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第五話 代表者会議/妖怪会議

 大街カラルの代表者会議。

 それぞれの部署の代表者が集まり、カロ山脈の魔物への対応を協議しようとしたのだが、今は別件に頭を悩ませていた。

 それは夜になってから起きた不可解な現象。

 大きな生首が現れた、女の影だけがあった、家だけが揺れた、背中が異常に重かった、酒を呑んでいたら吐いた等々。

 これが一、二件ならともかくカラル全体から数百に及ぶ報告があり、実際には千を超えるとも思われた。

 被害の多さ、広さも悩みの種ならしょうもなさも同じ悩みの種だった。

 大きな被害は家が揺れた所為で家具が倒れた、家が揺れて足を取られて転んだ、など数件。他のは驚いた、不気味だった、腰を痛めた、気持ち悪いなど被害はほぼないと言っても良かった。

 これを本格的に調査するべきか否か、代表者会議が微妙な雰囲気の中で停滞していた。


「この中では家が揺れた、これだけを調査するべきだと思うが家屋の問題、という可能性もあるのだろう。被害件数もこれが一番少ない」


「しかしカロ山脈の魔物が現れてからこの珍事だろう。関係性があると考え全て調査するべきではないか」


「待て待て待て。カロ山脈の魔物がいると決まったわけじゃない。一人の冒険者が目撃しただけなんだろう。見間違いの可能性もある。まずはカルの森を調査して魔物の存在を確かめよう」


「カラルの問題を後に回すと? カロ山脈の魔物とは無関係で別の問題だった場合はどうする! 手遅れになる可能性がないとは言い切れないぞ」


「だからと言ってカロ山脈の魔物とカラルの調査を同時に行えるか? 予算は限られているし、優秀な者だって多くはない」


 カロ山脈の魔物については危険性の高さは誰もが理解し、対応は決定事項とも言えた。ただ今回のカラルの珍事は被害が広く多いが小さい所為で判断に困っている。

 自身の物差しでは判断できない珍事に、確かな自信を持てない発言が混迷する会議に発せられ泥沼になる。

 それを救ったのは一人の老人だった。


「落ち着け。憶測が憶測を呼んでおる」


 冒険者ギルドの代表にして、代表会議最年長の老人。過去に大街カラルを得ようとした他国の軍相手に全体の指揮を執りつつ前線で戦功を上げた英雄。今では大老と呼ばれ皆から慕われている。

 そんな人物の言葉を無視できる者はこの会議にはいない。


「一つ一つ丁寧に解決する。まずカロ山脈の魔物の調査に力を入れる。ちと依頼の消化が遅れるが上位の冒険者全員を当てる。カラルの問題は被害の確認からだ。事が起きたのは先程だ。夜が明ければ報告が増える。情報を集めてから当たっても問題あるまい」


 その一言が決め手になり、会議は大老の提案通りになり解散となった。






「さっすがに、調子に乗りすぎただと思うんよ?」


 マヨイガの大広間。そこでは偵察に向かった妖怪のほとんどがぬえによって逆さに吊るされていた。


「ばれんように、って言ったと思うんよ。ゆっくりと知ってもらう、そういった覚えがあるんよ。なのに何いきなりやってるん?」


 偵察のはずなのにもろに活動してきたことにより、待機組からは羨ましいと、天狗などインテリ組からは計画が狂ったと締め上げを食らっていた。

 ちなみに一番調子に乗っていた家鳴は、雪女により凍らされ冷凍室行きとなり永久凍結の刑を受けていた。


「とりあえず反省と言うことで一晩そのまんま。俺らは偵察からの情報をまとめ、今後の方針を決め、偵察の尻拭いについて考えるんよ」


 ぬえは壇上に立つと妖怪たちもそちらに集まり、天狗が偵察組からの情報をまとめて話した。


 この世界には人間以外にもエルフやドワーフ、獣人等々の知的生物がいること。

 近くの街はそれなりに大きく、文明としては地球ほどではないが見たこともない物があるらしい。

 牛鬼、いっぽんだたらは魔物扱いされている。


 重要と言えるのはこの三つだった。この三つの情報を中心に、これからの方針をがしゃどくろを中心に話し合われた。


 今までは人間を対象にしてきたが、ドワーフ、エルフなど人間ではない人を対象に入れるべきか否か。

 見たことのない物はどんな物なのか。どのような効力を持ち、妖怪にどのような影響を与えるのか。

 魔物と間違われないためにはどうするか。


 結論は全て同じ、情報不足。

 ドワーフもエルフもどんな生物なのか分からない。

見たこともない物なんて判断できるはずがない。

魔物については一番の難題だった。


「日本には人間を害する化物なんていなかったんよ。だから化物=妖怪だったんよ。でもこの世界では化物は魔物なんよ。化物の地位がないんよ。だから新たに考えるか、魔物を全滅せさてその地位を貰うか。そんなんしか方法はないんよ」


 ぬえの真面目な発言が波紋を呼んだ。

 発言の内容と発言自体が。

 明日は雪か吹雪か雪女の喜ぶ天気になるのではないかと、茶かすも内心はぬえの発言をしっかりと受け止め、どうするべきかは考えていた。

 

 天狗は考えた。

 日本では化物=妖怪であったが例外もあった。神だ。崇められる存在であれば妖怪ではなく神となっていた。天狗も元はそうだった。しかし崇められる辛さ、理不尽さを知ったため妖怪になった。この世界の神はハニヤマであり固定されている。それなのに神を僭称しては喧嘩を売ることになる。この案は消える。


 座敷童は考えた。

 自分には関係のないことだ。自分は幸運を呼び、不幸を残す妖怪だ。自分のような妖怪は噂を撒いて活動すれば何とか妖怪として定着できると思っている。しかしそれは他の妖怪を見捨てると言うこと。さすがに後味が悪いとそれはしないことにした。


 がしゃどくろは考えた。

 自分のような妖怪はどんなに頑張っても魔物の部類に入るのだと。人を害することしか出来ず、それを今更変えるわけにも行かない。それでも魔物とは呼ばれたくない。自分は妖怪なのだと。


 結局、誰も良案は浮かばなかった。


『代表者会議』

 カラルの街の代表が集まって行われる重要な会議。基本は月一で行われそれぞれの部署の近況を報告し、税を集める。だが、一つの部署では解決できない問題、カラル全体の問題が発生した際にも行われる。


『妖怪会議』

 妖怪が集まって話し合う。最初は年に一度行われていたが今では週一になっていた。異世界に渡ってからは一日に何度も開かれ意見が交わされている。必ずぬえが議長となるが理由は不明。実際議長として役に立たない。


『座敷童』

 知名度の高い妖怪。岩手県のいくつかの旅館で今も現れるらしい。最大の特徴は座敷童がいる家は栄え、座敷童が去ると家は衰退すると言われている。しかしいつまで童でいるつもりなのか。もう実際は婆……うぐっ。

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