教師の休日・6
猛戦士は見た事ある。
小さい頃、ゴブリン王が数万匹のゴブリンを連れてレウルと言う小さな山国を滅ぼした。その時、お婆さんと二人でもっと山奥にあるホルエム国にいた。何もしないと次はホルエムがレウルと同じ未来を開くと、首都の門の前にずらりと並ぶ難民を見て十歳未満の自分でも分かった。
ホルエムのあらゆる冒険者や兵士、騎士などが一致団結して、作戦を立てた。
ヒーラーのお婆さんも参加する事になった。自分はお婆さんの護衛…と言って、ほぼパシリだったが、役に立つならばそれで良いと思った。
で、本戦に入って、戦闘から離れたお婆さんの所はいつの間にか戦いの真ん中になってた。お婆さんは次々と魔法を放って、周りにいた兵士をサポートしたが、限界があった。人前に絶対見せちゃいけない復活魔法を使い始めた時、やばいと思った。初めて死んじゃう覚悟した。
ずっと戦い続けてきた体格のでかいブロードソードの戦士がゴブリンの群れに葬られた時、お婆さんは知らない魔法を使った。
ゴブリンの鳴き声を上回る狂った叫びが戦場に響き、魔物の勢いを抑えてしまう心までどよむその音は周りを恐怖の色に染めた。
黒くなった。
春の昼で、雲一つもない日なのに、ゴブリンの黒い血しか視界になかった。緑灰色の死体が見えなくなるぐらい地面が彼等の血で染められ、空気に舞う液体は止まらない。
その永久に続く噴水を仕切っているのは一つの人影。死の化身となったブロードソードの猛戦士は絶滅をばら撒いてた。
恐ろしい地獄絵図をただ眺めている自分はうっかり目と合った。真っ赤に光る2つの点はもはや人間のものではない。決して見てはいけない、永遠の眠りより悍ましいモノを見てしまった。
それは一生忘れられない。今まで人生でそれを上回る恐怖心はなかった。
今日の今の状況まで。
現在、人類ーーいや、世界絶滅兵器と手を繋ぎながら走っている。周りは青緑色の魔炎壁になりながら、自分は目標を探す。襲い掛かるキマイラの子達は炎に触れた瞬間、焼失する。
でもそれよりは本体のキマイラ。5メートルの毒々しい緑紫模様の怪物はライオンの頭と背中から逆向きの山羊の上半身がぎこちなく繋がっていて、長太い蛇が尻尾の代わりになっている。色以外はほぼオーソドックスな見た目で、臭さは予想通り倍以上だ。
その伝説に現る魔物はタリヤを見て逃げやがった。でも、逃したら彼女の感情が収まらないと何故か分かった。魔波がただただ膨れ上がって、範囲を広ませてしまうと。遅れると、この森は丸ごと灰になる可能性が高い。
「ッ【泥床】【太陽熱】【氷槍】」
自分の弱さに呆れる。この大事な時、中級魔法を組んでやらないと何も出来ない。そして、地味。
柔らかくなった地面にキマイラの足が沈んだら、泥を一瞬で乾かして、落ちる方向に数本の氷槍を置く。悪戯好評のコンボは氷槍を足すと地味ながら効果が大きい。
見事に転んだキマイラは所々から黒紫色の血が流れた。叫びながら立ち上がって、殺意のある視線を自分に向いた。が、隣の生物が目に映った瞬間、怒りが怯えになり、逃げようとした。
そのライオンの黒目に現れる反射像は見なかった事にする。横目にあるモヤモヤ魔波が怖くて直接見てはいけない気がした。
でも、手から伝わる温かさはまだ人間のモノ。そう信じるしかない。
確かめるようにぎゅうっと強く握ると、魔波が鋭くなって刺々しい感覚に襲われた。視界の端から飛んだ黒い物がキマイラに突き刺した。
いくつかの人間サイズの黒曜石の破片がキマイラに刺した。ライオンの頭、山羊の頭、腹部分と左の前足。まだ無事の蛇尻尾は狂った鳴き声を出して、何かを吐き出そうとした。
でも、出来る前に魔物は火の塔になってしまった。黒曜石は眩しいぐらい白く光って、そこから炎が生まれた。
風の魔法がその塔を煽って、一分で灰のマウンドしか残らなかった。




