王妃のバカンスー3
朝食は静かに取った。
二人は沈黙の中に野菜スープと燻製ソセージとパンを食べ続けた。
他の早朝の冒険者達は似た感じだった。夜飲みすぎたか朝弱いのかわからなかったが、夜明け前の食堂にカトラリーのカタカタしか響かなかった。
だからこそ、カインが食堂の戸口にすれ違った人に声掛けられた時、皆の注目を集めた。
「あれ、カイン?」
一人の若い女性が目を丸くしてこっちを見た。
見覚えはあった。
「お久しぶり。奇遇だね。」
何とか気軽な返事をした。とんでもない悪運だった。まさか知り合いと遭遇すると。
「奇遇な程度じゃないわよ!どうしたの、いつも王都から出ないくせに。今日暇?一緒に組まない?」
積極的に誘う冒険者は距離を縮めて、腕を取ろうとした。それを上手く回避し、後ろに立つ王妃を見た。
頭巾を被って顔ははっきり見えなかったけど、笑顔が冷たかった。
「すみません。」
うっかり王妃に謝罪した。
内密なはずなのに、はっきり名前で呼ばれた。
「あ、出口を塞いだね、ごめんね。でさ、カイン。今夜ーー」
「あ、ごめん、今ちょっと急いでいるんで。」
流そうとしたら、逆に食い付いた。
「え、何?!いいクエストとか見つかった?!」
あぁ、注目を浴びまくっている事になった。
余計な事を言わないでくれ。
「いや、そうでもないーー」
不定したが、彼女は納得してない感じだった。
「そんなにケチしないでよ。もうそんな仲になったから。ね。」
彼女なりに色気を表したが、全く惹かなかった。逆に引いた。
お願いだから、王妃の前でそう言うな!見るのが怖い。
「カイン。」
聞いた事ないぐらい冷たい声がマントから出た。いや、聞いた事はあったな。王妃は国王に話しかけた時と近かった。
「っはい。」
何この冷汗。こんな時に国王と同情したくなかった。
「雑談、終わりにして。煩い。」
不機嫌極まりだ。
頭巾あって良かった。
表情見るのが怖い。
「はい。ではーー」
「ちょっと待て。アンタ、何様?カインの恋人にでも気取ってんの?」
冒険者は逆ギレして王妃を睨み、腕を掴もうとした。
流石AGI系冒険者、動きが速い。
護衛の本能が反応して、伸ばした手を一動きで逸した。
「触るな。」
自分の低い荒っぽい声にビックリしたカインは二人の間に割った。
「ぇ。カイン、恋人作らないと言ってなかった?」
「恋人じゃない。パーティーのメンバーだ。」
朝食の前に宿代を払っといたので、そのまま宿を出ようとした。
「何その態度。騎士でもなったつもり?」
。。。いや、騎士だが。言えないけど。
「彼女さん、騙されちゃいけないよ。この人、王都では有名だわ。性的に露骨だし、女なら誰でも相手するってよ。」
ちょっと殺気湧いてきた。母に暴露されるより罪悪感あって、後悔を初めて感じた気がした。
「はぁ。カイン、最低基準低すぎ。そこを父や兄に似なくて欲しい。」
賛成。今実感した。もうちょっと相手を選ぶようにすると決めた。実際、カレン事件から怖くて性行為していなかった。突然に生活改善始まってしまった。
王妃の態度に異変を感じて、冒険者は動揺した。
「あ。。。もしかして姉だったの?」
姉では無く義母に近いんだけど、まぁそのややこしい家族っぽい関係だ。
「そんなもんだから。じゃあな。」
素早く逃げた。王妃がマジ切れする前に。
馬を乗った時、王妃専属護衛騎士から聞いた話を思い出した。王妃は朝が弱いんだって。その時、寝ぼけちゃう王妃を想像したけど、もしかしてこのピリピリ感が朝のせいだったのか。
兎に角、昼頃は和らいだ。
「カイン、ちょっとしゃがんで。」
休憩兼昼食をした後、王妃は急に命令した。
軽い罰か説教を受ける覚悟を持って、膝を折った。
頭を垂れたら、王妃は近くに来た。丈夫な革靴とマントの裾が視界に入った。
。。。王妃秘伝術【頭割チョップ】か?!噂は聞いた事あるけど、まさか自分がうけると思わなかった。マルコは本気で痛いと言ってたね。
気を引き締めて待つと、違う感覚が。ワシャワシャと髪が。これ。。。
「アリスさん?」
「うん。やっぱり髪変わると結構印象違うね。」
うなじ、何かくすぐったくなった。頬に髪が触れた。
「はい終わり。どう?」
「ナデナデ感想ですか。」
「。。。。」
頭を上げたら、王妃は笑いを堪えた。
「違うわ。カインの髪の毛を伸ばしといたの。わからなかった?」
カインは髪を触った。今朝はショートに揃えて、真面目な騎士っぽい髪型だったけど、今は目と項を隠せるぐらい長かった。
「これ、無駄スキルですよね。」
「え、結構便利だよ。変装の時とか頻繁に使うよ。他人だと時間かかるけど、カインは三時間ナデナデ耐えると腰まで伸ばせられるよ。」
三時間のナデナデ。。。
「腰までだと不便そうだからお控えします。」
「男性は貴族女性の苦労を一度ぐらい体験した方が良いのに。呆れるぐらい面倒だよ。で、感想は?」
「見えないのでよくわかりません。」
「ナデナデは?」
完全にからかっている王妃を見上げて、睨む願望を抑えた。
「。。。不愉快ではなかったです。」
「フフ。それは良かった。
私からの感想は。。。カインの髪の毛は意外とサラサラで、もっとナデナデしたい。腰まで伸ばさせるぐらい。以上。」
王妃はそのまま馬の方に行った。
カインは真っ赤な顔が冷めるまで動かなかった。




