アコニ・プルメリアは死にたがり
王子が陰鬱です。
プルメリア王国王位継承第二位、アコニ・プルメリアは悩んでいた。一週間後の自身の誕生パーティーで、婚約者を選ばないと王位継承権を失うかもしれないからだ。それを告げられたときの母親の恐ろしい表情が脳裏にこびりついて離れない。
アコニの母はプルメリア王国従属国のお飾り国王の妹で、いわゆる政略結婚である。彼女は王の寵愛をほとんど受けていないが、執念でアコニという男の子を産み、幼い頃から厳しくしつけ、王にふさわしい器になるよう育てた。その甲斐あってか、アコニは文武両道、容姿端麗、周囲からの信頼厚い立派な後継者へと成長した。今では第一位の長兄よりも、次期国王にふさわしいとの呼び声が高い。
彼には兄と弟が一人ずついるが、全員母親が違う。長兄は、前国王時代から仕える大臣の長女との間に生まれた子どもで、三男は流浪の踊り子との間に生まれた子どもである。三男は最初から次期国王のポジションには興味がないらしく、いろんな令嬢と浮名を流し自由に暮らしている。長兄は、母の期待に反して勉学はからっきしであるが、軍人としては非常に優秀で勲章をすでに二つも持っていた。本人も城の中に閉じこもっているよりも、外に出ていたいという思いが強いらしく、これまた母の思いを無視して、次の国王はすっかり次男に任せたものと思い込んでいる。
他の兄弟たちがそのような具合なので、アコニの母は息子の将来も自分の故郷もこれで安泰だとすっかり油断していた、矢先のことであった。
婚約者を見つけない限り、アコニを国王にすることはできない。世継ぎを設けることも王の大事な役目である。――国王がこのようなことを言い出したので、アコニの母は目を白黒させて驚いた。反してアコニ本人は、驚いたふりをしながら、内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
母の勢いに負け、幼い頃から言いつけを守り、母の期待に応えてはいたが、本当のところは国王になど微塵も興味はない。できれば誰にも知られず人里離れた農村で静かに暮らして、そのまま死んでしまいたいとばかり幼い頃から思っていた。
このまま婚約者さえ見つからなければ、このささやかな願いが叶うかもしれない。アコニは胸を踊らせた。だがすぐに、あの母がこのまま黙っているわけがないと絶望した。
自分は絶対に誰も好きにならない、という根拠のない絶対的自信をこの王子は持っている。このような立場にいるといろいろな女性が自分にすり寄ってくるが、その全てが彼にとっては異形の存在でしかなかった。あからさまに無碍にすることができないのが不愉快で堪らなかった。なので自ら結婚相手を選ぶようなことはない。
ところが、それを許さない存在がいる。言うまでもなく、彼の強烈な母親である。息子を国王にすることしか頭にない彼女がこのまま大人しく諦めるわけがない。どんな手段を使っても、どこかの令嬢を捕まえ無理やりにでもアコニの婚約者にしてしまうことだろう。
誕生パーティーの前に、自分に雷でも落ちてこないだろうかとアコニはため息を吐いた。
「もし、神がいるなら」
本当に、この世に神という存在がいるのであれば。
「このまま……死なせてください」
目を閉じ息を止める。心臓の音がやけに耳につく。止まってしまえ止まってしまえと思うのに、苦しくなってすぐに酸素を求めてしまう。体はいつでも心と裏腹である。