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7.え、魅惑の魔法??

「誰かとお間違えになっているのではないですか!?」


 エルミアはヴィルの腕にとびつくや、金切り声を張り上げた。


「この者は卒業生のなかで最も弱い、いえ、学校創設以来の劣等生ですよ! ヴィル様は以前おっしゃっていたじゃないですか――”強い女性が好き”だと……この学校で最も優秀なのは私なんですよ!」


「……この学校で一番優秀?」


 エルミアの言葉に、ヴィルは怪訝に眉をひそめた。


「おかしいな、どう見たって俺には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な……!?」


 突きつけられたヴィルの言葉に、エルミアは目を見開いた。


「この落ちこぼれが一番強い……!? こんな劣等生が……!? 私よりも強いっていうんですか!?」


「一回視野を広げてみろ。自分がいかに弱いかわかる」


「ヴィル様ご存じでしょう!? 私は学生身分で史上初めて二等級を与えられたんです! その私が等級無しより弱いって言うんですか……!?」


「そうだ」


「……」


 何度抗議しても頑として変わらないヴィルの答えに、エルミアは顔面を引きつらせ唇をかんだ。その鬼のような形相が、ぎろりとリリナに向く。


「そう、そうなのね……わかったわ……! あなた、禁術に指定されている魅惑の魔法をかけたわね……!」


「みわ……は?」


「私はだまされない。ヴィル様は言っていたもの……”強い女性が好き”だって! そのヴィル様が、あんたみたいな落ちこぼれにいきなり結婚を申し込むだなんておかしいでしょう」


「それはまあ……」


「等級無しのくせしてそういうずるい手だけは使えるのね……でも、私の目はごまかせない。あんたが”強く”て私が”弱い”と言い出すだなんて……今のヴィル様はとても正常状態とは思えないわ」


 瞳を憤怒に燃やすエルミアは、とんでもないことを言ってきた。




「私と勝負しなさい」




「へ?」


「魅惑の魔法を打ち破るのは真実を見せること……! 徹底的にたたきのめしてやる……!」


「ちょ、なんでそうな――」


「我が呼びかけに応え、魔界より出でよ! 魔焦土の土人形(レッドゴーレム)!」


 慌てるリリナの言葉を遮り、エルミアが右手をかざして鋭く叫んだ。瞬間、校庭のど真ん中に、巨大な魔方陣が形成される。


「! 召喚魔法……!」


 カッと昼間でもくらみそうな強い発光とともに、複雑に織りなされた魔方陣の中心から、赤い頭がせり上がってきた。


 それは肩、腕、胴体と徐々にその全貌を露わにしながら、高く高くせり上がっていく。やがてずん! と地響きとともに校庭に降り立ったのは、全身から熱い湯気を立ち上らせ、見上げるほどに巨大な、赤い土人形だった。


 オォォォォオオオオ……!


 叫び声だけでびりびりと大気が震えた。彼の踏みしめる校庭からは土を焦がす匂いと蒸気が立ち上り、一歩踏みしめるごとに、校庭が不毛の大地へと化していく。


「す、すげえ、魔界からの召喚……!?」

「離れてるだけでも熱い……! こんなん一発でもくらったらおだぶつだぞ!」

「魔界の【現象】ではなく【物質】を喚び出す高位の召喚魔法……! 優秀な魔道士でもこのレベルまで到達するのに長い年月を必要とするのに……素晴らしい! さすがだ、エルミア・アスノッド」


 卒業生たちがざわめくなか、一等級魔道士のゼスタも興奮を隠しきれない様子で叫んだ。


「ふふ。驚いたかしら。魔界の土でできたゴーレムよ。魔界の焦土は全てを焼け焦がし、ドラゴンすら焼き尽くす……! 下級魔法じゃかすり傷一つつけられないわ!」


「……いやそれはいいんだけど……」


 皆が魔道ゴーレムに目を奪われるなか、リリナは中庭に立つ外時計をチラリと見た。首都を目指して出発する予定だった時間はとうに過ぎていた。これ以上遅れれば日暮れまでに近くの宿場町にたどり着けず、日程を延長することになる。


(早く首都に向かいたいのに……!)


 なんでこんな面倒なことになっているんだ。リリナは胸にうずく焦燥感とともに奥歯をかみしめた。


「……急いでるってのに……なんでこんなのと戦わないといけないのよ……!」


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