第一話 オファーが来ただよ
「実はよ、うちの世界に来ないかってオファー来てるんだよ」
「は?」
年の一度の妖怪会議。が、文明の進歩と共に暇になった妖怪たちは半年に一度、月に一度と短くなり、ついには週一で行われるようになった妖怪会議。もはや威厳もへったくれもない。
その会議場所マヨイガの一室にて、ぬえと天狗がテレビゲームをしていた。そして今、僅かな隙を突いて超必殺技を決め、ぬえが勝利した。
「は! おま!」
「昔日本で神様やってたけど、昇格して今では二柱で一つの世界管理しとるらしいんよ」
天狗が抗議しようとするがぬえは無視して話を続けていく。
「そんで、少しは恩返ししようと、ついでに日本のリスペクトもしたいと、ワシらを招待したいらしんよ」
「それを今日皆に話すのか」
「んだよ。だってよ、わしらの時代なんてとっくに終わってしまったんよ。今も活動している奴なんて少ないだろう。今枕返し何してっかしってっか? 目覚まし時計止めてんだぞ。他の奴も財布隠したり、鍵を隠したりその程度だ。だが動けるだけまだましだ。大半は何にも出来んねえ。お前もそうだろ?」
天狗は山に住んでいたが今では追いやられマヨイガに入り浸りの日々。ぬえはちゃっかり今の日本に慣れていたが。
そして大半の妖怪は天狗と同じようにどこか日陰の隅、誰も来ないような所で暮らしている。未だ活動している妖怪など一握り。
「良い話だとは思う。だが判断は他の奴らが集まってからだ」
「んだな。あ、あと覚の奴とか何人かにメンマ大王の補佐官からオファー来てんだった。それも言っとかねっと」
「それは閻魔だろう」
「えー、皆さん。今回の会議の議題は『異世界へ行くかどうか』です。とある世界の神様から「うち来ない?」とオファー来たんだよ。んで、ワシらもう日本に居てもやることなんてほとんどねえべ。だから行こうと思うんだけどお前らどう?」
宵の口、ついに始まった妖怪会議。マヨイガの中でも最も大きい部屋をこれでもかとばかりに詰め込んで、ぬえが壇上に立ち議長のような立場で進めていく。
「どこの神様?」
「忘れた」
「どんな世界?」
「知らね」
「ぬえ馬鹿?」
「天才」
非難轟轟、罵詈雑言が飛び交いそうな回答だが、妖怪たちはぬえだからと呆れた様子で質問をするのを止め、ぬえを除いて話し合いを始めた。
「どうする。実際日本の発展に我々はついていけていない。はっきり言って居場所すらない。良い話ではないか?」
「だが日本に愛着がある。呼ばれたから出て行くと言うのもな」
「だが誰にも必要とされず忘れられているんだぞ。このまま日本に残って何が出来る? 今以上に居場所がなくなるだけだろう」
会議は次第に異世界に行く方へと流れつつあった。それに歯止めをかけているのが、どこの神でどんな異世界なのかという情報が無いため。
つまり全部ぬえが悪い。
「あ、そだ! 言い忘れてたけどメンマ大王の補佐官からオファー来てんだった。覚、とえっと――」
どこからかメモを取り出して他に数名の妖怪の名を告げる。
「だからお前らは異世界じゃなくて地獄行っとけ。給料良いらしいぞ?」
「そういうことは早く言え!」
今の今まで本気で異世界に行く話をしていた覚と他数名も妖怪は怒鳴るがぬえはちっとも悪びれた様子も見せない。
むしろ調子に乗った。
「イセカイノカミサマクルヨ」
「早口で言えと意味じゃない! ……何と言った?」
「イセカイノカミサマクルヨ」
「普通に喋れ」
「異世界の神様来るよ」
沈黙、の後に大絶叫。
異世界の神がやってくる、驚くような情報だが絶叫するようなものではなかった。絶叫する理由だけは他に合った。
「正装してこないと」
今の日本に慣れ親しんだ妖怪たちの服は着物から洋服へ、ジャージやタンクトップなど楽な格好になっていた。
だがそれはあくまで身内に見せるときだけ。
外様からやってきた者に今の姿を見せるのは恥。謎の価値観が妖怪たちには共通してあった。
ほとんどの妖怪たちが着替えのために出て行き、大広間に残ったのはたった二人。
「がしゃどくろは良いんよ?」
「必要に見えるか? 骨じゃぞ。お前さんこそ良いんかい?」
「これと言って姿決まってないんよ。それに人型気に入ってるんよ」
「まあ、その方が場所を取らんからなあ」
場所を取っているのはがしゃどくろなんよ。
ぬえはそう思ったが口には出さなかった。
「みんな服装にこだわり過ぎんよ。風理でさえ服着てんよ。妖怪の自覚ないんよ、きっと」
「あらあら、そんなこと言ってはいけませんよ。みなさん仲間なんですから」
「がしゃどくろもそう思うんよ?」
「骨に聞くことか。というか来とるぞ」
三人(?)が振り返るとそこには今まで着替えに行っていた妖怪たちの姿があった。
妖怪たちは目の前にいる妖怪ではない存在に目を見開いて驚き、三人目はその様子を見て面白そうに微笑み頭を下げた。
「お初御目にかかります。昔この国で神をしておりましたハニヤマと申します。今回はお話を受けてくれるとのことでお伺いしました」
丁寧な挨拶をする異世界の神。その横ではぬえとがしゃどくろがどーも、頭を下げていた。
驚愕の硬直から最初に抜け出したのは天狗だった。天狗は一歩前に踏み出ると頭を下げ。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。私は天――」
直後に踏みつぶされた。硬直が解けた後続により。
「おではいっぽんだ」天狗を踏み潰したいっぽんだたらが前に出るが「座敷わら」座敷童に投げられ「あっしは手の目と」その隙を突いて手の目が前に進むと「ぬが、ぬぐぐ(おれ、うしお)」牛鬼に弾き飛ばされ「あたしはろく」牛鬼に絡みつき首だけ前に出すろくろ首を「おいどん、いったんもめ」更に巻きついた一反木綿が行くが「おいらはかっ」河童が牛鬼を投げ飛ばし一気に前に出た。
その光景はまさに妖怪大洪水。最後はがしゃどくろの手により強制的に止まった。
「あらあら、皆さん自己紹介ありがとうございます。えっとぬえさん、ここにいる皆さんは」
「了承した妖怪だ。覚とかはさっきメンマの補佐官が連れてったから大丈夫だ」
メンマ? とハニヤマは首を傾げるがとりあえず問題はないのだと理解すると両手を高く掲げた。
「それでは私達の世界に招待します。転移!」
かくして妖怪たちは異世界へと旅立った。
※補足
『ぬえ』
姿について諸説ある妖怪。なので作中におけるぬえは姿を自由に変えられる妖怪として描かれております。今は人型。いい加減な性格をしている実際にその通り。妖怪なんてそんなもんさ。主人公というか妖怪の中心的存在。
『天狗』
言わずと知れた烏天狗。詳細は割愛。性格は気位が高く礼節に長け、風を操り空も飛べる凄い奴。ただしその場の考えで生きる妖怪の中では浮いた存在に見えることも。でもそんなことを気にしないのが妖怪。
『マヨイガ』
迷った末に訪れることが出来る幻の家『マヨイガ』訪れれば富を授かれるが、欲を持つと富を授かれない嫌な性格をしている家。今では妖怪たちの住処となっている。おかげで人が寄り付かない。妖怪が悪い。
『メンマ大王』
メンマをこよなく愛する大王様。恋○無双の×雲と激闘を繰り広げたといわれている。などという事はなく正しくは閻魔。ただしぬえの中では永久にメンマ。偉さ的に言うとかなり偉い。異世界の神より偉いかもしれない。それをメンマ扱いするぬえ。
『がしゃどくろ』
誰の人骨なんだと思うほど巨大な骸骨。異世界風に言うとスケルトン。爺臭い口調だが妖怪の中では若い部類。真面目な正確かと思いきや神への挨拶をどーもで済ませる辺り存外適当かもしれない。ちなみに老いだ若いだという序列は妖怪には無い。妖怪だもの。