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日常の文学シリーズ

スタイリッシュ・シンドローム

日常の文学シリーズ12(なろうラジオ大賞 投稿作品)

「今年の君の誕生日、どこに行きたい?」

「えー。めんどくさいから家にいようよー」


 これは本心だ。そこそこいい歳になった私にとって、誕生日は別に喜ぶべき日ではない。むしろ自分が年を取ったと自覚させられる嫌な日に変わりつつある。


 でも彼はこういう日に敏感だ。私の誕生日や結婚記念日、付き合い始めた日なんかにはプレゼントだのサプライズだのをしてくれる。旅行に連れて行ってくれることもしばしばあった。


 付き合い始めのころは素直に嬉しかったのだが、最近は彼のこういった行動に何かもやもやした気持ちになる。


 こういった記念日を祝うことをやめてしまったら、プレゼントを渡さなくなったら、サプライズをしなくなったら、私に捨てられるのではないか?彼がそんなことを思っているような気がしてならないのだ。


 どうにも彼は昔から自己採点が低いきらいがある。待ち合わせに少し遅れてくるだけで、こっちがびっくりするくらい謝ってきたり、彼の仕事で会う約束が流れたときは、若干鬱陶しいくらいの埋め合わせをしてきたりした。逆に私が遅刻したり会えなかったりしたときは、全く気にしていない様子なのだ。


 それに、誕生日や記念日に対するプレゼントやらサプライズが過剰なように思える。彼の月給の半分は飛んでいきそうなネックレスやレストランは果たして私の誕生日に釣り合うのだろうか。


 まるで、私は常にお客様で、彼は常にもてなす側で、少しのミスで私が他のところに行ってしまうような。かっこよく、スタイリッシュで居続けないと私が失望してしまうと思っているような。どこか病的な必死さをなんとなく感じてしまう。それは彼の優しさであると同時に、私を信頼していない証拠のようにも思えた。


 女友達にこのことを相談しても、「うらやまし~。私の彼氏なんて私の誕生日とか絶対覚えてないよ(笑)」なんて返されてしまう。まあ、私が恵まれているのは間違いない。記念日を忘れられてしまうのもそれはそれで嫌だ。私が感じているこのもやもやした感情が贅沢なのは自覚している。でも、気になるものは気になるのだ。


「そんなこと言わずに。じゃあ、なんか欲しいものとかないの?」

「そんなことしなくても、私はあなたが好きだよ」

「…へ?」


 彼が面食らった顔をしている。その様子は全然スタイリッシュではなかった。


 うん。それそれ。その顔がいい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女にとっては、彼が過剰なプレゼントやらお祝いやらで自己評価をつないでいるように見えることがあっても、彼にとっては純粋な彼女への感謝だったり、愛情表現だったりするのでしょうね。 この上な…
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