王妃のバカンスー2
この編を誰視点にするかを結構悩みました。
王妃の編なのにカイン視点にしたのは書きやすかったのと王妃の考えの方がちょっと刺激的過ぎると思ったからです。
猫看板の宿についたら、小太りなおじさんが迎えた。
「いらっしゃいませ。宿泊ですか。それとも夕食だけですか。」
「一泊宿泊です。二人部屋でベッドを二つ、夕食も取るつもりです。朝食は日の出前に取れるなら取ります。」
「はい、畏まりました。宿泊客は冒険者が多いので、シンプルな早朝食が御座います。」
シンプルな鍵を渡された。安全性は低そうと思った。
「夕食はあちらのドアの向こうの食堂に取ります。部屋は階段を登って右の三番目です。荷物は?」
「厩舎で馬達と置いてきた。後で取りに行きます。」
嘘だ。王妃は魔法空間が使えるし、カインだって魔法鞄持っていた。けど、それは言えなかった。魔法鞄は高いから狙われやすいけど、魔法空間が使える人は貴重だ。この国に十人居るかどうかレベルだ。
「はい。では、ごゆっくりどうぞ。」
部屋に入ったら、王妃は背伸びしてマントを脱いだ。
「ォアリスさん!その髪型は?!」
「オアリスって。」
笑われた。けど、それより王妃の頭が大変なことになってた。
ラベンダー色のツヤツヤ髪は短く切られた。バッサリと。肩に丁度触れる長さだった。
「似合わないかしら。」
似合う似合わないというより、貴族の女性の髪型ではない。女性冒険者ならなくはないが、珍しい。印象は大分変形した。
「どうして。。。」
「気分転換かな。それに、こっちの方が素に合うと思う。そんなにショックなの?」
確かに前の容貌と程遠い性格をした。今ベッドの脇に座った女は簡素なのに圧迫感があって、悪戯っ子の青い目が光ってた。マルコと全然似てないと思ったけど、その目がそっくりだった。
「似合います、アリスさん。」
彼女は密かにびっくりしてから微笑んだ。
「ありがと。」
手軽な夕食が出されても王妃は何の躊躇いもなく食べた。シチューと黒パンのメーンと旬のフルーツの盛り合わせだけだった。
「食事はいかがですか。」
もし本当は苦手だったら次はもうちょっと豪華な宿を取るべきと思った。
「うん、美味しかったわ。久しぶりに故郷を思い出した。」
「故郷ですか。」
王妃の故郷は異世界と言う事よね。こんなシンプルな食べ物がそんな遠隔な所を思い出させると思いもしなかった。
「そう。家族と一緒に作って食べてた味と似ているかも。んん、似ているかな。昔過ぎて良く覚えていないわ。」
王妃はちょっと寂しげな苦笑いをして、エールを手に取った。
「帰りたいと思いますか。」
彼女は静かに深く飲んでから返事した。「それ、聞かれた事は無いね。あの人が恐れていたと思う。私が【はい】と答えたら。」
「すみません。」
「謝らなくていいよ、別にカインが悪くないでしょ。
んん、微妙だね。ここに来てからもう20年近く過ごしてきたし。
故郷の変化は速いのよ。帰っても異世界の様にまた違和感を乗り越えなくちゃいけないと思う。家族がまだ生きているかどうかわからないし、戦争に負けて実家はもうない確率は高いのよ。」
「戦争ですか。」
考えもしなかった。異世界って夢のような所だとずっと思ってた。食料豊富で生活基準が高くて、王妃のような優しい人が育てる環境。
「うん。【怪獣】と言う化物が溢れてた。数十分で百万人の街をぶっ壊す怪獣や街に忍び込んで暗闇で人間を食う怪獣。S級邪悪魔物を超える強さだと思う。正直、こっちの方が安心安全だね。」
「聞いた話と大分違いますね。」
「うん。だって、今まで言わなかったから。」
「何故私に言うんですか。」
「え。聞かれたからかな。ま、他の人に聞かれてもここまで言わないけど。」
ちょっと嬉しい半面、疑問も浮かべた。
カインはカレン嬢の件まで王妃と接点は本当に少なかった。王族護衛に任務された時の一言や護衛全員に出す指示ぐらいだった。正直、その朝食の時に呼ばれるまで、カインの名前すら覚えてないと思った。
けど、王妃は知ってた。全部知ってた。長年隠した父の事を当たり前のように話した。
彼女はエールのお代わりを頼んでカインにまた話しかけた。
「そんなに重苦しい話なの?この世界に関係ないと思うけど。」
「何故私なら話すんですか。。。憎んでいるからですか。」
大切な人達に話さないで、無関係者に話せることってあると先輩騎士に言われたことがあった。
「ん?カインの事憎んでいるなんかないよ。逆になんでそう思うの?」
「。。。私がいたからおーー旦那と疎遠な関係になったんですよね。」
「んん、ちょっと違うね。あの人との関係はその時に絶対零度になったけど、別にカインのせいじゃないよね。」
「それ、慈悲や哀憐ならーー」
「カインはさぁ、異母兄弟何人いるか分かる?」
王妃、飲みすぎたかも。目がちょっと怖い。
「えっ。」
「少なくとも6人いる。私でも全部把握してないよ。だから、子供達は悪くないと決めたわ。
相手達も断れなかったと思うから嫌いになれない。
全部あの人の過ちにした。じゃないと十人以上憎まなきゃいけないのよ。私だってそんな暇ないわ。」
クスクスと笑って、王妃はまたエールを飲み干した。
「質問の答えは。。。そうね。カインは事情を全部知っている。同じように苦しんで隠してきた。あそこ以外居場所がないけど、心地よくない。そんなとこかな。」
啞然としたカインを見て、また笑った。
「間抜け顔は息子と似てる。」




