第九話 妖怪報告
ぬえと猫又は面白くなさそうな顔で他の妖怪たちが集まるのを大部屋で待っていた。
何せ今回最高にして最大の『現地人と接触&協力を得る』を達成したのだ。
当分は天狗のように鼻を伸ばしてやろうと思っていたのだ。その矢先にマヨイガのすぐ外に置かれている三つのドラゴンの死体。
伸ばそうとした鼻が伸びきる前に折られた気分だった。
やったのはカロ山脈の調査にいったいっぽんだたらだった。他にも妖怪が付いているが、今回は強さを確認するためいっぽんだたらのみで戦ったとのこと。
調査で言えば成功だろう。しかしぬえと猫又に比べれば劣る成果だ。
だがインパクトがあった。どでかい三つの死体。しかも今まで見たことのなかった西洋型の龍、つまりドラゴン。
蛇のような姿の東洋型の龍は過去に見たことがあった。しかしトカゲに翼を生やした西洋型の龍、ドラゴンは見たことが無かった。
不覚にも一瞬その姿を見て興奮してしまった。死体だと言うのにときめいてしまったぬえと猫又。
おそらく会議が始まれば成果としてぬえと猫又がトップとなる自信がある。しかし絶対に次にこの言葉が続く。
「でもあのドラゴンはすごかったな」
これではあまり鼻が伸ばせない。偉そうに踏ん反り返り周りを見下す遊びが出来ない。
天狗の前で鼻を伸ばして天狗を馬鹿にできない。
そんなことを本気でしたかったぬえと猫又だった。
「はいはい~、それでは妖怪会議……何回目? まあそう言うのは良いんよ。開始なんよ」
他の妖怪も戻り始まった妖怪会議。成果ならいつも通り議長のようなものをしているぬえと猫又が一番だろうが、誰もがドラゴンに目を奪われていたのを見るとインパクトでは勝てないと思われる。
「それでは報告を。ん~、地味な成果そうな一反木綿から」
「地味とはなんじゃい! カラル以外の街も見つけてきたわい! ついでに雪山もな!」
外を見てきたが何にもなかった、という報告を期待していたのまともな報告だった。しかしやはり地味ではあった。
すでにカラルを見つけてある以上、これ以上の街を見つける必要が今はない。雪山を見つけても寒い地域の妖怪が喜ぶだけで全体的に見ればスキーが出来るな、程度の感覚だ。
雪女はかなり喜んでいた。まあ、距離的に行けるようになるのはもう少し先になってしまうが。
「次、カロ山脈方面」
カロ山脈方面はいっぽんだたらや牛鬼など戦闘特化の妖怪が向かっている。もしその妖怪たちが総出で出向き倒せたのが外にいるドラゴン三匹だとすれば、安易に近づいて良い場所ではなくなるのだが。
「あれ、おで、殺ってきた。うおー!」
「「「うおー!」」」
随分とノリが良い。そしてどうやらあの三匹はいっぽんだたらだけで戦った結果だった。
カロ山脈はカルの森以上に広大。その上魔物の数も膨大。そのため満足な調査が出来ぬと判断し、魔物の強さだけをとりあえず調べることにしたらしい。
その中でも特に強かったのがあのドラゴン。カロ山脈の魔物の中でも上位に入ると思われ、一匹の強さは妖怪の中では猫又程度。
それは戦闘特化でないものの、人を襲える力を持っており長年生きた妖怪の領域。妖怪の中では強くもなければ弱くもない、そんな所。
これで魔物の全滅の話は消えた。その強さ程度なら減らすことは出来るが全滅させるのは骨であり、面倒と全会一致で決まった。
「はい、待機組。特に期待してないけど何かある?」
「あぁ?」
待機組代表の雪女が先程までの雪山発見の方に喜んでいたを一変させ、一瞬で頭に血管を浮かび上がらせぬえにベアクローを極める。
が、ぬえは変形する~、などとのたまいながら頭をゴムの様に変形させて対応する辺りまるで意味を成していなかった。
「チッ! 良く聞け、重要な話をしてやろう。各々伝承をきちんと決めろ。日本では地域ごとに若干の違いがあったが、この世界では下手に差があると魔物と誤解され、混同される可能性がある。日本にいた頃の様に、急いで自分の存在を広めようとして細部があやふやだと他の妖怪にも迷惑がかかるであろう。私に迷惑をかけてみろ、氷漬けにしてやる」
キレながらな所為か威圧的に聞こえるがいつも通りである。
妖怪の伝承が地域ごとに差があったりするのは実は細部まで詰めていなかったり、後でこの設定付け加えた方が良くない? などの考えなしの行動ゆえである。つまりキャラ付けを固定せずに動き出した所為で差が出てしまった。
しかし異世界ではそれが致命的になり得る。それを待機班が気づき今回の報告となった。
その所為で複数の妖怪が頭を悩ますことになった。意外に適当なのだ、妖怪は。
「ふん、ぬえは苦しいだろう。いくつも姿を持っていると」
「余裕! 良く分からない=ぬえの構図で乗り切る」
腰の入った雪女の右ストレートが放たれたが、ぬえはあっさりと回避。そしてそのまま逃げるように猫又の下まで行き、猫又を抱きかかえる。
「聞けーい! カラル出張組は現地人との接触に成功。協力を仰ぐことが可能となった」
猫又を高く掲げ、今回の会議最大の成果を発表する。全員の印象に残りやすくするために最後に回したのだから。せこい。
「その協力者から少しずつ妖怪の存在を広めようと思うんよ。だけど待機組からの指摘もあるから、伝承を審査する必要があるんよ。だから審査会の発足するんよ」
伝承の審査、それは妖怪が他の妖怪にいちゃもんをつけても問題ない最高の遊び場。
当然発案者のぬえも参加しようとしたが、意外な所から待ったがかかった。
「ぬえと猫又は協力者に頼むんじゃ、こんな仕事させられんの」
「あら、それは全部ぬえがやるわ。だから私は参加を希望するわ」
一反木綿と猫又の連携により、一瞬でぬえは参加が出来なくなった。
まさか封じられると思ってみなかったぬえは地団駄を踏み、ここにいても仕方ないと悟ると八つ当たりに風狸を捕まえてカラルへと向かった。
協力者に説明するという大義名分を得て。