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ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第一章
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第八話 鎧の素材

 しばらく森の中を僕達は歩き続けていた。闇雲に森の中へ入っていったおかげで元来た道のりを記憶で頼りに戻ろうとしてはいるが、僕の記憶じゃあ頼りない。そこでフィロは完璧に道を覚えていたので、フィロの指示に従い、あの河原へと向かっていた。


〈そこの樹を右でそれから三番目で左じゃな、その次は…〉


「よく覚えてるねフィロ、僕は無我夢中で走ってたからどう来たのかも覚えてさえないのに」


〈戯け、妾の頭脳を人間如きの華奢な脳味噌と一緒にされては困るわい〉


 相変わらず人間を卑下する目で見てはいるが、実質役に立っているのでこの際文句は言わない。雑草や枝木といった自然の障害物が行く手を邪魔するが、ご丁寧にどいていただく。少し遠くの前方にはライリーが小走りで進んでいて、時折自分の方へ振り返っては急ぐよう強く呼びかけているのがわかる。


「こっちよ、少し急がないと日が暮れるから早く来て」


「それにしても、よく道が分かるね君は?」


「当たり前じゃない、この辺は私の庭当然なんだから土地勘があってもおかしくないわよ」


 そういえば、ライリーはフィロが指示している道とほぼ同じに進んでいるな? 本当にあの川までの道を知っているようだ。このままライリーに道案内を任してもいいんじゃないかと考えるが――


〈ほぅ、お前は妾の記憶が疑わしいとでも言うのじゃな?〉


「いや、そういうことじゃないよ。ただ僕はこの辺に詳しい彼女だからこそ安心出来るというわけで」


〈つまり、妾では不安で仕方ないと言う訳かの? 残念じゃのう、ちょっとぐらいお前の体について知識を授けても良いと考えておったんじゃがのう〉


「ちょっとそれ重要要項だよ! 一番教えて欲しい事柄を今まで隠していたのかよ!」


〈別に聞かれなかったしのう。では、不安だと感じる妾の話はお前は聞かぬからこの話は無しといこうではないか〉


「ずるいっ!! この卑怯者! 人でなし!!」


〈フハハハッ! 人でなくて結構、妾は『魔人』じゃからな!!〉


「くそおぉぉぉっ!!」


 ――何気ない思考からこんな風に僕はフィロにいびられる事が何度もある。この世界に来た当初、色々と聞いたとは言ったが、自分にとって聞きたい部分は今だハッキリと教えられていないことが多くある。フィロにとって知られたくない事があるのか、または単にからかう為にワザと教えずにいるのかと真相は分からない。まぁ、どちらにせよ、僕にとっては死活問題そのものだ。


「ねぇ、何で一人で言呟いたり叫んだりしてるの?」


「うぉわっ!?」


 いつの間にか近くに来ていたライリーにいきなり話しかけられて僕は驚く。


 あれ、一人で? どういうことだ? まさか、フィロの声は他には聞こえてはいないのか? 

 

 今まで人間相手で話した事なんてしばらくなかったから全然気にしていなかったけど、新たな事実にフィロへ確認を求める。もちろん、小声でだ…。


「どういう事か詳しく聞きたいんだけど…」


〈アホかお前、鎧の主導権を全て奪われている妾にお前のように声など出せるはず無かろうが。今聞こえているのさえ、お前の魂に直接魔力でなんとか干渉しているに過ぎん〉


「いや、お前の分かっている事が僕にはわからないんだからそんな事言われたって理解しようがないんだよ!」


〈というより、なんでわざわざ声に出して伝えようとするんじゃ? そんな事せずとも、言いたいこと考えれば済むことではないか〉


「あっ、それは…確かに……」


 喋るって実質的に言えば、考えてからそれを声として発するものであって、思考内でもその内容は同一物だ。当たり前に考えていたから見落としていたよ。それに、人が喋るのは日常に欠かせない物だから、刷り込みのように癖として今まで無駄に喋って伝えていた。フィロが言いたいのはそういうことだろう。


〈正解、全くお前は頭が硬いのう。そんなんだから、学び場にてテストで『赤点』とやらを取ったことがあるのではあるまいか?〉


「ぐはぁっ!?」


 痛いところを突かれた僕はその場に項垂れる。うぅ、だって数学苦手なんだもん。社会とかなら得意なんだけど、理数系で理科はともかく、数学は大の苦手分野なんだよ!


 赤点を取った時を思い出すなぁ。結果は学校側から保護者、つまり叔母と叔父に伝えられるものだから、誤魔化しようが無かった。伯母がそれを知った日には…。ひぃっ! 思い出したくない、思い出したくない!!


 ともかく、過去の話をここで語るのは止めさせていただきたいね。『あれ』は流石に立ち直れなくなる。


「もしもーし、聞こえてるの?」


「……っ!? あぁ、ごめん。それで、なんだったっけ?」


「もう、ぼぅっとしてないでちゃんと聞いてよ! もう一度言うよ? シルヴァーノの身体って何の素材金属で出来てるの?」


「えっ、僕の身体?」


 そういえば調べた事なんて無かったな。僕の世界で一般的な鎧と言えばプレートメイルであり、レプリカだとアルミだとかだが、本物は鉄の板金で作られたのが殆どだ。


 だが、この鎧はどうだろうか? まず色からして鉄ではない。初めてこの鎧を見たときはメッキかと疑って調べたけど、塗装の痕なんてどこにも見られなかったから違う。にしても、黒と蒼の彩色を放つ金属なんて僕には聞いた事がない。合金かもしれないと別の考えもしたが、そんな金属など知らなければわからない。


 なら、一体これは何で出来ているんだ?


 取り敢えず、何か知ってそうなフィロに心の中で質問する。自分を封じ込めた鎧の事だ。フィロ以外に詳しい者などこの鎧を作った人間しかいない筈だ。


〈あぁ、この鎧は確か…アルザムナイト鉱石で出来ておったな。特徴としては…ふむ、魔力の多さによってその硬度を変えるとかそんなところじゃろうな〉


「えっと、アルザムナイト鉱石という物で作られているらしいんだ」


 フィロが答えたことを通訳風にライリーへと伝える。これで質問には十分な事ができたと満足したが、そうはいかなかった。今の一言を言った途端、ライリーは頭を掻きつつ、聞き間違いか? という表情をして唖然としている顔が目に映った。


「…もう一回言ってくれる?」


「へっ? ア、アルザムナイト鉱石…だけど?」


 何だか興奮を抑えきれないという雰囲気を出しつつ、念入りに同じ質問をしてきている。それに対し、僕は同じ答えをもう一度言う。


「うそ、うそうそうそっ! まさか、アルザムナイト鉱石なんてもう夢物語だと思ってたわ。信じられない!?」


「どうか、したの……?」


 ライリーはぐるぐるとその場で廻りつつ、頭を押さえながら思考を追いつけようとしていた。何か僕、まずいことでも言ったの?

 

 その答えは唐突に呟いたフィロの一言でハッキリとする。


〈そういえばアルザムナイト鉱石は五百年以上前もの時代にて、完全に取り尽くし、今や幻となった伝説的存在じゃったな。価値は昔、どこぞやの人間の研究者が言うに、手づかみの石ころ分で国が兵士ごと買えるくらいの物だと聞いた事があるのう〉


(へぇ、国ごとねぇ…)


 ――ってそれだあぁぁぁっ!!


 何ですかその国家予算の駆け引きでも対立しあえるようなとんでもアイテムは!? 僕、今までそんな鎧使ってたのか! うわぁ、傷付けた!? そういえば結構ぶつけたりしたね! こんな世界遺産レベルな代物を無得に扱ったなんて事実、僕には重すぎる!


 てことはあれかな、僕自身がでっかいお宝となって今まで行動していた事もあるのかな? それってかなりすごいね。


「今すぐ私の村に行きましょ! シルヴァーノの言うことが本当ならコレはとんでもないことになるわ!」


「でも、魚籠は…?」


「そんな物とは全然比べ物にならないわよ! さぁ方向転換、方向転換!」


 気が変わったように元進んでいた道を立ち止まり、ライリーは僕の身体を両手で押しながら進むよう促し始める。

 

 なんかこれってまずくないかい? 僕の身体がお宝そのものだとしたら、村なんて大勢の場所に行ってこのことを知られたら…。


〈即解体兼売買ルート確定かのう〉


 ――よし、決めた。逃げよう!

 

 コンマ以下で決断した僕は一気にライリーから逃げる。何か叫んでいるけど、そんな事はどうでもいい。


「あ、待ってよ! 何で逃げるのよ!」


「いやだぁー!」


 思わずよく叫んでいた言葉が出てしまった。


 余計な事を言わなければ良かった。


 この時、僕は本気で後悔していた。

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