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魔嬢様の遊び  作者: たんぽコロ
2ー魔嬢様の賭け事
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教師の休日・7

 数分ぐらい沈黙が続いた。葉っぱの囁きと二人の息しか聞こえない。風がすうと元はキマイラだった灰の山を徐々に消し去る。


 決意して、彼女に向いた。手を繋いだまま隣に立つ美女は何かを探っているようにこっちを見ている。


「…では、消臭魔法を教えましょうか」


「…ハイ」


 キマイラの灰の山より離れて、日当たりの良い小さな開拓地にたどり着いた。


 気を取り直して、教育者の役に没頭する事にした。


「最初は魔波を静めましょう。はい、力を抜いて」


 安心させようと笑いかけると、手の握りが緩んだ。そして、魔波は棘をなくして平常状態になった。

 大分マシになった。


「で、次は風魔法と光魔法を編み合わせてーーあ、ほんのちょっとの魔素でいいです。下級魔法ですから。」


「うぅ。こうかな」


「今の4分の1にして下さい」


 凄まじい魔素量だ。彼女がそのまま魔法を放てば、消臭魔法は人間を焼き尽くす魔法になり得たかもしれない。


「ムズカシ…イ…ナ……」


「頑張ってください…はい、よく出来ました。その光風を体に緩く巻いて見ましょう」


 真剣に魔法制御に集中しているタリヤが輝き始めた。普段の消臭魔法はほんのちょっとの光と風が起こるが、彼女の様に、桃色の長い髪が風に浮いて、眩しく光を放つ女神の様な現象にはならない。


「出来たかな。鼻が麻痺してよくわからなくなっちゃった」


 ぼうとしたが、慌てて自分に消臭魔法[輝きなし]を使ってから、嗅覚を高めた。


「大丈夫だと思います」


 空気が綺麗になった。遠くからキマイラの灰の臭いがまだ微かにあったが、そんなにはない。ありがたい事に花の匂いが強い。何の花だろう。


「本当?家に帰って焦げ臭い!と言われたら泣くかも」


「帰りに飛びながらもう一度かけましょう。効果が抜群になると思います。でも、心配はいらないと思います。むしろ、今いい匂いがーー」


 開拓地には花が見当たらない。周りの木だって葉っぱだけで緑の壁になっている。なのに、梅の花の匂いがする。そして、かなり強く、香水の様に。でも、消臭魔法は香水の香りを消すし、梅香りの香水は帝国民に取っては恐れ多い物だと香水屋さんから聞いた事がある。何故なら、今の年号に使われているぐらい梅の匂いがする人物がいる。帝国に来てから祭りやらには必ず梅の花が帝都民の家の玄関に飾ってあって、裕福な商会は玄関先に梅木を植える。


「…マーーいや」


 だって、噂話によると魔帝王は見た目は美しいが、その性格が暴れ馬というよりも暴れ龍だと。そして、何よりも魔帝王の特徴の黒い角が……!?


 ある!タリヤの頭に2本の黒い角がある!!小さくてツヤツヤで葉っぱや羽形の髪飾りだと思ったが、ちゃんと見たら角だ。


「魔帝王様…?!」


「へぇ、匂いで分かっちゃうなんて、ナッシュさんは匂いフェチなの?」


 本気か。今日ずっと魔帝王様と過ごしたのか…


「何で教えてくれなかったんですか」


 バツが悪くてそういってしまったが、自分が推測出来なかった事に呆れちゃう。


 友達少ないお嬢様と仲いい事。

 そのお嬢様にタメ口で話した事。

 恐ろしいぐらいの魔素量。

 そして、先程見た世界絶滅兵器状態。


 魔帝王だと分かってちょっと安心した。こんなにも圧倒的な魔法を使える人間がただの上位貴族だったら、逆にこの世界に問題があると思った。


「だって、楽しかったよ。私が魔帝王と分かってたらこんな感じに手を繋いだりはしなかったでしょう?」


 未だに彼女の手を繋いだままでいる事を意識して、慌てて手を離そうとしたが、彼女は自分の指先を掴んだままこっちを見上げた。


 ちょっと力を入れば振り払える程度だが、出来なかった。だって、表情は何時もの無邪気な笑顔だが、彼女の目の奥に不安が潜んでいた。自分より数倍強い筈なのに、何故か守ってあげたいと強くぐっと来た。その感情が行動になって、彼女の手を繋ぎ直した。


「そもそも何故自分なんか誘いましたか。陛下は一人で軽々とキマイラを倒せましたし」


「タリヤと呼んで」


「いや、しかしーー」


「デートの時ぐらい名前で呼ばれたい」


 そうか。半分冗談だと思ってデートと呼び続けたが、自分は今魔帝王様とデート中なんだ。


「…ッタリヤさんは何故自分を?」


「んと。秘密」


 何故?!


 自分の表情を見て、彼女が笑いだした。


「ね、ナッシュさん。帰りに美味しい店があるんだけど、寄って行かない?」


「何処ですか」


「ハーレストの首都の下町にある酒場だよ」


 寄り道程度じゃないね。帰りは南南東方向なのに、ハーレストの首都は真東方向の筈。タリヤの速さでも数時間かかるに違いない。


「…丁度夕焼けの時間にたどり着きますね。いいですよ」


「やった!早く行こう」


「あ、ちょっと待って下さい」

 まったく役に立たなかった杖を魔法空間に収納してから話を続けた。

「帰りは引きずり体制ではなく、喋れるようにしましょうか」


「どうやって?」


「ダリヤさんの魔法を上乗せしてみます」


「何それ?」


「飛んでみて下さい」


 彼女がそうすると、自分は浮遊魔法をちょっと工夫して、彼女と結んだ。


「何?」


 彼女は目を丸くして見ているが、そんなに難しくないと思う。


「浮遊魔法を地面ではなくタリヤさんに設定しました。だからどんなにスピードを出してもこのまま隣に立てます」


「そんな事が出来ると聞いたことがない」


「船とか乗り物に使う時はこれが結構役に立ちます。劣っている馬車には必須です」


 お婆さんと旅してた時の常識なんだ。放浪生活が赤ん坊の頃から長く続いたせいで、浮遊魔法はほぼ無意識、半自動的に出来るようになった。寝る時に居心地が悪いとか、寝付きが悪いとかを感じると、浮遊してしまう癖がついてしまった。

 …因みに、元彼女に振られた理由でもある。


「じゃ、本気出すね」


 前は力加減したのか。


 ちょっとした爆発音の後、数秒で雲の上に辿り着いた。


「一時間で出来るかなあ」


 上機嫌のタリヤを見て、常識が馬鹿馬鹿しくなっちゃった。


「時間が余ったら、ハーレストのムナヒ村に寄っていきましょう。今はさくらんぼ祭りの最中だと思います」


「何それ美味しそう。ムナヒ村って何処なの」


「ハーレストの南東にあります。エオス山脈の一番南の所です」


「だったら空から見つかりやすいね。はい、行くよ!」


 青空の下、白雲の上、常識外れの二人が雑談しながら音速を超えて飛ぶ。

ナッシュ編、書きやすかったです。


二人は色んな意味で苦労しましたが、相手達も大変でした。

真夜中に起きたら、隣に寝ている彼氏が数センチ浮上している。なんか嫌です。そして、理由が居心地悪いだと言う事です。マトレスを変えても浮上し続けて、原因はベッドではなく私では…と不安になってしまいますね。

だからイケメンで優しくて性格いいなのにまだ独身です。カヒラに出会いの場も少なかったですね。他の原因も後々出てきます。


タリヤの黒歴史は予想通りの修羅場が多いです。

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