教師の休日・4
数時間後、着陸した。夏の昼はかなり暑いが、飛んでいる時はあまり感じなかった。最初は風のせいだと思ったが、スピードの割に風は強くなかった。魔法感知使ったら、ナタリヤさんは結界を張りながら飛んでいたと分かった。風除けや温度調整も含まれた結界を感心しながら観察すると、時間があっという間に進んだ。
「あ、そろそろ国境ですか」
「…いや、もう越した」
「越した…?じゃあ、ここはオルフィナですか」
周りは深い森で、道すら見えない。
「正式にはオルフィナの向こうにあるワイルドランヅ」
地理を教える時に使うでかい地図の左上にある空白部分だ。遊牧蛮族が住む、冬は長くて寒い土地。
「休憩いる?」
腕を解放されたから少し回した。ずっと引きずらるている体制だったので、ちょっと硬くなった。
「数分取ればありがたいです。で、何で世界の果てに来ましたか?」
「魔法感知を最大限にして見れば?話すより速い」
そうすると、一番に気づいたは彼女の影響範囲。見たことないぐらい広い。操りに得意ミランネ嬢様より大きいそれは流石魔帝国の上位貴族と感心してしまう。そして、背伸びしている時に指先が何かに触れたように、感知出来る範囲内ぎりぎりの所に異変があった。
「これは…キマイラですか?いや、ちょっと違う気が」
「そう、グレートキマイラの変種だよ。問題を起こす前に終末する」
「何故自分達が?」
普通、こういう事をするのは一流の冒険者や勇者達。家庭教師兼研究者の自分と程遠い任務だ。
「…本当にミランネちゃんから何も聞いていないの?」
「いや、特には」
ナタリヤさんかはびっくりした顔でこっちを凝視する。
「じゃあ、何でついてきたの?」
間違って賛成してしまって、プライドを保つためにそのままついてきたとは言えない。
「美女に声掛けられて断る理由がなかったからです」
ボソっと言った。多分彼女には嘘が通じない。自分は嘘をつくのも下手なので。だから、ギリギリセーフの理由を言った。
だって、生きてきた38年に見た女達の中で彼女は一番美しいと思っている。妖精女王と呼ばれるミランネ嬢様や天使と呼ばれるアリス王妃様とは違う圧迫感を纏うナタリヤさんは目の保養を超えて、まばゆくて目をくらます。
その見目麗しい女性がそれを聞いて固まった。胡散臭くて引いた?おじさんが格好つけるのもあれだけど、一応本音だ。
「ナタリヤさん?」
「…今年、赤双満月があるよね。変種の魔物が異常に発生し始まった」
あ、聞かなかった事にしたんだ。ありがたい。
「私は先月ミランネちゃんの所に訪れた勇者をちょっと強引に帰らせたから、彼が倒す筈だったS級魔物は私が責任を取って排除する。そして、転生者の代わりに教師のヒューストンさんも参加させようと提案したら、ミランネちゃんは反対した。が、本人が賛成したから今に至る」
「つまり、デートコースは遠出のキマイラ狩りですね」
「まぁ、そういう事ね。でも、何も知らせなかったら準備出来てないよね。大丈夫なの?」
「はい、問題ありません」
手ぶらで魔物狩りに来た自分を当惑した表情で見るが、そんなに弱く見えるのか。
「本当?言っとくけど、キマイラと言っても、SS級に近いよ」
「久しぶりの魔物狩りですから、腕が錆びたかもしれません」
自分の手を見ると、昔とは程遠い綺麗な肌だが、感覚がまだ残っている。運動も毎日欠かさず続いたので、体力は問題ない。最近はカヒラ邸宅の従業員と混ぜて模擬戦も始めたので、反応速度が速まった。影歩きを頼りにしている彼等の攻撃を避けるのは大変だから。
魔法空間からジャケットと手袋をとって装備する。そして、久しぶりにお婆さんの杖を手に取った。寝る前に毎日手入れしているが、日の下で見るのは何年ぶりだ。二年ぐらいか。
「魔法空間使えるの?」
「非常用物しか入れられない箱サイズです。本物の空間とは程遠いです」
この劣っている魔法はミランネ嬢様の空間に比べたら山ともぐら塚の違い。人前にあまり使わないようにしているが、仕方がない。でも、恥ずかしい。かっこいい所見せたいけど…自分はこの程度の男。
「その武器は何?長刀…じゃなくて槍でもなさそう…」
「歩行杖です」
「その歩行杖には魔法刃があるけど?」
「自衛の為です」
普通の人はボロ布に巻いた棒にしか見えないが、流石帝王国の上位貴族。一瞬で見破った。模擬戦には普通の棒を使うが、この杖の方が手にピッタリだ。久しぶりに本気で振るう機会が尋ねてきた。
その時、手に握っている杖を愛しくて楽しそうに見つめている男は何故か魔帝王の心拍を速めさせられた。
模擬戦は元々帝王国とカヒラ王国の従業員の格付けとして始まったが、今はもはやスポーツ感覚になっています。影歩きの広まりはここに拠点があります。
そして、ナッシュ・レクセ・エルの仲良しコンビは最初の模擬戦の反省(飲み)会に誕生しました。




