帝王国の晩餐・3
「え」
承知だと聞こえたのか、聞こえたふりなのか、魔帝王は私とダンス始めた。
戸惑いながらステップを踏む。長年のスパルタ教育、有難う。こんな訳わからない時に役立つ。魔帝王は器用に男性側のステップで、まぁまぁスムーズに進む。つい先のダンスと比べればイマイチだが。
「ナッシュさんは無事帰宅したの?」
「…はい」
ナッシュさん?!基本呼び捨ての魔帝王がさん付けるのは何年ぶり?
「体調はどう?二日酔いで帰りはあまり覚えていない」
「普通に仕事をしました。体調も平準でした」
どっちかと言えば上機嫌だったらしい。先生の感情は結構読み辛い。魔波と表情に表れないから。
「良かった」
魔帝王の表情も読み辛いけど、今はちょっと若く見えた。男体化したのに、大昔のナタリヤお姉さまを思い出せる。
「デートは楽しかったですか」
「はい」
素直に答えて笑う魔帝王はもはや眩しい純粋な乙女に化する。
「ア、来週の土の日は彼の休日でしょう?緊急任務とか入れないでー。ロータク海のクラーケンをやっつける約束したから」
「はぁ…」
ヒュー先生は元々研究専門で、あまり制限や任務時間をきっちりしなかったが、転生者教育に関わって彼等をこの世界に慣れさせる為に日課を作った。それで休日は一応決めているが、邸宅の事情で他の仕事に抜擢される事も少なくはない。
「土の日は承知しますが、光の日はご遠慮してくださいませ」
「ナッシュさんもそう言ったね。寝不足や二日酔いも駄目だって。光の日に何があるの?」
模擬戦大会。研究部vs執事達と庭師・運転手合同チームvs守衛のダブルイベント。審判と務めるのは私。
「使用人会議です」
「そんなに大事な事なの?」
「先生が欠席したら、かなり文句言われますから。体調悪いと、納得行かない人もありますので」
「ミランネちゃんはそんなに頑固頭の使用人が多いの?」
「それなりにいます」
大会はかなり力入れている。昨日、くじで守衛代わりに選ばれ、傍観出来ない使用人はまじ泣きした。料理人達も最近腕を披露したいと言って美味しいピクニック料理バイキングを始めた。
そして、ヒュー先生は研究部の数少ない近距離に向いている一人。悪調子だったら両側から文句だけじゃ済まない気がする。
「分かった」
曲がやっと終わって解放され、私はアズ兄の側に戻ろうとした。ほんの数歩なのに、虫に邪魔された。
「…ピュパーシ様、御機嫌よう」
「ご無沙汰ですね、ルイン侯爵」
あ、魔帝王逃げやがった。この虫も連れてけ!!
でも、何故か私の前から去らない男。腐った目で上下ジロジロ見るな、気持ち悪っ。
「これはカヒラ式のドレスですか。大変珍しいですね」
嫌味?指摘?
私の方が地位持って皇太子の婚約者だが、こいつの方は魔素量が高い。力=正義の帝王国にはどっちが立場高いのは微妙。
「いいえ、風舞商店の新作です」
「おや、首都人気店御用達ですか。陛下も偶に注文する所ですね」
俺魔帝王と親しいゼ雰囲気がムカつく。当たり前だ、私の商会の店だ、ボケ。
「えぇ、気に入ってます」
「あら、ルイン侯爵。急いで注文でもなさったの?それとも、腕の良いお針子が巡り合わなかったの?」
ピュパーシ夫人が割入った。ん?この二人は仲悪かったんじゃなかったっけ。何故チームプレーしてんの?
「新布で作られましたので、お針子達は苦戦しましたと聞いております」
メイジュは泣きながら作ったもんね。ミシンの改善も大変だった。
「素朴で、ルイン侯爵に似合ってるね」
影から動きを感じた。エル、殺気漏れるな。
「どんな素材ですか。魔法が仕組んでますよね」
ピュパーシ三男の興味はそこか。
「詳しくは説明できませんが、魔蜘蛛糸が入っていると聞いています」
知っているが、企業秘密言えるわけが無い。
「魔蜘蛛糸はそんなに珍しくないわね。それにブレンドって」
好きなだけ馬鹿にしていいよ、夫人。来週頃、お茶会で魔帝王はこの布で作られた服で登場する時、同じ事言えるかな。楽しみだね。参加しないと思ったが、これは見逃さない。お揃いにしよっか。
「ピュパーシ、気でも変わったのか。美しくても、姉に求婚しながら他の未婚女性を凝視するのは無礼にあたる」
アズ兄も我慢出来なくなったね。明らかに[嫉妬してないよ、姉貴を軽く見ているから指摘しただけ]の発言なのに、彼の腕は私の腰に自然と回した。内心ホッとする私もまだ未熟だ。
「素晴らしい魔質だと感心しただけです、殿下。流石殿下が選んだ貴女ですね」
「ふん」
胡散臭い理由だが、アズ兄はそれで済ますことにしたらしい。
「ルイン侯爵は正式な果たし合いした事はないですね。いかがですか」
「いかがと言われても」
果たし合いは帝王国の格付け試合。元々は名誉やらの為に昔からこなしたが、この5年間は非公式格付けになってしまった。全ては魔帝王の目に止まるためのもの。だから私には関係ない物だ。
「そうです、ゴーデン。スリ花のような娘と本気勝負しないよね」
内心ムッとした。スリ花は美しいが、温室で丁寧に育たないとすぐ枯れてしまう植物だ。つまり、私はか弱い観賞用なモノしかないと。
「そうですね。殿下と転移動研究を発表しましたから、実戦に使えるかどうか楽しみにしましたが」
ゴーデンは苦笑いしてそう言った
「それなら俺と果たし合いすればいい」
アズ兄もイラッついたみたい。
「まさか。殿下は転移動使わなくても勝ちますから」
まぁね。ランキング二位と三位の間に深い峡谷ぐらいの差がある。魔帝王はその間にあった人達をほぼ全部排除したから。
「分かりました。殿下、白地貸していただけますか」
「…今?」
「はい。初めてですが、確か申込みを受けた側は時間と場所を決めますよね」
使用人の影響かなぁ。毎週彼等の模擬戦を見ると、私もやりたくなる。でも、審判員は私しか務められないし、使用人は私と敵対したくないと言った。
帝王国第三位の実力、楽しみにしてる。
ミランネもストレス発散が必要です。




