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1話 山道の出会い

 街道というか山道というか、とにかく道のようで道でない道を俺たちは歩いていた。


 うっそうと茂るモミやブナなどの森が俺の視界の両端に映り、石と雑草の多い道が俺たち二人の進行を妨害する。


 歩き始めてもう三時間になるが、目的地には一向に到着する兆しもない。

 むしろ悪路と変わることのない景色が続き、俺の心をうんざりさせる。


 さらに太陽は役目を終えたばかりに、西の彼方に没しようとしているのを見ると、ますますうんざりしてくる。


 普段なら美しい茜色の空に見入るところだが、今回に限っては疲労の濃いため息を漏らすに限る。


 そろそろ気候も変わり暖かくなってくる季節だが、それでもアルプス山脈を降りてくる北風は身を裂くほどに冷たい。

 できるなら野宿ではなく、屋内で暖かい毛布にくるまって寝たいものだ。


 本当にやっていられない。

 俺はこの苦痛から逃れるために横に並んで歩く女へと愚痴を零した。


「しかし、予想以上のど田舎だな、ここは」

「そうか? 私はこういう場所のほうが落ち着いて好きだがな」


 彼女は特に気にする風もなく俺に返事を返す。

 その横顔には感情らしい感情が一切表れておらず、何を考えているのか皆目見当もつかない。


「それよりネイはどうだ。こういう場所は嫌いか?」

「別に。実家が山奥だったから、こういう景色は見慣れているしな」


 それで、お互いに口を閉ざしてしまう。

 どうも空気が重いし、道は長いし、景色は変わらないしで疲れてくる。


 このまま目的の村までに着かなかったら、また野宿という事になるので早く着こうとする気はあるのだが根気がない。


 とどうでもいいことを考えている自分が阿呆らしくなってくる。


 このままでは自分の存在理由とか訳のわからないことを考えてしまいそうなので、自分がここにいる理由も含めて頭の中で整理することにした。


 俺の名はネイ。

 髪の色は黒、瞳の色も黒。ズボンも黒ければ、手袋も黒く外套も黒い。

 全身黒ずくめの黒焦げになった黒猫のような格好をしている。


 訂正しよう、黒ずくめの格好をさせられている。


 町に行くと白い目で見られるが俺はいたって普通の人間のはずだ、たぶん。


 ちなみに武器も持っている。

 肩に担いだ刃渡り約一六〇センチはある大剣とナイフが数本。


 これでも俺はとある騎士団に所属していたことがあるので、大抵の武器は人並みに扱える。

 野党や山賊の類ならこれだけで十分太刀打ちできるだろう。


 俺たちはこの辺の領主から依頼を受けて、アルプス山脈のある村を目指している。


 依頼の内容はというと『山岳部の村で多発している異変の原因を調査することと原因の早急な解決』であった。

 そんな訳で俺たちは辺境の山道を歩いている。


 ちなみに俺の隣を無表情な顔で歩く女はサガという。外見だけを見れば十五、六の顔立ちのいい町娘といった感じだが、本人曰く五〇〇歳を超える魔女らしい。


 実際に魔法も使えるが、はっきり言って仕事では使って欲しくない

 というより使わせないようにしている。


 服装は俺と同じ黒ずくめだが、サガの髪は蜂蜜を思わせる金髪で瞳は静かな翡翠の光を宿している。


 サガの顔には感情の色はない。もしかしたら在るかもしれないが俺は、まだ一度も彼女の笑顔というものを見たためしがなかった。


 まあ、そんな訳で俺とサガは面白くもない山道を延々と歩き続けている。


 度自分の置かれている状況を再確認した俺は、今日の寝泊りのことをサガに話し掛けようとする。

 その時、突如、俺たちの前方の茂みから小さな影が転がり出てきた。


 その影は勢いよく地面に顔をぶつけると動かなくなる。

 それから数十秒間の沈黙。


 再び勢いよく影は立ち上がると、走り去ってしまう。

 と思ったら俺たちに気づいて怯えたような表情を見せて立ち止まった。


 その影の正体は少女だ。

 着ている服はいたって平凡な麻で織られた農民服を着ている。

 顔は汗と泥でぐしゃぐしゃに汚れており、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。


 靴を片方しか履いていないところを見ると急いで走って来たのが手に取るようにわかった。


 少女は亜麻色の髪を振り乱しながら、俺たちに向かって走ってくると勢いよく俺に飛びついてくる。


「お願いです! 助けてください!!」

「はっ……え?」


 今年で二十歳になるが、さすがに山道でいきなり抱きつかれたことはない。

 俺はどう対処しようものか迷ってサガに視線を向けるが、あいつは『我、関せず』を顔に書いて、傍観を決め込んでいる。


 頼むから何か一言くらい何か言えよ。


 体を震わせる少女の肩に俺は手を置くと、少女の気持ちを少しでも落ち着かせようと優しく声をかける。


「落ち着いて、いったい何があったか知らないけど、とりあえず名前だけでも教えてくれないか?」


 少女の震えは少し収まり、小さく頷いて返事を返す。


「……セレア」


 セレアと名乗った少女の声はか細く、不安と恐怖で押しつぶされそうだったが、何とか名前は聞き取ることができた。


「それでセレアはどこから――」


 俺の言葉が言い終わる前にそいつらは現れた。


 セレアが出てきた茂みと同じ場所から白い一団が出てくる。

 その数、六名。


 そいつらは白銀の甲冑を身に着けて、同色の兜を被っていた。腰には革張りの鞘に収められた剣を帯剣している。


 彼らは静かな動作で俺たちの正面までやってくるとその場に立ち止まり、俺たちと対峙した。


 セレアの震えが再び大きくなり始める。


 一団の先頭にいる男が一歩前に進み出る。


「我々は、教皇庁直轄聖剣騎士団が第八分隊! 義を持ってこの地に巣くう悪魔を退治しに来た! 旅の者よ、おとなしく悪魔の村の娘を渡してもらいたい!」


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