エピローグ
「ほ、本当に一人で行くのか?」
俺が慌てながら訊いたのに対して彼女は、
「はい」
と笑って答えた。
あの長い夜の戦いから一夜が明け、太陽はすでに朝焼けの中に浮かんでいる。
俺とサガが立つのはこの辺り一帯を治める領主のいる半島へと続く街道で、反対の東欧の王国へと向かう街道には生活用具一式を入れた麻袋を担ぐセレアが立っている。
あの後、俺たちは村人の畏怖の視線を受けながら山を下山した。
山を降りたところで、セレアは「じゃあ、ここで」とあっさり言って、去って行こうとするのに俺はかなり慌てたものだ。
その理由は俺たちに付いて来ると考えていたからだ。
「で、でもまだサガは子どもじゃないか」
俺がさらに慌てて言うと彼女は微笑みながら言うのだ。
「あれ、言っていませんでしたか? 私これでも十七歳でもう立派な大人ですよ」
「はっ?!」
じ、十七歳?!
十七歳といったら俺と四つしか変わらないではないか!
「ネイさん、サガさん、いろいろお世話になりました。私、これからも精一杯生きていこうと思います。……本当にありがとうございました」
「ん、達者でな」
「あ、ああ。元気で……」
そんな訳で俺たちとセレアの別れはあっさり終わってしまった。
まあ、それも人生というやつなのだろうか。
……何か爺くさくね、俺。
「ところで、ネイ。腕の方はどうだ?」
傷心顔の俺を察したのかサガが俺に訊ねてくる。
無論それはいつもの無表情ではあるが。
「ん~、やっぱこりゃダメだな。直さないと使い物にならんわ」
「そうか。また、あの人形遣いに世話になるな」
俺の左肘から先は俺の担ぐずた袋の中だ。
「生きるのって大変だな」
俺はぼーっとしながら、独り言のように喋っていた。
それでもこれは俺の意志であることには変わりはなく、答えを求めるのも俺自身である。
「……確かに生きるということは難しい。誰かを失うことや自分が傷つくことは多いのに、楽しいことといえばほんの一握りかもしれない。それでも、生きているふりをするより、必死になって生き抜いたほうがいい、と言ったのはお前だったはずだが?」
「そうだな」
俺は苦笑でサガに答えを示す。
そうだ死ぬよりかはいい。
生きて少しでもある希望にすがる方が、きっと人生は楽しいだろう。
俺とサガの間を一陣の風が吹いた。
その風は昨日から吹いている冷たい風ではなく、どこか潮の香りを含んだ暖かい地中海の風だった。
春の兆しである。
「行くぞ」
俺の前をサガが歩き出す。
何者も恐れることなく進む力強いその背中を見ながら、俺はゆっくりと歩き出した。
金髪の魔女に追いつくために俺も精一杯生きていかなければならない、と思いながら一歩一歩を力強く踏み出す。
そんな俺を後押しするような風が吹いている今日であった。
END
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これからもたくさん小説が書けるように、がんばらせていただきます。