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ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第一章
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第六話 逃避行

読んだ後は感想入れてもらえれば嬉しいです。

「来ないで! こっち来ないでってば!」


「あぁやめて、石を投げつけないで!」


 完全に警戒され、敵意をむき出しにして僕は絶賛石投げを少女から受けている。さっきから鈍い音を立てて、何度も当たっているが、痛覚がないので別に痛くもなんともない。心は痛むけど…。


 けど、自分が無害であると伝えることがこの場合の優先条件だと思える。


「このっ! このっ!」


「お願いだから話を聞いてってば!」


 だけどいくら呼びかけようと、パニック状態に陥っている少女には無意味のようだ。相も変わらず石は自分に向けられて投げ続けられている。河原のストックは無限に尽きることはなさそうだ。


 少女が腰を抜かしながら石を投げつつ下がり、それを止めるべく僕が近づく。


 さっきからその繰り返しが起こっていた。どうしようかと本気で思い悩む中、視界が激しくぶれる。どうやら頭部が外れて吹っ飛んだようだ。


 僕の体は頭部と胴体が切り離し可能で頭がくっついてなくても自分の意志で胴体は首なし状態で行動出来る。初めてこうなった時に色々と試したから間違いない。けど、こんな状態になるのはこの場合は悪策だった。首が傍の地面に落ちた時、偶然にも少女の方に視界が向いてたので見てしまった。

 

 しまったと考える。首なし状態となった僕の姿を青ざめた顔で見つめているからだ。さっきまで石を投げていた手を止め、カチカチと歯を鳴らして恐ろしそうにしている。


「首…首が…取れて…首…あぅっ……」


 今度は白目を向いてその場に仰向けで倒れこむ。どうやら気絶してしまったらしい。漫画みたいな気絶の仕方だね。


〈ほぅ、少女を襲うとはお前も隅に置けんのう…〉


「襲ってないよ、人の事を強姦魔みたいに言わないでよ!」


 フィロからかなり失礼なことを言われたが、そんな事をしている場合じゃないと考え直し、取り敢えず僕は身体に巻き付いた色々な物を剥がし取る事に専念する。あちらこちらにへばりついた水藻をガンドレットの指先を立てて小まめに取り、地面へと捨てていく。体を傾かせたりしては隙間から入り込んだ河原の水を排出し、余計な異物を排除していく。さらに手を頭を通す部分――ゴルゲット――へとつっこんでまだ残っている異物を掴み取る。すると、出るわ出るわ魚やら蟹やら貝やら小枝やらと…・


 ――これじゃあまるで水槽じゃないか。


 (たま)に奥に引っかかって取れない物がある時は体を大きく前後に揺らし、遠心力や振動を使って排出していく。その姿はさながら一部のロックミュージシャンが行うヘッドバンギング。


〈何じゃか体だけで動かしておると、別の生物に見えて違和感ありまくりじゃのぅ…〉


「同感、なんか自分の体なのに…怖いね」


 大分済んだ所で落としたヘルムを拾い、元の位置へ装着する。まだ水気があるけど、しばらくすれば自然と乾いていくだろう。それよりも目の前の現状をどうにかしたい。


 自分のせい? で気絶してしまって少女に説明しようにもどうすることも出来ない。姿からして14,15歳くらいと僕より年下らしい。今の自分に年齢概念が当てはまっているかは謎なんだけどね。なんせ鎧だし…。


 取り敢えず、この子が起きてくれるまで待ってみよう。


 そう考えて少女を肩から首にかけて片腕を回して上半身をやや起こす感じで持ち上げる。横抱きという抱え方で、いわゆる『お姫様抱っこ』になっているのは許容して欲しいな。それにしても、痛覚や肉での関節が無いだけで重そうな物を持ち上げても全然疲れないし、軽く持ち上げられるんだなこの身体は…。


 あっ、別にこの子が重たいと言っているんじゃないからね。肉体を持たないからこそのメリットという意味で言っているだけだからね。


〈…お前、紳士気取りでいるようじゃが、率直に言うと馬鹿さ加減丸出しの変態にしか見えんぞ〉


「ひどいっ! 本当に邪な考えはしてないって!」


〈ふむ、お前の世界でいうと、幼い人間の女性を見てそのように考える輩を『ロリコン』と呼ぶらしいそうじゃな〉


「デタラメな知識を僕の頭から引き出すなって! あと僕はロリコンじゃない!!」


 フィロは僕の魂と同調している。だから記憶だけじゃなく、僕がこれまで培ってきた知識までも読み取る事が出来る。元より、フィロはかなりの物知りで博識じみている。


 何でも、封印される前は『賢魔』と称えられる程に魔人随一の博学ともいわれていたそうだ。少し疑問に感じるけど、封印される前のフィロってどんな姿をしていたのかな?


〈むっ、妾の本当の姿に興味あるか? 惜しいのう、妾の姿は人間の美女と分類される者とは比べ物にならぬ程にそれはそれはとても凛々しい姿でな…〉


「今じゃ鎧で美も付かないし、見る影もないけどね」


〈失敬な! くうぅっ! 元の体があればご自慢の魔術で叩きのめしてやるというのに!!〉


 少し仕返しとしてからかってやった。ふふん、僕だけがこの鎧を動かせるんだ。何も出来ない歯がゆさでも噛み締めてればいいさ。


〈ふんっ、では、先ほどからこちらへと近づいて来る魔物共はお前一人で対処するがよい〉


「へっ?」


 何を言っているんだ? その意味はすぐにわかった。後ろから河原の砂利を踏みしめる音が徐々にこちらへと近づいている。それも複数もの足音だ。恐る恐る振り返ると、そこには大群となった狼の群れがいる。大勢の狼達は僕の顔を見るや唸りを上げ、今にも襲いかからんばかりに警戒心を高めている。


〈こやつらは『ワイルドウルフ』、主に群れを成して行動する狼型の魔物じゃな。心配せんでよい、今のお前ならばこやつらを蹴散らすことなど容易い事じゃ。今抱えてる人間を気にせねばなぁ…〉


「な……っ!?」


〈では、妾はじっくりと観賞しておるぞ。お前がどうするかを、ま…精々踏ん張るがよい〉


「ちょっ、それはないよ、ねぇフィロ!」


 機嫌を悪くしたフィロはそれ以降沈黙を続け、何度も呼びかけるが一向に返事は返ってこない。この世界の物事について何も知らない僕では、ここがどこさえも分からないんだ。フィロの助言がなくては迂闊な移動は危うい物となってしまう。


 だけど、そんなことを考えている場合じゃない! この子をどこか安全な場所へと運んで逃げなければ! 決断した瞬間には早かった。後ろへと振り返り、そそくさと走り出す。それにつられてワイルドウルフ達もこちらの跡を追いかけ始める。犬とは違う鋭い遠吠えが後ろから響いて近づこうとしていた。


 この鎧の身体で出せる限りのスピードで河原近くに生えていた森の中へと入っていく。砂利が無くなり、樹々の根や葉っぱ、土の柔らかい感触がソールレット(鉄靴)に伝わってくる。けど、まずいかもしれない。森には障害物が多すぎて全力で走れにくい。それも人間一人を腕で抱えている。バランスは最悪だ。


「フィロ、お願いだから力を貸してよ! あの狼達からはどうすれば逃げきれるか助言をくれ!」


〈別に、赤の他人の面倒を見るからわざわざ逃げなければならんのじゃろう? 逃げ切りたくばこやつを捨て置けばよい〉


「そんなの出来ないよ! 人を見捨てるなんて、そんなの『騎士道』失格だ」


〈では、走り続けるがいい。お前がこやつを守りきれるとは思えんがのぅ〉


「ねぇフィロ、フィロ! もうっ!!」


 再びフィロは沈黙を始めた。馬鹿にした言い草に怒りが込み上げてくるが、そんな暇なんて無い。大勢のワイルドウルフ達の内、一匹が僕の横に並び、そのまま襲いかかってきたんだ。強靭な顎によって僕を仕留めようとしているに違いない。ワイルドウルフは脛辺りに噛み付き、牙を突き立てようとした。でも金属製の鎧の体にはそんな攻撃は通用せず、くっつき虫のように走り続ける僕に若干引きずられる形となる。


「うわぁっ、こっち来るな!」


「ギャンッ!!」


 反射的に噛まれた足の方を勢い良く蹴り上げ、噛み付いてきたワイルドウルフを振り払う。振り払った先がちょうど硬い樹の幹であったため、その一匹はそこに叩きつけられ、悲鳴を上げた。だが、後ろからまだまだ大勢のワイルドウルフ達が近づいて来る。すぐに同じように並ばれ、再びピンチへと陥る。


「こ、これじゃキリが無いじゃないか!」


 考えろ! どうしたらこの魔物達を撃退できる! 有効打となる武器はバジリスクとの戦いの時に失った! 腕を塞がれて真面に相手することは難しい!


 だけど、このままではジリ貧であることは間違いない。

 

 ――本当にどうすればいいんだよ…。


「う、うーん……」


「……っ!?」


 それにこの子、起き出しているよ!? こんな状況どうやって伝えたら良いって言うんだよもう! もしも暴れだされたら完璧に困るな。落ち着け、落ち着かないと…。


 そんな時、唐突に沈黙を破ったフィロが僕へと話しかける。


〈ふぅ、見ておれん。いいか、よく考えてみい、その腕に抱えているこやつが邪魔だというなら安全な場所へ置いてくれば良いではないか?〉


「だから、その安全な場所が見つからないから困っているんじゃないか!」


〈お前本当に頭の回転悪いのう。更にヒントじゃ、ワイルドウルフは走りに適した体型をしとるが、高い場所に登るのには適しておらん〉


「だから、それが別になんだって――っ!?」


 ――そうか、そういうことか!


 フィロの助言で閃いた僕はあるものを探す。枝の多い樹をだ。しばらくすると、望みの物が見つかった僕は今だ襲いかかってくるワイルドウルフを振り払い、力の限りにジャンプをして太い枝へと掴みかかる。片手だけで自分の体重と人間一人の体重を支えるのは多少堪えたけど、頑丈な鎧の身体のおかげでなんとか耐え、そのままよじ登っていく。

 

 その途中、下から爪や牙を立てて足部分をガリガリと傷つけようとしてきたが、完全に樹の上に来たらそれは止まった。下で唸りを上げてワイルドウルフ達がこちらを睨んできている。


 思ったとおりだ、こいつらは樹に登ることはできないんだ。現に何匹かは中間の樹の幹辺りにしがみつく様に爪を立ててこちらへと登ってこようとしているが、一向に進むことは無かった。


 その様子を確認すると同時に、少女が眼を覚まし出すのを僕は知る。


「ん…なんなの一体…」


「いい、よく聞いて!」


「きゃあっ!?」


 僕を見て怯えかけているが、それを止めてくれるのを願うのは優先順位ではない。一言だけ強く言い聞かせ、樹の下へと飛び降りていく。


「絶対に僕がいいって言うまでこの樹から降りちゃダメだからね! 絶対だよ!」


「な、何なのよあなたは! それにここはどこよ!?」


「説明は後でするから、じゃあまた後で!」


「ちょっと、待ちなさい!」


 樹の下へ降りた僕は即座に構えてワイルドウルフ達を見据える。獲物が降りてきたと勘違いしているけど、悪いね。僕は食べても美味しくないからとっとと諦める事だ。 

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