皇太子の日常・2
「殿下!どうーー」
任務室に帰ってきた皇太子を見かけ、ぽっちゃり眼鏡の文官が喋ろうとしたが急に止んだ。
隣に動く人形さんがいる。
最上級の品に着せられた妖精の様な人形が部屋に入った。魔眼もどきの眼鏡から見る魔素が目と同じ深い紫が周りをぼやけるぐらい濃い。
「ルイン侯爵。。。ですよね。」
同僚の背高い女は小さく呟いた。婚約発表会に見かけた事はあったが、二人は下位貴族な為、遠くにいたのでよく見えなかった。
「ラン、紹介する。部下達だ。眼鏡がトマス、女はジェシー。他の人達は出張だな。」
「トマス・オールブライトと申します!宜しくお願い致しマス。」
変な緊張に固くなったトマスをちょっと呆れて、ジェシーも自己紹介した。
「ジェシカ・フローレンスです。宜しくお願いします。」
「始めまして。ミランネ・セリカ・ルインです。こちらこそ宜しくお願いしますね。何時も面倒かけているらしいのですみませんわ。」
「面倒?何の事?」
皇太子が怪しそうに部下を見た。
「無理矢理仕事を速く済ませられているんじゃないですか。去年は徹夜連続生活だったのに、私が来てからそれは一切なくなりましたよね。それは部下達の負担になっていませんか。」
華麗な笑顔で言うルイン侯爵に対して、皇太子はバツ悪そうに目をそらした。
「こいつらは一級文官だ。あんな事ぐらい出来ないなら失格だ。」
「それでも、私のせいで大変な事になってますよね。エルード男爵事件でしたっけ。かなり話題に上がります。もはや伝説になってますね。いえ、怪奇説に呼ぶのが相応しいですね。」
「俺を呼び出さなきゃいけない位くだらない事をするあいつが悪かった。」
「それはそうですけど。奴隷生贄儀式をするような馬鹿は殺しても損はないですが、せめて良民の前、祭りの最中で千切れしなくても良いではないですか。」
「俺は千切れにしたじゃない。邪神との繋がりを切ったらあいつが勝手に打破した。」
「その結果になると解ってそうしたでしょう。私の使用人がそこにいましたよ。周りが血だらけになって、人間の爪や肝が都心の一部に転がってたって。」
「そこまで猛烈な終末になると流石思わなかった。俺だって血まみれになってランの所に帰られなくなったから反省した。」
「反省する所は間違ってます。アズ兄だけではなく、数十人が邪液に触れたから大問題だったでしょう。街は清火で簡単に浄化出来ますが、人間は燃やせないですよ。」
「いや、俺は自分を清火で浄化した。」
うん。皇太子はもう非人間で認定。清火と言っても魔法で作られた火。普通の火と同じように人を燃やせる。
「それが出来ない良民は清水で洗わなきゃ行けなかったじゃないですか。朝まで続いたと聞きましたよ。大変だったでしょう。」
トマス達に同情を含めた視線を送った。
「るルイン侯爵。。。」
トマスは色んな感情を抑えた。理解者がある事に感謝、皇太子が誰かに説教された事の嬉しさ、そして薄々湧き出る恐怖。これ、喧嘩じゃないよね。皇太子を怒らすのは避けたい。婚約破棄にならないはず。。。よな。
「じゃ、ランはどうやってあいつを止めた?」
ムキになって皇太子は質問した。
「んん、難しいですね。臨時魔法空間に閉まっとくのは一番ですね。でも、私の物に触ったら嫌なので影獣を呼んで。。。いや、ポチにゴミを食わせる訳にはいきません。ではーー」
こっちも非人間認定。臨時とはいえ、成人男性が入れるぐらいの魔法空間はまず非常識。そして、生き物は魔法空間に入っちゃ行けないのは魔術師の常識。魂が入れないと何とか仮定があるが、兎に角入ったら即死する。影獣もよく分からないが怖そう。
「次は清火に覆えばいいな。」
何かの結論についた。
「はい。あ、でも火が移したら大変なので先に閉じこむか動けないようにするかですね。」
。。。次は生きたまま焼かれる人を見なきゃいけないのか。退職願い、出しときましょうか。
「話中ですみませんが、殿下にどうしても確認しないといけない書類がありまして。」
ジェシーが展示会の企画を持ってきた。
「あら。結構残ってますね。私が先に帰る方がよろしいですか。」
「いや、これぐらいならさっさと終わらせる。展示会の事だし、ランは読んだ方が良い。」
「そうですか。では遠慮なく拝見しますわ。」
ジェシーは戸惑いながらルイン侯爵に書類を渡したが、これは国内密で部外者が読む内容ではない。それが一番分かるのは皇太子のはず。
「あ、これは間違ってますね。【アルカ】【エンソ】【ハルュエ】は魔素を控えめに使わないと後が大変になるので」
真剣で何処か楽しそうに語り始めるルイン侯爵は魔法空間からペンを取って、素早く訂正した。
「あぁ、俺よりランの方がそれに詳しいからな。」
「効率的に魔素を使わないと招き出来ないですよ。普通の人は」
「ん?俺に小言か。ランだって馬鹿でかい魔素を惜しむ無く使うよな。」
「褒め言葉です。アズ兄は特別と言う事に過ぎませんわ。」
「皮肉しか聞こえない。」
「ふふふ」
上品に笑うお嬢さんに対して、皇太子は鼻で笑って自分の書類に向いた。
エッ。皇太子が。。。笑ってる?
部下達は明らかに動揺した。密かに微笑む皇太子は別人のような美青年になった。
そういえば、皇太子は二十歳前半だね。忘れてた。
「本当に転移動だけですね。正直、これだけでは影歩の方が優れていますね。」
「ランの所の使用人に比べればね。だが、軍人や物資なら話は別だろ。そして、転点のネットワークを作ったら革命的だな。」
「あら、作るの?防御的に厳しいと言ってましたよね。」
「あぁ。けど、対策はいくつか考えてるからな。政治組織が管理した方が最善だ。それに、魔素的に個人営業では難しいな。ランの所も出来ないだろ。」
「出来ないって程ではありませんが、効率的とは言えません。私が常に転移動所に待機したら何とかなりますが、それはしませんわ。」
どういう事?ビーコン企画はトップクラスの内密なはず。そんな堂々と語っても良い話ではないよ?
「殿下、これはどういう事ですか。ルイン侯爵は何処まで知ってますか。」
ジェシーはもう我慢出来なくて質問した。
「む?そうか、お前ら知らないよな。研究者がもう一人いると言ってただろ。それはランのこと。」
エッ
嘘でしょ。皆がそれは魔帝王様の事だと思ってた。陛下はこんな事に時間を使わないと分かっても、この研究に関わっている建前を作る事だと思った。
「でも、これは殿下が成人した前から研究した事ですよね。」
その時から共同研究者がいたのは判明出来る。でも、それは四年前。ルイン侯爵は大人しいが、確かにまだ未成年の17歳。簡単計算で13歳の時からこの研究に関わっているって事になるよね。
それは流石にあり得ない。
「あの時のランは生意気だったな。何時も効率効率と煩かった。」
「アズ兄が何時も莫大な魔素を使って実験の結果を誤らせましたからでしょう。」
「誤らせたって大げさだろ。ただ成功するにはどれだけの魔素を使えばいいと限界を知りたかっただけだ。それは研究にとって大事な事だ。」
その感じで口喧嘩している二人を見て、仲がいいな、と実感した。
皇太子は10代から姉の味方として政治に関わった。想像できない修羅場から生き抜けたに違いない。帝王継承戦はそういう物だ。一番強い人は上に立つ。それはエイテルニア帝王国の真実。
だから敵に容赦しない。感情を見せない。毒舌な口は防御対策だと思っている。弱みを見せたら絶滅だ。
皇太子の下に働くのは正直辛い。怠けたら首どころか頭全体が無くなる。けど、やりがいがある。改善を本気でしようとしている。建前ではなく、良民の味方、正義の味方として働いていると思う。
エルード男爵事件だって皆は文句を言うが、そのまま邪神化した男爵を逃したら首都は大変な事になってた。魔帝王様が動かないと行けなくなったら何百人を犠牲にしたのだろ。
それは国民は分かっているかどうかは微妙。近寄りがたい皇太子のあだ名は【恐太子】だから。
でも、今目の前の男性は恐太子ではなく、タダの恋人とじゃれ合っている男。
それは世間に見せた方が良いかどうかは今日からの悩みになりそう。
部下達に名前!




