教師の休日・5
ある意味、残酷描写があります。
今、自分は年下の美女と森林浴お散歩デート中だ。
二人きりの世界の様で、鳴鳥すら聞こえない。ただ、雰囲気を台無しにしているのはキマイラの跡。石まで溶けた地面に残る焼跡。骨まで溶けた正体不明な死体。そして、鼻まで溶けそうな異常に臭い糞の丘。観光スポットは一々微妙…ではなく、完全に駄目だ。
糞塚は1.5メートルぐらい高い。幅もそれぐらいある。近くで確かめない。吐きそう。蝿さえ近づかない臭さだ。
「んぐぅ。恐らく、キマイラは4メートル超えています」
「わかったから、そこから離れろ。もう、最悪だ。服に臭いが移っちゃう」
「大丈夫です。数十分で鼻が麻痺して、臭わなくなります」
そう言って、森の散歩に戻った。山道すらないが、キマイラの跡は結構あって、繋ぐ感じで進む。
「臭わないじゃなくて、臭えなくなるでしょ」
「同じ事です」
「同じじゃない!このままラヒタルに帰ったら侍女は近づけないよ」
「後で消臭魔法を教えましょうか」
消臭魔法は旅人に欠かせないが、貴族なんて使わない。使用人が綺麗に掃除洗濯するから、必要は無い。あぁ、貧乏性丸出しで情けない。
「今教えて」
「キマイラを処理した後がいいです。本体と比べれば…少々慣れた方がいいです」
薄々予感が湧く。さっきの糞谷は普通のキマイラの倍以上臭い。本体も倍以上臭かったら…
「そんなに臭いの?キマイラ」
「はい。頭が3つあるが、腹が1つです。その3つの頭が食べる物を消化する腹が猛烈な胃酸があります。先の死体は多分吐き出した物です。消化している時は頭から酸ガスが出ます。それが一番臭いです。そして、肌に直接触れたら酸熱傷しますから、気をつけてください」
「うぅ。キマイラは苦手かも」
「関係なくちゃんと終末するのはーー…すみません、つい授業になりましたね。教師の悪癖です」
「ううん、ありがたいよ、ヒューストンさん。覚悟なしでキマイラに近づいたら、悪臭に気を取られてミス起こしたかもしれない」
「あ、戦闘中でも良ければ、ナッシュかヒューと呼んで下さい。呼びやすいですし、そっちの方に慣れてますから」
「戦闘以外でも呼んでいい?ナッシュさん」
なんか照れる。
「はい、どうぞ」
「じゃあ、私をタリヤと呼んで。短い方がいいね」
「タリヤさん」
「はい」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。悪臭を忘れるぐらい眩しい。
「そろそろですね」
照れ隠しに話を変えた。
100m先にキマイラがいる。ずっとその所に居座ったままなので、寝ているか休憩しているかもしれない。
「はい。作戦通りに進もう」
「…ここから口で呼吸した方がいいです」
「…はい」
彼女の手を取った。細くてシルクより滑らかで柔らかい。
本気で照れ始めたから、透明魔法を慌てて使った。
彼女もそうしたようで、見えなくなった。魔波も最小限にして、隣でも感知辛くなった。存在の証は手から伝わる温かさだけ。
慎重に移動した。消音はしていない。音より魔法の方は魔物が反応する恐れが高い。透明魔法は魔波までぼかす。
悪臭が襲って来た。
目まで来るその臭いは一週間真夏に放置した死体より臭い。腐った肉、嘔吐物、血、野獣の匂いのコンボは効果莫大。
繋いでいる手に思わず力を入れたが、彼女も同じリアクションした。多分空いている手で鼻を塞いだが、自分は出来ない。杖があるから。
涙が出た。どうしよう。戦う前にギブしたい気分だ。
でも、彼女はまだ進んでいる。逃げる訳がない。
木の間隔に動きがあった。
一瞬でタリヤさんから魔法の波が湧いてきて、空気が炎になった。攻撃か反撃か分からないが、取り敢えずサポートの魔法壁を作っといた。普通の結界より頑丈だから、S級魔物の攻撃は耐えると思う。
向こうから悲鳴が聞こえた。が、その後返鳴き声がいくつか返事して来た。キマイラは数体あるのか?!
透明魔法を中止して、感知した。遠くからわからなかったが、力強い一体の影に数体の小さいキマイラがいる。数は…5体。
いつの間にかタリヤも透明魔法をやめた。涙目で口を塞いでいて、まだ炎を出している。
相変わらず圧迫感のある彼女は怒りが面に出て、目が一瞬赤く輝く。
「こんな臭い物、絶滅してやる」
魔帝王でも、無理な物は無理です。そして、彼女の苦手物リストに一位になったのは悪臭のキマイラです。天敵とも呼べますね。




