事象の確認
明日があるのか分からない瞬間というものは、不意に襲ってくるものだ。
今がその時。現在時刻は不明だが、太陽の位置からおおよその時間帯は確認できる。それでも、今が何時なのか、ここがどこなのか、詳しく知りたい気分だった。
しかし、気分というものは転換もできるし、興味のように無くす事もできる。今回がそれ。
実際に、そんな感覚はとうにどうでも良くなって、消えてしまった。おかしいな。あれほど、気にしていたはずなのにどうでもよくなるとは。
それもそのはずなのかな。
俺は、当たり前のように瀕死の状態だった。
頭ではなく、身体のほうで。いや、脳震盪の可能性もあるので、頭への影響は知れない。おそらく、あるはず。現に、考えがまとまらず、常にぼー、としている。血が抜けすぎているのか脱力感もハンパない。そもそも、脱力感よりかは実際に脱力している。変だとは思う。痛みがない。更に言えば、眼でさえ見えない。視力の低下?出血程度で?いや、もしかしたら、脳震盪での影響がきているのかも。
やばい、俺死んじゃうん?
呆気なく人生の幕下ろすん?
それもいいか、と思うほどの脱力に呆れてしまう。
近くで誰かの声はすれども、姿は見えず。しかし、手を持たれているという感覚くらいは残っている。不思議なものだ。おそらく、俺が助けようとした女の子の手だろうか。小さいけどもしっかりとした体温を維持している。血の流れを実感できるような、そんな温かさ。本来、人が持つべき体温。それが、今は熱く感じる。何を意味するかは察しはつく。
こっちの体温の低下。つまりは、出血多量。本来、留まり半永久的に活動するはずだった赤血球もろもろの排出。それは、人体にとって必要な体温を保持するための重要器官をリリースしているのと一緒だった。おそらく、死亡。
短い人生だとか、走馬灯だとかはこういう時にいっぺんに見せられるので、堪ったもんじゃないが、少なくとも、まだ命の灯火と呼ばれるものは生き繋いでいるのだと思った。
俺自身、重傷の身で何かできるわけでもない。まず、身体が動かない。どうしたものか。考えだけが空回りする感じ。自分が無力だと理解するには充分だった。
ここまでは、自分の心配。こればかりはどうしようもない。何か、色んな人の声が重なるので、わけがわからない。女の子は無事なのか、意識は、呼吸は、脈拍は、とかいった心配事がずっとぐるぐる回っている。頭の中を、嫌でも。杞憂だと願うことしかできない。そんな自分が憎たらしいと思った。結局、聞こえくるのは、大人の喧騒に紛れた初恋の人の声だった。