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魔嬢様の遊び  作者: たんぽコロ
2ー魔嬢様の賭け事
32/44

教師の休日・3

「ーーですから、今日は駄目です」


 影から出ると、光を眩しく感じるので、数秒は目があまり見えないが、お嬢様の声ははっきり聞こえた。


「ア、いた。ね、今日は休みでしょ。デートに行かない?」


 知らない声が誰かを誘っている。


 最初見えたのは前に立つエルミナ。彼女の薄い茶髪と鋭い目つきは見慣れている。そして、数歩離れている所にはミランネお嬢様がいる。普段着の飾り気のない灰色のドレスを着ている。来客用の衣装ではない。


 でも、お嬢様の隣には確かお客さんがいる。半月前、真夜中に見た美女がそこに立っている。間違いない。恐ろしいぐらい魔法が多くて濃い。空気が重くて息が詰まる感覚は覚えている。


 熱帯海の色の目が光りながらこっちを見ている。

 お嬢様が振り返って、自分を見た。


「ヒュー先生、何でーー…エル、呼んだの?」


「はい。彼は絶対暇だと確信しましたので、これが最善だと思いました」


 おい、誰が暇人だよ、この酒狂い。次、お前が飲み潰れたらおんぶしないからな。


「緊急事態でもないからわざわざ呼ばなくてもいいのに。今日は休みでしょ、ヒュー先生。」


 おい。緊急事態だと言ったよな、エルミナ。勝手な事しやがって。何に巻込む気?


「ヒューと言う名前なの?」お客さんが自分に質問してきた。おぉ、笑いかけると益々息できなくなる。


「教育担当のナッシュ・ヒューストンです。宜しくお願いします」


 お辞儀しながらなんとか自己紹介出来た。長年の貴族学園経験は役に立った。苦労した甲斐があったと今感謝した。


「ヒューストンさんですか?はじめまして、ナタリヤ・ラメイルで~す。こちらこそ宜しくです」


 彼女が緩くお辞儀返したが、凄く綺麗な動きだった。完全に上位貴族だ。


「で、ヒューストンさん。今日は暇でしたら一緒に出掛けましょう」


「は…い?」


 マヌケ返事を慌てて修正したが、それが大の間違いだった。うっかり賛成してしまった。


 それは彼女が見逃さない。


「彼が了承したから、問題ないよね、ミランネちゃん。じゃ、借りるね」


「先生…」


 お嬢様は心配と呆れを混じった表情で自分を見る。


 エルミナは自分にしか聞こえない鼻笑いをしやがった。クソ、何も言い返せない、完全に自分の落ち度だ。ここは根性で乗り越えるしかない。何時もの余裕ある笑顔を貼り付け、丁寧にまたお辞儀した。


「お嬢様、行って参ります」


「…そう。先生、無事に帰って来て。私は止めようとしたからね、死んだら呪わないで」


 …冗談?じゃないよな。お嬢様はそういうキャラじゃない。


「幸運を祈ります」


 エルミナは真面目そうに言ったが、目の奥が笑っている。この子を可愛いと思っているレクセは検診した方がいい。目がおかしい。


「さあさあ、時間がないよ」


 ナタリヤさんは自分の腕を掴んで、近くで笑いかけた。悪戯っ子の色ぽい上目遣いは止めて、おじさんの照れは誰も喜ばないから。


 目をそらすと、グイっと腕が上に引っ張られた。


「ウォっ」


 足が陸から離れた。


 慌てて浮上魔法を使ってバランスをなんとか取って、空中に立つナタリヤさんを見上げた。


 彼女が自分を数秒観察したら、また微笑んだ。違う角度から見ても息が詰まる。


「魔素消費は大丈夫だね。このまま一気にオルフィナまで飛べる。」


「オルーー」


 言い終わる前にぶわあと空に上がった。浮上しているから彼女の引っ張りはそんなに力強くないが、安定安心の為に彼女の腕を掴み返した。袖の布を越しても意外と細くて柔らかい腕だと分かる。


「喋らない方がいいね。舌噛んだら大変だよ」


 そう言って、体験した事がない速さで青空に飛び始めた。振り返る暇もなかった。


 ーーー


 見えなくなるまで飛び去る二人を眺めたミランネはつい呟いた。


「先生は彼女が魔帝王だと分かって…いない?」


「さぁ。今日の陛下は角を隠しましたが、前は見た筈です。彼の観察力によります」


「角はさておき、あの魔力は明らかに魔帝王レベルよね。先生が感じないわけがない」


「以前、ナッシュの魔力感覚がちょっと鈍いと言いますか、基準がおかしいと他の使用人と話した事があります」


「それはどう言う流れで?」


「ナッシュは自分の魔力レベルが普通かちょっと中の上だと勘違いしています。教えようとしてもナッシュは世辞だと思われてスルーします。上級魔法が上手く使えない人は平凡に決まっていると彼が頑固に抵抗します」


「…()()()は無いが、どんな適性の上級魔法でも使えるのは異常だわ。そして、中級ならどんな魔法でも平等に使えるのはとんでもない事よ。魔素消費だって少な過ぎる。先の浮上魔法は数時間使っても大した消費はないと思う。適性補足効果のせいかしら」


「商会の研究者を呼びましょうか」


「いや、次の会議に提案してみる。オボロはそろそろ魔素数字表計の始発するから、その検証とついでに情報を集めてもらう方がいいね。あ、でもそれだとーー」


 研究の事に没頭したミランネはぶつぶつ呟きながら邸宅の本館方向に歩み始めた。


 エルは一瞬だけ向こうの青空を見返って、嘲笑した。


「頑張れよ、邪魔虫」

2ヶ月ちょっとで大変仲良しになった使用人達です。


この後、エルは勝手に動いた事で叱られます。絶対無駄なのに、指摘しないといけません。

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