王太子の悩みー後
―――深夜の宮殿は普段以上に忙しかった。
使用人、文官、騎士、護衛、軍人。全員は慌ててあちらこちらに走っていた。
その宮殿の真ん中にある会議室に数人が静かに立派なテーブルに座っていた。
国王と国王妃。
ラオダ公爵。
ネアキ伯爵。
カレン嬢。
そして王太子の俺。
深刻な暗黙を破ったのは母だった。
「要するに、マルコの悪ふざけが度を越して、ミランネちゃんを手放したのね。」
言葉が深く刺した。
「っ。。。はい。」
素直に認めよう。母はいつも見透す。
「馬鹿な事をしたね。普通に過ごしたら、ミランネちゃんと結婚出来てたのに。自然にアンタのお嫁さんになって、ハッピーエンドな結婚式を開いて。」
何も言えない。
「それにしても、厄介な事になったね。ねぇ、何時からその書類を作り始めたの?」
「一ヶ月ちょっと前。彼女が帝王国に旅行した時。」
ラオダ公爵を見て確認した所、彼は頷いた。
「旅行じゃなくて、祖父のお葬式に参列する為だったよね。元ルイン侯爵の。」
そうだったのか。
「彼女は最近宮殿に来なくなって、いつも留守だったから、どこかで遊んでいると思ってた。」
王妃は溜息を吐いた。
「宮殿に来て、マルコの虐めを耐え、毒まみれの食事を耐え、帰る際に暗殺者を避け。。。誰が積極的に来るの。誰だって引き籠るわ。」
薬物なら覚えはあったが、流石に暗殺はなかった。
俺の疑問を見透したようで、母の目は隣の人達をチラッと見た。
気まずそうな表情が浮かんだラオダ公爵。
僅かに眉が反応したネアキ伯爵。
状況をまだ追いついていなくて放心状態だったカレン。
「ミランネを殺そうとしたのか。」
俺の言葉に慌てたのはラオダ公爵。今年に入って彼女の情報収集の為に親しくなった男は彼女の暗殺依頼をしたのか。
「デっ殿下の指示に従っただけです。ミランネが帰れなくなるようになんとかしろとか言われました!」
「それが暗殺に繋がった?!」
感情が表に出て、拳がテーブルを叩いた。ヒビが入った。
「貴方達に簡単に言ってあげます。
マルコはミランネちゃんにメロメロでどうしても彼女に恋愛感情を湧きおこさせる為に色々やらかした馬鹿息子です。
そしてカレン嬢と結婚する意思は一滴ありません。
そうでしょ、マルコ。」
「ん?俺がカレンと結婚するわけないだろ。」
「妹を妊娠させておいて王族は何の責任も取らないと言う事ですか。」
ネアキ野郎が反論した。
母上の前で口を慎め、無礼者。
「いいえ。もし子供がマルコの分身だと判明したら、王族古伝の扱い方をします。ね、陛下。」
「ぉおう。」
「この子はマルコ様の子です!」
ボーとしてたカレンは急に叫び出した。
その必死な表情を見て、あぁこれに惹かれたと気付いた。彼女と違って、カレンの建前の裏にあったのはこの本心。
頼られている。俺がないと生きていけない。
そう思わせた。
気持ちいいかもしれないけど、それは愛だと思わない。
「なんでそんなに自信ある?」俺が聞いた。「特殊魔眼とかで確かめたか。」
「っ!マルコ様の子に決まってます!マルコ様としかーー」
「言っとくけど、王族に嘘を吐くと斬首刑だよ。」
「。。。。」
だね。使用人達から散々聞いたし、証拠もあった。今そう言うと妊婦でも監獄行きだった。良くそんな自信満々に嘘を吐こうとした。
「と言う事で、帰って。後日連絡するわ。」
護衛達は貴族達を連れ出した。
テーブルは3人となった。
「今一番重要なのは取り戻す事。私は帝王国に行って、ミランネちゃんと交渉するわ。」
母は突然爆弾を落とした。
「母上!そんな事しなくても勇者・聖女数人招けばいいでしょ。」
「いや、それは出来ない。か弱い姫を無理やり帰らせるのは勇者に飲み込みづらい提案だ。魔王に誘拐されたとでも言ってもミランネに合うとバレる。。。交渉だったら、私より適任は無いわ。今この宮殿にいる者の中にミランネちゃんと一番仲良しなのは私だわ。」
「じゃあ、俺も行く。」
「それは駄目。この騒ぎの後、王太子は宮殿を落ち着かせる方が良い。私の顔は広くないし、一応聖女の力を持っているからヒーラーとして帝王国に冒険者として侵入出来る。」
「。。。分かった。でも、一人じゃ不安だ。カインを連れて行け。」
父が賛成しやがった。壁で控えてた騎士カインは前に出てお辞儀した。
母上は明らかに不愉快な顔をした。「。。。いくら優秀でも、真妻の護衛を隠し子に任すのは趣味悪いと思うわ。」
部屋が急に凍った。
カインは昔から俺の稽古仲間で一流剣士だ。仕事にクソ真面目だが、私生活は結構チャラいらしい。俺と同い年なのに売春婦なしで経験人数は三桁に近づいていると噂で聞いた事はある。
ちなみに、カレンの証拠を作っといたのはカインだった。
じゃあ、カインは数ヶ月違いの異母弟なんだ。
俺は父似だが、カインは母似かな。銀色の髪と若葉色の目だし。あ、鼻の形とか顎のラインは似ているかも。
考えている間、俺の視線は父に向いた。冷汗をダーと垂らしていた。
母は全部見透している。聖女の力か分からないけど、俺の中には疑えない真実だ。そんな馬鹿な事をやってバレていないと思った?自分は責める事はできないが。
父の後ろに立っているカインは引きつった表情で凍結した。俺の視線を恐れていた。
知らなかったけど、別にショックほどでもなかった。[へー、だから幼い頃から宮殿で訓練始めたんだ]ぐらいしか思わなかった。
「別に良いじゃないか、母上。カインは確かに優秀だし、もう冒険者登録しているから丁度良い。これは王族の問題だから、身内で収めた方が最善だと思う。」
真面目なカインは昔からの休日、訓練と言って冒険ギルドの魔物退治クエストを受けたりしてた。そんなに戦うのが好きかと聞いた所、そうでもなかったらしい。面白いからっと答えた。良くそんな事までやって、女と遊ぶ時間を見つけると感心した。
「意外と冷静だね、マルコ。」
母のびっくり顔は久しぶりに見た気がした。
「まぁね、半年前なら父上をぶん殴ってただろう。けど、今俺はその権利がない。」
「最初から無かったよ。」とカインは小さくツッコんだ。
「けど、俺より強くないと話にならない。カイン、訓練場に行く。」
「まだ寝てないでしょ?明日にすれば。」
母はそう言ったけど、却下した。
しばらく寝ない気がした。
使用人は慌てて訓練場を点灯した。
「本当に大丈夫か、マルコ。」プライベートではタメ口のカインがまだ戸惑ってた。「王妃と一緒にミランネ嬢の所に行って。」
「偉い自信あるな、カイン。まだ勝ってないぜ。」
俺は数年間カインに勝った事はなかった。けど、今なら勝てる気がした。剣を握っている手は力が溢れていた。
最初の攻撃にブロックしたカインは眉をひそめ、何とか逸した。
「。。。チェっ」
夜空の下に金属音が響く。
重くて容赦のない音が速まる。
息が上がっても弱まらない。
シャツが破れても辞めない。
カインは残忍性を発揮しても止まらない。
「ハァっハァっ」
世界が赤に染めた。
余計な事を考えなくて良い。ただ目の前の奴に勝てばいい。
「うりゃあア!!」
カインは俺の剣を叩き落とし、拳で殴り始めた。
流石カイン。剣では匹敵だとしても、王子の俺は殴り合い経験は浅い。
一発目は顎に当たって、そのまま殴り落とされた。
ーー
目が覚めたら、自室のベッドにいた。
「本当に馬鹿息子だね。呆れたわ。」
母の声に答えなかった。
「午後出発なのに目覚めない馬鹿息子に見送れないと思ったわ。」
「今日出発なのか。」
「そうね。緊急事態だもの。。。国王はアンタに言わない方が良いと言っているけど、カヒラ王太子として知らないといけない事だと思うから伝えるね。ミランネは勇者・聖女招き道具を持っている。五年前から所有した。取り戻すのはどれだけ大事な事か、分かるよね。」
小さくうなずいた。カヒラの力の源はその勇者・聖女だ。その切札を失くすとは致命的な打撃だ。
「だから、マルコはここで強くならないといけない。勇者同様の力は持っている。この国を守らないといけない。」
母は俺のデコを撫でて立ち上がった。
「行ってくるわ。元気でね。」
新しいキャラは登場しました。
乙女ゲームチックな設定から早く目覚めた王妃。
夫の隠し子との冒険旅はどうなるか。。。
そしてその先に待っているのは。。。
お楽しみに!
ミランネの所までスキップしたい方は『魔嬢様の人生ゲーム遊びー1』にどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n6777fj/16/




