切り替えるか。
俺、魔法あんまり得意じゃないから、そういう魔力の特異点みたいなのを探すの、不得手なんだけど……大丈夫かな」
「あ、大丈夫です。その辺りの探査役は、私が担いますから。
トルスさんは、探査で夢中で無防備になっている私の護衛をお願いしますね」
2人の行動方針が固まる。
「なるほど、いつも通りだな」
トルスは納得するが、その言い方にリエルはムスッとなる。
「なんですかぁ、私がいつも無防備みたいな言い方して」
トルスは苦笑する。
「その通りじゃん」
「私、戦闘ではちゃんとアシストしてるじゃないですかぁ!」
トルスは頷く。
「戦闘ではね。なんか、リエルって非戦闘みたいな状況だと、気が抜ける所あるだろ。食料調達とか、街で歩いてる時とか、
……なんつーか、平和な時」
「平和な時に気を抜いて何が悪いんですか~!」
リエルはぷんぷんと憤り、正論を返す。
「ま、それもそうか」
ごめんな、とリエルの頭をぽんぽんと軽く叩き、トルスは謝った。
「分かれば良いんです!」
久々にドヤァ……と背中を反らして胸を突き出すリエル。
ただでさえ豊かなお胸が強調されるそのポーズやめようよ、ってちゃんと言ったほうが良いのかな……とトルスは恥ずかしくなり目を背けた。
そして気合を入れ直す。
「よし、行くか!」
「はいっ!」
いざ、魔界への入り口を求めて。
勇者一行は一路、グレイマウンテンへ!
◇
トルスとリエルが魔王の居城があるとされるグレイマウンテンを登り始めて、約半日が経過した。
「わはははは!よくぞここまでやってきた、勇者よ!」
「我々は魔王軍四天王!貴様の命も、ここまでよ!」
「ククク……俺は四天王の中でも最強……」
「さぁ、かかってくるがよい!」
……などという展開は待ち受けておらず。
「地味だな……」
「地味ですよ」
トルスは山の探索を続けるリエルを護衛しながらぼやいた。
リエルは魔界への入り口を探すための探査魔法にほぼ全神経を集中させているので、いつもの小気味良い返しはなかった。
「正直、魔王軍四天王みたいな奴らが待ち受けてて、魔界への入り口を防衛しているみたいな展開があると思ってた」
別に期待していた、という訳ではないが。
拍子抜けしているのもまた、確かである。
「……ふぅ。
仮に魔王軍の四天王なんてのがいたとしても、普通は城の結界の起点とか、入り口の門とか、いっそ城の中枢を守っているのが定番じゃないですか?」
集中が途切れたのか探査魔法を一区切りさせ、リエルがそんな事を言う。
「定番を知らなくてごめんな。無学なもんで」
「別にそんなに卑屈にならなくても」
トルスのそんな様子に苦笑して、リエルは言う。
これまで旅してきて流石にトルスは、リエルにそういった『知識量』みたいな部分では到底敵わないという事に気付いている。
ゆえに、浅学非才の身をはっきり突き付けられると立つ瀬がない、という訳である。
「まぁ、それはさておいてさ。実際、どうなの?気配とかも全然感じない辺り、山そのものが外れ……ってことは」
「う~~~~ん。今の所は魔界への入り口らしき痕跡は何処にもないですね。山の麓から中腹へ向けて徐々に円を描くように歩いているつもりですが」
リエルはお手上げ、という風だった。
「居城があるとしたら、魔界への入り口への道筋そのものに迷わせる魔法結界が張られていても不思議はないですね……」
「それじゃ、今歩いてるこの道がそもそも惑わされてる可能性もあるのか……」
トルスは地味で緊張感がない、などと思っていた自分の甘さを痛感しつつ、周りへの警戒は怠らない。サボっているわけではないのだ。
「でも、敵の気配はやっぱり魔界への入り口と同じく、全然感じないな……」
「ですよね。いま私も集中解いて気付きましたけど、殺気を全然感じませんね」
リエルも普段より鋭敏な感覚になっているのか、殺気を感じる・感じないだとか言い出す。
珍しい事もあるものだ……とトルスが思っていると、ガサリと音がする。
「!」
リエルもその音に気付く。
こちらを意識した音ではないので、野生の獣か魔物だろうか……
トルスは油断なく聖剣を構え、リエルは攻撃・支援魔法のいずれを唱えるかを思案する。
しかし、そこに現れたのは―――
「うう、だ、誰かそこにいるんですか……?助けて……おなか、空いた……」
ぼろぼろになった旅の神官と思われる女性が、ふらふらと姿を現し、そして倒れた。
まちがいだらけのプリンセス、第5話です。
到達した村から、所在不明の魔王城へ向けて『魔界にあるんじゃ?』と推測し、
いざグレイマウンテンの探索に!現れた女性は一体何者なのか……?
ってな所で引きです。
魔王の城がどこどこにあるって噂だけは流れてくる、でも
具体的な所在が不明……ってのはよくある話ですね。
順当に考えれば魔法で隠蔽されているか、異次元にあるか……みたいな所だけど、はてさて。
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