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第二話 異世界に来ただよ

「外全然変わってねえ」


「あったり前だよ。マヨイガごと来たし、マヨイガは世界と少しずれるんよ。生活環境が突然変わらないように、って配慮でもあんだけどよ」


 異世界に来てもマヨイガから見える景色は変わらず、草木が謳歌する森の中。変わったのは先程まで居たはずのハニヤマが消えていた。


「神様は?」


「忙しいらしいんよ。帰っちゃった」


 帰った……。その言葉に妖怪たちは放心してしまう。異世界に来てそのまま放り出されたようなものだ。

 これからどうする、とそれぞれが顔合わせるが言葉が交わされることはない。


「ぬえ、どうするんじゃ」


「とりあえずマヨイガの外を探索しねえと。ワシらが住める環境かどうか確認せんとよ。雪山が無いようなら雪女はしばらく冷凍室でお泊まりよ」


 がしゃどくろの問いにぬえが答え、それがそのまま妖怪の指針となった。

 初めての異世界、好奇心が抑えきれずほとんどの妖怪は一斉にマヨイガの外へと駆け出して行った。


「……がしゃどくろよ」


「何じゃ」


「座敷童とか、風狸とかそいつらは別に良いんだよ。でも牛鬼とかいっぽんだたらとかカマイタチとか出て行ったんよ。大丈夫かな?」


「この世界の人間が強いことを祈ろう」


 多分無理だろうと、二人とも分かっていたが一応願っておく。

 妖怪は多種多彩。無害な奴もいれば危害を加える奴もいる。だが危害を加えるなと言ったことは誰もない。そういう存在なのだと妖怪は理解していたから。


「ま、妖怪は死んでも復活できるし。強い方が良いんよ。雪女、暇だからオセロすんべ」


「良かろう。真っ白に染めてやる」


 外の様子が分からないと外に出れない雪女を誘い暇つぶしを始めるぬえ。

 がしゃどくろも混ざろうとしたが、手が大きすぎて無理だった。


「……何じゃぬっぺふほふ。将棋? やるやる。……そうじゃよな、最近はパソコン相手でも勝ててつまらん」


 残った妖怪たちもそれぞれ暇を潰して探索組の帰還を待った。




 数時間後、探索組がかなり興奮した様子で帰って来た。

 ぬえは待機組を集めて話を聞くことにした。

 いっぽんだたらの腕が真っ赤に染まっていたり、牛鬼の口元から赤い液体が滴り落ちているのを見て、なんとなく予想できていたが。


「外はマヨイガと同じく森だが熱帯なのか暑く感じた。残念ながら雪女が外に出られる環境ではない」


 探索組の代表として天狗が周りの様子を話す。細かい所はそれぞれ詳しく見た妖怪が補足を入れる形で。

 この報告により雪女は当分マヨイガから出れないことが決定した。元々引きこもり体質なので問題はないだろうが。


「次に森に関してだがどれから話そう。森に生息する生物だがかなり多い。また日本、というか地球では見なかったような生き物が多いな。六椀の熊とか羽の生えた蛇がいた。どれも攻撃的で危険性が高い。縄張り意識があるかもしれないが、この辺りで攻撃的な奴はいっぽんだたらや牛鬼とかが殲滅していた。木の実や果実が多く見られたから、肥沃な土地なのかもしれない。まあ妖怪だから食べる必要は無いが」


 待機組がそれを聞いて興味が出たのかそれぞれ話し合ってグループを作っている。話が終わり次第外に出るつもりのようだ。


 だが妖怪にとって最も重要な情報をまだ天狗は言っていない。それは妖怪たちも分かっていたからその場から動かなかった。

 全員から視線を受けついに最重要の情報を流す。


「人間だが、居ると思われる。空を飛んで見回したが森は広大、ただしマヨイガの出口は端よりだ。そして森から少し離れた所に街が見えた。残念ながら日本のような街ではなかったが、城壁もあり生物がいるのは確か。だが人間の姿は見えなかった。だから人間に相当する知能のある生物がいるというのが正しいかもしれない」


 その情報に全妖怪が歓喜した。

 妖怪にとって人間はこれ以上に無いほど重要な存在だ。自分を恐れてくれる、驚いてくれる、崇めてくれる。それぞれ形こそ違うが自分の存在を認めてくれる。

 犬猫のように居るのを知っているとは違い、存在を認めてくれる。妖怪にとってそれほど嬉しいことはない。例えるなら赤ん坊が構ってもらえれば笑うように、妖怪にとって認めてもらうとは本能的に欲する物なのだ。

 それが例え、人間に匹敵する何かであったとしても。


 もう仲間内で慰め合う惨めな真似をしなくて済む。妖怪たちは喜びの余り泣き出す者まで出てくる始末。


「とりあえず街の調査だが、がしゃどくろや牛鬼みたいな目立つ奴らは駄目だな。おどかし専門の妖怪なら忍び込むのも容易いだろう。とはいえ今みたいに大勢で行けばばれる問題もある。ゆっくりと接近し、ゆっくりと我々の存在を知って、そして認めてもらおう」


 その後、グループやらローテーションを組んでいる間に夜の帳が下り、妖怪の時間がやってきた。


『覚』

 相手の考えを読める全身毛むくじゃらの妖怪。猿みたいな。相手の考えを読んで驚かせたり驚いたところを食べようとする怖い奴。しかし考えを読めるのは有用、と閻魔の補佐官の目に留まる。生きているのに地獄に行ける、それが妖怪。


風狸(ふうり)

 猿のような狸のような妖怪。しかしやっていることは完全にモモンガ。飛距離が完全に妖怪だが。刃は通らず火にも強いくせに叩くと死ぬ脆いのか硬いのか分からない。しかも風が吹けば蘇る。もしかしたら残機制を採用しているのかもしれない妖怪。


『いっぽんだたら』

 単眼単足の妖怪。12月20日に山中に現れる、期間限定型激レアな妖怪ともいえる。伝承により様々だが作中のいっぽんだたらは人を襲う。しかもかなり強い。激レアは強いと相場で決まっている。妖怪も同じである。


『ハニヤマ』

 異世界の神様。元は日本で神様をしていた。なので正式名称はもう少し長い。でも誰も気にしていない。とりあえずぬえは『ト○レの神様』が入っているCDを贈った。気に入ったらしい。

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