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第七話 独り身

 猫会議を強制的に終了させ、ぬえと猫又はミミリナの後に付いて行き、住居兼店舗の薬屋に入った。

 ポーションと言う地球には無かった物を扱う珍しい店を見てぬえと猫又は。


「何よこの店。変な匂いがするわよ。ちゃんと掃除してるの?」


「玄関からすでに酷い匂いが、帰って良いん?」


 非常に図々しかった。遠慮と言うものが一切ない。

 

「あ、あの。何で付いてくるんですか?」


 付いてきていたのは分かったが、威圧感が凄まじく聞くに聞けなかったことをようやく聞く。

 本来なら獣人がただの猫にこんなへりくだった態度はとらないのだが、どうも目の前の二股の猫二匹はただの猫に思えなかった。

 

「文句? 良い度胸ねあんた。こんな臭い店で目の前のでかい酒場みたいなところは常時うるさいじゃない。そんな店しか持てないあんたが私に文句?」


 ぐさぐさと言葉が鋭い刃となってミミリナを突き刺す。立地としては上等と言い返そうとしたが、猫又が言った事は自分も不満に思っていたことなので反論できない。

 追い打ちとばかりに処刑級の一撃が振り下ろされた。


「独り身のくせに」


「それは猫又もんよ」


 ただし両者に対して。

 

「ハ、ハアアァァ! 私は妖怪だからよ! 仕方ないの! 妖怪だからそれが当然なの! ぬえ、ふざけたこと言ってると噛むわよ」


「妖怪になる前から独り身なんよ。俺知ってるんよ。妖怪候補はしっかり見てきたから知っとるんよ」


 キャシャァァ、と猫又はぬえに跳びかかるが、ぬえは素早く棚に上がると昇ってくる猫又を猫パンチで迎撃する。


「同士」


「ど、同士じゃ、同士じゃないわ。うわああぁぁ」


 ミミリナから同士認定の一言に猫又は目に涙を浮かべ、二階へと掛けて行った。

 先程までの威圧感はどこへ行ったのか、ミミリナは困惑しつつも残ったぬえを見る。

 ぬえは平然としていた。そもそも妖怪は普通独り身が基本であり、独り身を気にするのは途中で妖怪となった者だけ。


「よ、良かったのですか? 仲間でしょう?」


「別にそんな気にしなくて良いんよ。というかあんたが気にするのはそこじゃないと思うんよ? それより、聞きたいことがあるんよ」


 聞き出すのはエルフやドワーフなど人間以外の人の種族、このカラルという街について。また街を見ていたときに気になった物、魔物の定義、人の強さなど。

 大半がミミリナにとって当たり前すぎたらしく、あまり詳細な説明は得られなかったがある程度の情報は得られた。

 人間以外にも人はいるがぬえから見て大差はないと判断した。寿命が長かろうが手のひらサイズ人だろうが、そんなのは妖怪にいくらでもいる。

 カラルについては特殊な立ち位置と適当に理解しておく。ぬえにとってカラルは世界的にも大きいと言うことだけが重要だった。

 街の設置物、魔物の定義、人の強さなどは曖昧にしか分からなかった。

 街の設置物には魔力と言う妖力に似た何かが使われている。魔物の定義は不明。人に害を与える生き物かと思えば人に害を与えても魔物扱いされない動物もいる。

 人の強さに付いてもミミリナが元中級冒険者だと教えられても、その肩書きがどれ程の物なのか分からず判断出来なかった。


 得た情報を整理し、これからどうするか考えているとミミリナがおずおずと尋ねてきた。


「あの、あなた達は何なんですか? 魔物とは思えませんし、人でもないですよね?」


「確かに人じゃないんよ。でも魔物じゃないんよ」


 じゃあ何か? ぬえはにっこりと笑うとミミリナの前まで移動し猫の姿からミミリナの姿へと変わって見せた。


「妖怪、なんよ」


 え? と戸惑いからゆっくりと目の前の状況を理解できたミミリナは。


「えええぇぇぇ!」


 叫んだ。驚きのあまりひっくり返って。

 その様子をげらげらとぬえは指差して笑った。


「おどかし専門の妖怪が頑張る理由が理解できるんよ。おもしろ――ん?」


 何かを察知したようにぬえはミミリナの姿から普通の猫の姿になり、棚の上へと飛び上がった。そしてそのまま身を屈めて隠れてしまう。

 妖怪とは、今の変身はなんなのか、そしてその行動の意味は。

 疑問が浮かぶが、それよりも早くぬえはミミリナに言う。


「秘密、なんよ」


 何が? その疑問はすぐに氷解した。

 入口が開き、常連であるエルフのクラーがやってきた。ドワーフのガランも連れて。


「どうしたんだ。お前が休業とは」


「この間の騒ぎでポーションが壊れたのよ。変な騒ぎだ……あっ」


 変な騒ぎの原因を何とかなく理解してしまったミミリナ。クラーとガランはその様子に首を傾げたがミミリナはすぐに誤魔化した。


「あはは、何でもない。それで何か用? 見ての通り閉店中なんだけど」


「実はカロ山脈の魔物がカルの森に降りてきたみたいでな。その調査のために上位冒険者が集められているんだ。だからポーションが欲しいと寄ったんだが」


 無いなら仕方がない、クラーとガランは出て行こうとした瞬間。


「止めておけ」


 棚の上で隠れていたはずのぬえがいつの間にかミミリナの前に現れていた。

 突然の喋る猫にクラーとガランは戸惑いを隠せず、ミミリナもぬえの行動の理由が分からず硬直していた。

 この中で唯一ぬえはクラーを睨み。


「エルフ、今お前がカルの森に入れば死ぬぞ?」


 不吉を告げた。


『一反木綿』

 某アニメで足としてこき使われている妖怪、タクシー代わりと言って良いのかもしれない。。姿は長い布だが、意外に凶暴で人に巻きつき首を絞めて殺すという。妖怪の癖に中々頭を使った殺し方だ。


『猫又』

 長生きして尾が割れ妖怪になったとされる猫。二十歳頃が目安か? 虎のように大きくなったり、人を食い殺したり、化けて誑かしたり。意外に多才な妖怪。しかし生活は大して変わらずゴロゴロしている。妖怪だけど猫だもの。


『ミミリナ』

 ポーション屋の主。この間の家鳴の一件で貯蓄の半分が飛んで行った独身獣人(♀)。元は冒険者だが収入安定、結婚願望等々を理由に転職。収入はかなり良い。だが恋愛運は……。


『ガラン』

 ドワーフの上位冒険者。背は低いが腕は太い。その強靭な腕と鍛え上げられた槌の攻撃は魔物の内部を破壊し、臓器をぐちゃぐちゃにして素材を壊し報酬を減らす。その癖燃費は悪く酒は飲む。人格は良い人なのだが。

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