勇者の行方・6
「姉貴!何処に転移動させた?!」
アズ兄は焦っている。
魔帝王の頭に立派な黒角が生えてきて、抑えてた魔波が部屋に漂う。
「ん?うざかったから帰らせた。」
「だから何処に」
「さあ。多分、彼の元世界。」
「多分って何だ。そもそも何で簡単に帰還技術した?」
「えぇ、アズールが見せたじゃないか。研究報告を五年間ぐらい読めば大体コツ掴めるよ。まぁ、やった事はないから選択を無作為に選んだ。だから何処に移動させたのか正直分かんない。運が良ければあの王妃の所に行ったんじゃないか。」
「確率はほぼゼロです。」
私は反論した。それはありえらい。一応彼を観察しながら転移動選択を見たが、アリスの世界はなかった。
「あぁ。繋がった世界は魔素を感じなかった。違う世界に移動したと思う」
「じゃ、彼の故郷ね。」
アズ兄は疲れた顔で魔帝王に説明始めた。
「あのな、姉貴。俺だってあの勇者は気に食わなかったが、彼はこの世界にとって有能だった。他国のSランク魔物を倒していたのは主に彼奴だ。彼奴が倒さないと、SSランクになって帝国に潜入するかも知れん。」
「別にいいんじゃない。私が倒せばいい」
「姉貴はそんな暇がない。そして、遅くなれば良民が怪我しちゃうかも知れん。」
「ミランネちゃんは新しい勇者を招きすればいいじゃん。」
「新人と十年のベテランは大違いだ。十五年前の勇者だって招きされて直後、ハイドラと共倒れになった。」
「えぇ、弱ッ。勇者って、そんなに弱いの?そこのステラちゃんだってハイドラぐらい倒せる筈よ」
ソファに寝落ちたステラはすうすうと可愛い音を立ている。クッションに涎が垂れる前にエルが拭いた。うん、私の使用人は有能。念話でステラ担当使用人を呼んで回収を頼んだ。
「それは彼女が勉強熱心で知識と訓練を欠かさずやっていますから。防具と剣を渡してハイドラの前に落とすとステラだって秒殺されちゃいます。」
「じゃあ、アズールがやればいい。Sランクは朝飯前でしょ。」
「姉貴は俺の代わりに任務やればな」
「グッ」
ダメージを喰らった様な音を出すぐらいデスクワークが嫌なのか、魔帝王。
「失礼します」
トントンとドアから聞こえたのはステラの教育担当。私が呼んだのは健康管理担当だったが?
注目がドアに集まると、ピンときた。あぁ、健康担当は魔帝王の圧迫感に耐えられないと判断したので、彼が代わりに来たね。優秀とはいえ、使用人が全員魔帝王の前に出られない。健康担当が主の前に気絶するのはいけませんね。今のように魔帝王が寛いでいるだけでも空気がブレる現象はもう慣れた自分に複雑な感情が湧く。
「どうぞ」
私が承知するとドアが開き、ヒューストン先生が入る。
「そろそろ旭が出るので、ステラを寝室に寝かせてあげて。」
「畏まりました」
あら、流石先生。全く動揺なし。やんちゃな貴族学生達を十年間笑顔のまま対応した聖人は魔帝王の前でも通常営業。拾って良かった。
ステラを軽々抱っこして、またお辞儀して退室した。
「あれはカヒラに見つかった聖人もどきか」
アズ兄は私をエスコートして空いたソファに移動しながら質問した。
私は涎チェックしてから腰を掛けた。手を繋いだまま、アズ兄は隣に座った。
「はい。魔素量と質はカヒラ王国のトップ5に余裕で入るにも関わらず、学園の教師に行き止まりでした。地位や財力もない彼はそれで限界でした。そして、彼自身はそんな野望はないらしいです。平和な日常を大事にする方です。先生が望めば、その甘い顔を使って何処かの貴族令嬢の家に婿入りして国認定魔法士になるのは容易い事にも関わらず、その道を選ばなかったです。」
「ミランネちゃんのお気に入りなの?」
魔帝王はまたアズ兄をからかっている。
「勿論使用人は全て気に入っています。でないと解任しますから。」
彼のカヒラ平和生活を壊したのは私の落ち度だった。
いや、バカ王子のせいだね。先生が胃薬研究に励んでいる事に苦笑いしただけで、マルコが嫉妬して終末指示を出した。嫉妬で暴走する王子は本当に救いようがないと心の底から思った。
その時から、私はちょっと使用人の事を過保護になった。守るのは主の任務。その時、ヒューストン先生はまだ使用人じゃなかったが、学園から追い出された時に研究者・司書として雇った。そして帝王国の邸宅の図書室の管理を任した。今はステラの教育も任せている。
「...」
アズ兄は何も言わない。
魔印はもうやらないと約束したが、アズ兄が使用人の制服に嫉妬した時、私はちょっとイラついた。先生の事件と重なった気がする。
だから今夜はその制服をあえて着た。襟に紫印刺繍付で。
「あの男性ならSランクの魔物も単独で狩れるでしょ。借りていい?」
魔帝王は無茶を言う。
「申し訳ございません。彼はステラの教育担当ですので、そう簡単に貸すことが出来ません。」
「えぇ、周一の出張だと思えばいいじゃない。あ、ステラちゃんの遠足にしてもいいよ」
転生者でも五歳の幼児にSランク魔物の廃除を遠足呼ばわりはない。
「来週の招き者が旅立つまでの繋でもいいじゃない。私も手伝って上げるから。」
タダ任務を放置して遊びたいだろうが。
「来週の結果が出たらまた考える。俺らもちょっと睡眠とったほうがいい」
「まぁね。じゃあ、ミランネちゃん。楽しかったよ。アズールも連れて帰る」
「いや、俺は」
「婚約者でも男性を朝まで残るのは駄目。はしたない」
アズ兄の腕を取って強引に立たせる魔帝王はニコニコしながら退場した。
ふうと一息整うと、エルは小さく咳払いした。
「お嬢様、勇者のお連れの方はどうすれば…」
あ。
テーブルに伏せて意識不明な二人を見た。魔帝王の魔法に耐えられなかったね。
「宿まで送って」
起きたらここに居ると混乱するでしょ。今夜の事を悪夢だと思えばいい。忘れて元の日常に戻る方が良い。
「仰せのままに」
ミランネ視点、やっぱり書きやすいです。
シアとディアンヌは結構雑な扱いをしたと反省しています。全く活用出来ない荷物になってそのまま終わりとは...一応、彼女達は金冒険者です。タダ、邸宅のセキュリティはアズ兄レベルに作り上げたので、正式なルートを通らないとデスゲームになります。




