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mistake4.温泉湧いてるんですね、この村!

「魔王城なんて影も形も見えないな」


「ですねえ」


 トルスとリエルは『ドラゴンの道』を乗り越え、魔王城のあると噂される中央大陸に乗り込んでいた。

 そしてすぐに見えた『険しい山』だが……流石に麓からでは『山上にでっかい城がデデーンと屹立している』なんていう分かりやすい居城を構えている訳ではなさそうだ、という事だけは分かった。


「とにかく、近くの街か村で休憩するか。そこで情報を集めよう」

「そうですね。中央大陸は魔王の支配が強く及ぶ地域ですから、見つけてもマトモな生活を営めているかは疑問ですが……」


 意外と情報通のような事を言うリエル。


「なんだ、中央大陸の様子も王都で聞いたのか?」

「まぁ、そんな所ですね」


 トルスは感心した。自分はそこまで聞き込めてなかったので、リエルの情報集めの手腕に、素直に尊敬の念を抱いた。


「偉いなあリエルは。よしよし」

「えへへ……って、尊敬してる感じの態度じゃないですよ~それぇ」


 と言いながらも、頭を撫でられるのが好きなリエルは、にこにこと笑顔になってしまう。トルスもこの恒例のやり取りが、つい癖になっている。


「しっかし、そうなると野宿が増えそうだな。大丈夫か?リエル」

「私、野宿辛いと思ったことないですよ。ふかふかのベッドのほうが、そりゃあ、ありがたいですけど」


 そう言えば、自分に会うまでは女性一人旅だった割に、リエルは野宿には手慣れているようだった。魔物の対処は知らんが、割とそういう所、図太いのかも知れない。


「へぇ、じゃあ安心だな」


 とは言っても長旅でお互い疲れているだろう、とトルスは気にかけていた。

 なるべく宿に泊まれると良いな……と思い、『険しい山』の周りをぐるりと一周してみることにした。


「結構な大きさだよな。この山も」

「世界最高峰じゃないですか?」

「そういえば、名前ってなんていうんだ」

「グレイマウンテンです。魔王グレイファーの名を一部冠しているという事でしょうね」


 さらりとリエルは答えた。

 なんだ、そんな事も知ってたのか。


 目的地の名前を意識する必要は別になかったので話題にも出していなかったが、リエルはそこも聞き込みしていたという事か。

『あの夜』もそうだったが、抜けてるようで結構、頭が良いというか。

 細かい事に気を配るんだよな……と、『あの夜』の出来事を思い出して気恥ずかしくなりつつも、トルスはリエルの聡明さに感心するのだった。


「あっ、見て下さいよトルスさん。村、ありました」


 どうやら、2人の進行方向には小さな村があることに気付く。


「本当だ。……村人は無事なのかな」

「どうでしょうね。魔王の本拠地の山のすぐ近くですし、確認してみないと」


 2人は暫く歩き、村に近付いていくにつれ、心配が杞憂である事に気付く。


「……人の営みの匂いがする。家屋も破損していないみたいだし、チラホラ人影も見えるな」

「本当ですね。これは大丈夫かも」


 トルスとリエルは安心する。

 今夜はちゃんと、宿で眠れるかな。トルスは内心、リエルの身体を気遣いつつそう思った。


 ◇


 ようこそ、グリモル村へ……そう書かれた看板を横目に、トルスは村へ入る。


「活気がある。なんだ、魔王の支配地域にしては、随分穏やかじゃないか」

「魔王もこんな小さな村ひとつのために軍を出そうとは思わないのかも知れませんねぇ」


 リエルは妙な視点から、実にもっともらしい事を言う。トルスは納得する。


「そりゃそうか。小さな村を襲っても、メリットが薄いもんな。人間の国だって、軍を動かすと金がかかる。……魔族の世界もそうなのか?」

「……どうでしょうねぇ~……うーん。魔族の世界にも金銭で人やモノを動かすという価値観があるのかは疑問ですが、生物である以上は何かしらの対価を頂かないとやる気は出ないでしょうね、きっと……」


 リエルは思案しつつ、そう答える。そりゃあそうだな、とまたもトルスは納得した。


「ま、それなら好都合だ。安心して滞在させて貰おう」

「そうですね」


 そう言って、トルスとリエルは宿へ向かった。

 そこでトルスとリエルは気付く。宿の通常の看板に、湯気が立つようなマークを併記したものがぶら下がっている事に。


「温泉宿ですよ、トルスさん!温泉湧いてるんですね、この村!そういえば遠目で見たときに湯気が立っているな~って思いました!」

「魔王の山って活火山なの?その恩恵ってこと?」


 リエルは嬉々としていた。どうやら、お風呂は好きらしい。

 トルスは魔王の根城の近くなのに、何だか牧歌的だなぁと気が抜けてしまう。


「いやぁ~、野宿が辛いとは思いませんけど、やっぱり女の子ですからね!お風呂に入れるのは嬉しいです!」


 そう言うとくんくんと自分の身体の臭いを気にするリエル。

 ……そりゃそうか。水浴びだけで何日も過ごしてたらな。


「ん、それじゃあチェックインしたら温泉入ってくるか」

「そうですね~!のんびりしましょう!」


 いつになくワクワクしているリエル。

 トルスもそんなリエルを見て、嬉しくなる。


 しかし、すぐにトルスは後悔する。

 なぜなら―――


 ◇


 かぽーん。


「混浴じゃねえか」


「混浴露天風呂ですね……」


 チェックインを済ませ(今度はちゃんと2部屋に分けて取れた)、いそいそと2人して温泉に向かったが……

 服を脱ぎ、いざ温泉へ入ろうとした瞬間に気付いた。


「えー……またこういう……」


 トルスはうんざりする。

 リエルとこういう感じの展開になるのは、正直つらい。

 旅の仲間として純粋に大切に思っているのに、むやみやたらと性欲を刺激するような出来事が起きると(身体は別として)精神が疲弊してしまう。


「あ、トルスさん。お腹、見ないで下さい」


「見ないよ!?別にお腹に限らず見ないけどね!」


 リエルは恥ずかしそうにサッとタオルでお腹を隠す(もっと隠すべき2つの果実は何も隠さずぶらんぶらん下げてて、彼女の羞恥心の基準が分からん)。

 トルスは一瞬、視界の端に見えてしまったリエルの魅惑的な裸体を脳裏から掻き消すべく、必死で祈る。


「まぁ……、じゃ、入りましょうか」


 こういう状況では割と冷静なリエルに、トルスは戸惑ってしまう。

 恥ずかしくない訳じゃないと思うんだが、自分だけが舞い上がってるようで、なんか辛いと思う。


「……うん」


 2人はなるべく離れてかけ湯をし、身体を軽く洗い、やがて温泉へと入る。


「うあ~~~~~気持ち良い~~~~~~温泉さいこぉ~~~~~~~~♪」


 間の抜けた声を出すリエル。


「あぁ……旅の疲れが癒えていくな……」


 トルスもゆっくりと、温泉に浸かって身体の疲れを癒していた。


「……こんな風にゆっくりできるの、後もうちょっとかもですね」


 リエルはそう言う。

 魔王の本拠地に近付いているから、それはそうだろうな、とトルスは思った。


「まぁ、でも魔王を討伐して世界が平和になったら、いくらでもゆっくりできるさ」


 トルスは自信たっぷりに、リエルにそう告げる。

 リエルはしかし、疑念の混じった表情でトルスのほうを見る。


「……魔王を倒せるって、思いますか?トルスさんは」


 リエルの不安そうな顔を見て、トルスは力強く、重ねて言った。


「リエルがついていてくれる限り、俺、無敵って気がするんだよ」


 そう言って、ガッツポーズを取る。

 そして、感慨深げに言う。


「ほんと……リエルがいなかったら、多分いまごろ俺はあの下級魔族(レッサーデーモン)に殺されて……魔王討伐の道半ば、無念に死んでたわけだし…。

 それに、リエルの託してくれた聖剣の力と、リエルの魔法のお陰で、ここまで難なく進んでこれてさ。

 リエルがいるからこそ、俺は生きていられるんだ。本当にありがとう」


 衒いなくリエルに感謝の意を表明するトルスに、リエルは気恥ずかしそうに頭をかいた。


「……そんな。私なんて、ただ祖国の国宝を持ち出して、たまたまトルスさんが危ない所に居合わせただけで…………」


 それから、何かを言おうとして、黙る。


「リエル、これからもよろしくな」


 トルスはその沈黙に被せて、リエルに言う。


「……はい。ずっと」


 リエルは湯気でトルスからはよく見えない表情の奥で、少しだけ、ほんの少しだけ悲しげに微笑んだ。

まちがいだらけのプリンセス、第4話です。


温泉回!です。

『アニメのシリーズ構成っぽく』を強く意識したお話なので、お約束は入れていきますよ~。


また、この連載はRPG的に言うとかなり終盤戦に近いところから始めてるので

(長く続けるとエタりそうで……)こういう会話があったりします。


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もし、本作品を少しでも面白いと思っていただけたら


☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると、モチベーションになります!


ブクマ・感想・レビューなどもお待ちしております!

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