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序章

「くそ、やるしかねぇ!」


生茂る木々。漂う霧。

ここはウォーレン樹海。駆け出し冒険者である俺たちには少し危険な場所だ。

冒険者になりはや2ヶ月。新人がまず訪れるフラ草原での狩りに慣れを通り越して飽きが来たので、そろそろステップアップしよう!と意気込んで飛び出す所までは良かった。


だがメンバー全員が訪れた事がない場所なのに、大して調べて対策を立てることもしなかったので、ただ今絶賛遭難中である。

そんな中現れた狼型のちょっと強いモンスターであるガオウルフが3匹現れた。


逃げようかと思ったがガオウルフは耐久、攻撃共に大したことは無いが素早さが早いのが特徴と本に書いてあった。


攻撃が大したことはないとは言えど噛まれれば勿論痛い。

他の同期は1ヶ月でフラ草原を去る程なので俺たちのパーティーはこの森も快適に戦えるレベルには到達しているはず…。

ならば戦っても大丈夫なはず。



俺らのパーティ構成は前衛を張るタンク兼アタッカーの戦士クスカ、後衛火力の魔法使いメイ、そしてその2人を支援する支援魔法使いである俺ドーイの3人だ。

俺たち3人は冒険者養成学校でトップクラスの実力を誇る。その中でも俺はかなり希少でチヤホヤされた。

というのもこの世界で補助魔法を使えるものは割と珍しくはないが、圧倒的に種類が少ない。

そんな中で新しい、認知されている補助魔法の上位互換である魔法や新しい補助魔法の開拓など俺にしか出来ない支援魔法がかなり多く、支援魔法使いの頂点に達していると言っても過言ではないはずだからだ。


今も研究を怠らず、冒険者界隈では将来をかなり期待されている。

しかし、そんな俺には重大な欠点があった。



ガオウルフとの戦闘が始まるのだから、勿論俺の仕事は味方にバフをかけることだ。

早速魔法を使おうとするのだが、そうすると他の2人が大爆笑して勝負にならない。


なぜなら、俺は変な踊りや、変顔をしなければ補助魔法を使えないのだ。


曰く「クソださい」


「慣れれば笑うことなんてなくなると思ってたけど、いつ見てもクソださいから我慢できんwはははははw」


「ふ、ふふ…だっ、ダメなのに…何でこんなににやけちゃうんだろ……魔法使えない…ふっ…ふふ…」


「ギャオッ!ギャオッ!ギャオオーン!」


大笑いしている2人と腹をこちらに見せて左右にごろごろしているガオウルフ3匹も笑っている、のだろうか…。


戦闘が起こる前に味方も相手も腹を抱えて笑い、満足してモンスターが去っていくので戦闘が始まらない事も稀に、ある。


クスカとメイにかけた最高峰の支援魔法は今日も無駄に消え、笑い疲れ満足したのかガオウルフは何故か森の出口に案内してくれた。なんだかんだで無事に今日は終わった。

結果的に良かったからいいけど…

……俺、どこで道を間違えたんだろう……。




「ドーイの支援魔法って、実は笑わせる効果がメインスキルなんじゃない?」

メイは至ってまじめな顔で切り出した。


次の日、もう一度ウォーレン樹海に行く前に作戦会議をしようという事で集まった。

そこでいきなりそんな事を言われたら黙ってはいられない。


「おいおい、昨日かけた補助魔法はすごい魔法なんだぞ!体力、攻撃、防御を2倍にする最新の魔法だぞ!笑わせる効果なんて1つもない!」


「そんなすげー魔法だったのかよ!でもよ、あんなダサい踊りみて笑わない方がムリってモンだ。笑わない方がドーイに失礼だw」


「今の発言の方がよっぽど失礼だ!!」


「落ち着いてドーイ。でも相変わらずすごいわね。防御をちょっと上げるとかの次元じゃない。

あなたがいれば死ぬ事はほぼないんじゃないかしら。回復魔法も超一級だし。」


「まぁ、回復も支援だしな。魔法式構造さえ理解すれば応用も容易い。回復魔法界の頂点に立つ日も近いかもな!」


「流石ドーイだぜ。アタシ的には笑いの頂点の方が似合ってるけどな!」


「く、クスカ!俺は笑いなんて求めてない!!」


「はいはい、2人とも。樹海について相談しましょう。とりあえず昨日視察してみて、準備さえ怠らなければ問題無さそうだったからギルドでクエストを貰ったわ。ウォーレン樹海の奥の方に生えてるモチモチキノコを採ってくるクエストよ。モンスターを狩るわけでもないし危険は少ない。私たちにはちょうどいいと思うけどどうかしら。」


「ああ、すごくいい!流石メイは仕事が早い。」


「メイとドーイがいいなら問題ないよ!んじゃ各自準備して、1時間後ここにまた集合する感じでおっけー?」


「ええ、では1時間後。」


「おう。」


茶化してきたりはするものの、クスカもメイも優等生なので真面目になると事がスイスイ進む。

お陰で冒険で困った事はない。

一旦家に帰り、準備して再びウォーレン樹海にやってきた。


前回の反省を活かし、松明を用意した。これで霧による視界不良は若干改善するだろう。

そしてマップもギルドに置いてあったので購入した。

マップといってもとてもざっくりしたものではあるが、今回の目標であるモチモチキノコのおおよその生息地がちゃんと記されていた。

「モチモチキノコは結構奥地にあるみたいね。休憩も挟みつつ慎重に進みましょう。」


「今日は霧薄いしバーっといってどーんと終わらせられそうじゃない?」


「あんたみたいな体力バカと華奢な魔法使いを一緒にしないでよ。しかも途中でボスモンスターとも出会う可能性があるんだからね!」


支援魔法と一括りにしてはいるが実際にはかなりの種類の魔法がある。その中の1つに探索魔法もあり、俺は今それを使って半径300m以内にモンスターが接近すれば感知できる。

しかし魔法を使う為には口をおちょぼ口にせねばならず、さっきからマップを見て考えるフリをしながら口に手を当てている。

なので先頭に立ち、先導しているのだ。

支援魔法使いなのに戦士より前に出ているなんて違和感しかないし、下手すれば戦士職の者に怒られる可能性すらある。

しかし2人はおしゃべりに夢中で何も言われる事はなかった。

しばらく歩いていると小川が見えた。


「ちょうどいい、あそこで一旦休憩しよう。」


「ふぅ…やっと休めるわ…。あとどれくらい?」


「もう少しだ。一気にキノコの場所まで行ってもいい位だけどお腹も空いたし休もう。」


「おーし、お昼お昼ぅー!メイ、メイ!」


「どうどう。落ち着いて。はい、2人とも、おにぎりどうぞ。」


メイがリュックからおにぎりを出す。毎度冒険に出かける時はメイが全員分のおにぎりを作ってくれるのでみんなそれを食べる。

とても美味しいのでお昼は至福の時間である。


しかし今日はいつものフラ草原ではない。

食事中も感知魔法を途切れさせる訳にはいかない。離れたところで食べよう。

感謝の言葉を述べつつメイからおにぎりをもらい、2人から少し離れたところに後ろ向きに座って食べ始めた。

しかしメイはずっと口に手を当てて歩いていた俺を不審に思っていたのだろうか。


「ねぇドーイ体調でも悪…ぶふっ!」


いつの間にか後ろに近づいて様子を伺おうとしていたメイが顔を覗き込んできた。

み、見られたっ…!おちょぼ口でおにぎりを食べている姿を…!


「いや、違うんだメイ!これは探知魔法を使っていて!」


「ふふ…う、うんそうだよね。流石ドーイだわ。じゃあ私はあっちで食べてるから…。」


またやってしまった…。実を言うと俺はメイの事が養成学校時代から好きだった。

卒業にあたってメンバーを決める際、思い切って声をかけて参加すると言う返事をもらった時は天にも登る嬉しさだった。しかしメンバーになって冒険をするようになっても、いつも笑われてしまう。

昔から仲の良かったクスカにすら堂々と魔法を使う姿を極力見せたくないのにメイの前では尚更だ。

できる男アピールとは程遠い。最高の魔法を見せれば見せるほど評価が落ちていく自信しかない。

どうにかならんかなー。


無事に食事を終え、モチモチキノコの生息地帯で各自キノコ収穫をした。ほぼ空だったリュックはパンパンになり、結構重い。

「ねぇ、本当に半分だけでいいの?」


「ああ、目的の量はクスカと俺の分だけでも恐らく足りていると思う。だから無理するな。」


「そうだぞー!メイ!その分アタシが持つからな!」


キノコは多ければ多いほど報酬がアップするが、

メイは冒険者とはいえ後衛職であまり体力は多くない。

重い荷物を持たせると帰りが不安だ。

まだ時刻は夕刻に程遠いとは思うが、早く帰る為にはこうするのが1番だろう。

モンスターは夜になると凶暴化する。だからなるべく早く帰らなければならない。

来た道をなるべく静かに通って帰る。

しばらく進むと、左前方にモンスターの反応を感知した。しかもこいつは…


「クスカ、メイ、静かに。左前方にモンスターだ。しかもかなり反応が大きい。足音で察知されたくないからここで隠れてやり過ごそう。」


俺たちはすぐ側にあった大きな木の根本に伏せて、息を押し殺した。


モンスターはこちらに真っ直ぐ向かってきているように感じる。速度は速くない。ゆっくり、だか着実にこちらに向かってきている。

心臓の鼓動がうるさい。額にはじわりと汗が滲む。どうする。今まで小物モンスターしか狩った事はない。昨日のガオウルフだって、内心かなりビビっていた。あの時はたまたま戦闘にならなかったが、もし殺し合いが始まっていたら…

ガオウルフを討伐できていたとしても、遭難して夜の樹海に取り残される事になっていたら…


そんなことを考えている間も歩みは止まらず、次第にズン、ズンと足音が聞こえてくるようになった。


「クスカ、メイ。恐らく静かにやり過ごすのはできないかもしれない。合図したら一斉に飛び出してメイが目眩ししてくれ。その間に支援魔法を使うからクスカは敵を攻撃してくれ。」


「おう」

「わかったわ」


2人とも緊張しているのが声の震えで分かった。

後衛職で支援魔法を使う俺は、みんなより視野を広く持って冷静に対処しなければならない。


落ち着け。


養成学校の成績も魔法学会の表彰も、ここでは何も評価されない。実力が全てだ。


絶対に生き延びてやる。


近い。

すぐそこまできている。


5、4、3、2、1


「今だ!!!!!」


一斉に木から飛び出す。


「フラッシュ!!!」

メイの光魔法「フラッシュ」は使うと杖から一瞬物凄い光が発生し、辺りを包む。目を瞑っていなければしばらく何も見えないだろう。


メイのフラッシュとほぼ同時に俺も魔法を展開する。

踊りを挟む為、少し遅れて魔法が発動する。


「鉄心!!!」

補助魔法「鉄心」は体力、攻撃、防御のステータスを2倍にする、昨日無駄になった魔法である。


目を開くとクスカを視認。対象を指定。直後、体が紫の光に包まれるのを確認した。

補助魔法が発動した証だ。


前方の敵を見る。

デカい。3mくらいあるだろうか。

頭から角が生えている。

図鑑でしか見た事がなかったが恐らくこれはオーク。体が大きくパワー、スピード、スタミナ全てにおいて人を凌駕する存在。

率直な感想を一言で言えば「こわい」


だがクスカは猛然とオークに向かって走っていく。

クスカの持つ剣が赤色の光を放ち始める。

剣撃スキルの発動予兆だ。


「食らえ!スマッシュブレード!!!」


オークの腹部に向けて振った剣は、ズバァ!と音を立て、そのままオークの身体を真っ二つにした。

緑色の血飛沫が辺りに散乱し、胴体部分が地面に落下した少し後に、力なく下半身部分が後ろに倒れた。


……勝った、のか?


オークはフラッシュで目を瞑ったままだ。本当に死んでいるのかよく分からない。

恐怖のせいか今にもオークの目が開き、反撃の機を伺っているのではないかという疑念がなかなか消えない。

しかしクスカはザックザックとオークの素材回収を始めた。す、すごいな…。


「と、とりあえず早く帰ろう。さっきのフラッシュでモンスターが寄ってくる可能性があるからな。」


「おっけ!オークの素材も適当に回収しといたしさっさとズラかりますか!」


「クスカはそういうとこ抜け目ないわね…そうね。早く行きましょうか。」


そしてそれ以降は何事もなく、無事に街に戻り今日は解散した。


自宅に戻ってからも、脳裏に浮かぶのは恐怖で震える俺と、果敢に前に出て平然と大役を果たしたクスカとの差ばかりだ。


情けない。

もっと強くなりたい。

でも俺には…補助魔法しかない。

誰かを強くする事しかできない。


同年代の男子は殆ど体つきがしっかりしていて、逞しい人ばかり。クスカなんて女子なのに男以上の男らしさ。メイがクスカに惚れても何もおかしくない。かたや俺は…


「せめて筋トレだっ!これから毎日家に帰ったら筋トレをしよう!あと魔法の研究!筋肉が増える魔法式を構築だ!」


メイやクスカに立派な男として認められる為に、少しずつ頑張るぞ!




皆と別れ、回収したオークの素材を素材屋に換金し終わったクスカは家に帰るとベットにダイブした。

「あー今日もドーイ可愛かったー。」

今日は冒険者としてパーティを組んで、初めてフラ草原でミニポンという超初級モンスターを倒した時以来のドキドキだった。


正直言うとアタシはオークにかなりびびっていた。こんなデカいやつ倒せるのかな?とか肩幅広っ!とか思った。


けどドーイはキリッとした顔で指示を出して、剣が鉛筆になったかのような錯覚すら覚えるすごいバフをくれて。


「ずっとドーイを守れるお姉ちゃんポジでいたいと思って頑張ってきたけど、まだまだ頑張らないとなー。ま、指示くれた時めっちゃ身体震えてたけど。そこは変わらないなー。」


小さい頃から変わらない部分と変わった部分。

どっちも変わらず愛おしくて。

「よーし!お風呂の前に素振りでもしますかー!」


これからもドーイの剣であり盾でありたいと願うのであった。



「今日も相変わらず素敵でしたわ…。」

皆と別れた後、メイは自宅で新しい爆発魔法の研究をしていた。しかし研究に集中しきれてはおらず、頭に浮かぶのはドーイの事ばかり。


「感知魔法はおちょぼ口ですか…。不思議ですわ…。ですがとても…可愛かった。」


皆には秘密にしているが、メイは少し変わっていると自覚している趣向があった。


それは変顔好き。

幼い頃から変顔を見ると胸がキューンとなってしまい、思わずにやけてしまうのである。


歳を重ねるにつれ次第に皆なんだかんだで大人になっていくので、変顔を見る機会もなくなり、自分自身変顔が好きである事も忘れかけていた。


そんな時、養成学校で偶然見かけた変顔に感情が爆発しそうになった事があった。

色々な人から聞いてみると、その人の名はドーイだということが分かった。

攻撃魔法と支援魔法は同じ魔法ではあったが、支援魔法はそもそも教えられる程の先生が居なかった。その為魔法協会のベテランのお手伝いをするついでに魔法を教わっていた事が多く、学校にはあまり居なかったらしい。


中々挨拶をする機会にも恵まれず、ついに卒業というタイミングでまさかドーイ本人からパーティのお誘いを受けるとは夢にも思わなかった。


「あぁ、明日はどんなお顔を見られるのでしょう。待ち遠しいわ。」


紙に変顔の記憶を転写する魔法なんて作れないかしら。

段々と爆発魔法から脱線していることに気がつかないまま、夜が更けていくのであった。

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