表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第一章
4/37

第三話 遺跡探検

 昔々、あるところに光の神様と影の神様がおりました。


 二人の神様はいつも同じ家で暮らしながらそれぞれの役割を果たしていました。


 一人は生命(いのち)を育む光を照らし、もう一人は死を迎え入れる影を照らす。


 どちらも必要な役割であり、どちらも欠けてはならない重大な役割を二人は大昔から果たしてきたのです。


 だけど、影の神様は光の神様の事をいつも羨んでいました。それもその筈です、生命を育む喜びを(にな)う光の神様と違い、自分は死を迎え入れる悲しみを(にな)う為、生命達は彼を好まなかったからです。そのため、多くの生命達が寄り添う光の神様とは対照的に、影の神様はいつも一人でした。


 やがて、遂に己の役割に我慢できなくなった影の神様はある事を考えつきました。


 ――そうだ、二つあるからいけないんだ。一つだけにすればいいんだ。


 それから影の神様は家を自分だけの物にしようと画策を(はか)ります。今まで光の神様だけが生み出していた生命を今度は自分も生み出す事にしたのです。影の神様が生み出した生命達はしだいに元居た生命達を脅かし、影の神様の計画はどんどん進んで行きました。争いが広がる事に光の神様は悲しみました。それゆえ、提案したのです。


 ――私達の家を半分ずつにして別々にしようじゃないか。


 影の神様はその提案に妥協しました。そこから二人の家は『光の世界』と『影の世界』という名前を付けて別々に分かれていったのです。

 

 ですが問題が起きました。家は二人の神様が両方いてこそ『完全』。

 

 バランスを失った家は崩壊の危機へと進む事でしょう。


 その事態に二人は慌てました。二つに分けた家は二度と一つにできないからです。だからこそ、考えて、考え抜いて、思いついたのです。


「「それなら私達も二つになり、それぞれを家に連れて行こう」」


 二人は自分達の肉体と精神を別々に分け、文字通り二つになったのです。


『光の世界』には光の神様の精神と影の神様の肉体を…。


『影の世界』には影の神様の精神と光の神様の肉体を…。


 それぞれが違い、同じ物を捧げることにより、二人の家はバランスを取り戻しました。二人の家はようやく『世界』として新しく生まれ変わり、二人の神様は別々の家で生命達と永遠(とわ)に仲良く暮らしたそうな。



《レーシュ教会書庫発行:二人の神様》



◆◇◆◇



 暗闇に支配された道を明かりも無しに進んでいく。本来なら懐中電灯かランプがなければ動くことすらままならない筈なのに、不思議と視界は障害物の輪郭(りんかく)を捉えられていた。


 それにしても、ここはどこなんだろう? 石造りの建造物の中らしく、まるで大昔の遺跡の中を歩いている感じだ。もしそうなら少しまずいかもしれない。だって、遺跡というからには歴史的建造物という訳だ。そんな重大な場所を壊したりすれば…器物破損=弁償の方程式しか待っていないよ。


〈いや、心配せずともそんな事は人間だけに通じる理論なのだから気にするでない〉


「…うるさい、お前と親しく口を聞くつもりはないからね」


〈つれないのう…〉


 鎧の声の主とこれからについてを話し合った。最初は文句や当たり散らすことしかできなかったけど、喪失感を振り切らなきゃ次には進むことは出来ない。そう悟った僕はこの女性に知れる限りの事を聞きまくった。

 

 最初に衝撃を受けたのが、僕が現在(いま)いる場所は僕達のいう『地球』ではなく、いわゆる『異世界』と呼ばれる別の世界だということだ。一瞬信じられないで片付けようとしても、自分自身がどうなっているかを思い出せばその可能性は否定できない。


 ――それにしても異世界か…。


 そんなもの、昔に読んだ事のある絵本の御伽噺(おとぎばなし)の中だけの話かと思っていた。


 僕の住んでいた世界とどう違うんだろうか? やっぱり生き物や地形は全然変わっているんだろうか?

 

 多少の好奇心が湧き始め、僕の沈みかけていた気持ちを回復させた。


「とにかく、こうなった以上は協力してもらうからね」


〈ふん、人間に協力するなど(しゃく)に触るが、このままじっとしていても仕方がないからのう〉


 話をしていくにつれて、こいつの人となりが大体分かってきた。人ではないけど…。基本的に、こいつは人間の事を見下している傾向がある。僕に対しての態度を見てもそれがわかる。あと、彼女は自分についての事も話そうとしない。先ほど前に名前を聞こうとしたけど――


〈お前ごときに名を明かすなどそんな寛大(かんだい)さは妾は持たん〉


 …ねぇ、怒っていいよねもう?


 自分が蒔いた種とはいえ、勝手に体を奪われて見知らぬ世界にも連れて行かれたんだ。これ以上遠慮する必要があるかと聞かれたら僕は即効にノーと言ってあげたい。


 だけどそれはダメだ。今こいつの機嫌を損ねたりしたら、元の世界に戻る手段を永遠に失うかもしれない。


〈ふふふ…せいぜい足掻(あが)け人間、お前の命運は今まさに妾が握っているに近いんじゃからな〉


「って、さっきから僕の考えを読まないでってば!」


 しかも、厄介なことにこいつは僕の思考を読み取る事ができるんだよ。何でも魂が同調しているからとかの理由らしいけど、詳しい事は僕には分からない。


 それに、こいつはさっき思ったことが筒抜けになっていようが構わず僕をからかうために相手してくる。全くもって忌々しいね…。


「それに、さっきから人間人間ってうるさい! 僕にはシルヴァーノという名前があるって言っただろ!」


〈嫌じゃ、人間の名前など一々覚えててもつまらん。だから人間で十分じゃ〉


「こ、このっ!」


 怒りをぶつけようにもこいつは僕の身体そのものでもあるんだ。拳を振り上げようにも、殴りつける先は僕の身体でしかない。それで満足するかと問われれば(むな)しい気分になるだけだ。


 ――くそ、今はここから出ることが先決だ!

 

〈それと、よそ見をするのは関心せぬぞ?〉


「はっ……? ふぎゃぅっ!!」


 何を言うのかと考えた瞬間、足元が空を切る。次には一気に前にのめり倒れて落ちていくと、前身に強い衝撃が襲った。 


〈言わんこっちゃない、どこぞやの間抜けが引っかかった落とし穴『の跡』に引っかかるとはのぅ……〉


「わーん刺さってるっ! 目のとこに刺さってるよこれ!?」 


 おまけにとどめ付きの串刺し穴だし…。幸い鎧は頑丈で破損はなかったけど、隙間という隙間に挟まるように針が通っていて目の部分にも針が刺さっていた。よかった、生身の身体だったらアウトだったよ。


 釘抜きをするように強く引っ張って刺さった針を抜いていく途中、何か硬い物に触れる。拾ってみると、白骨死体の頭部、いわば髑髏(どくろ)を手に取っていた。


〈うーむ…50年物かのぅ。風化具合から見て〉


「あばばばばばっ!?」


 冷静に解析している彼女とは違い、僕はがたがたと身体を恐怖で震えさせた。それはそうだ、初めて白骨死体なんて見れば動揺んて隠せる筈がない。冷静な人間なら多少は大丈夫かもしれないが、気弱な僕なんて問題外だよ。


 直様、髑髏(どくろ)を手から放り投げ、落とし穴から這い上がろうとする。高さはさほど無かったから手を伸ばす事で床にしがみつき、一気に這い上がった。心臓なんてもうないんだけど、心拍数が上がって緊張状態へと陥る感じがしたまま、改めて落とし穴を見てみる。すると、針のむしろの中に何かを発見する。


 また落とし穴に落っこちないように上半身だけ出して慎重に手を伸ばし、取ってみると、それは一本の剣だった。シンプルで無骨な造形だが、実戦としては使える代物だ。


「刃がある、本物だ…」


〈おそらく、この死体の遺品じゃろうな〉


 白骨死体を再度よく見てみると、防具らしき物を着ている。一体どんな人だったんだろう。生きていれば凄腕の剣士だったとか、そんな人だったのかもしれない。ならば、これは下に戻しておこう。亡くなった人の物を漁るなど罰当たりな真似はしたくはない。


〈……むっ?〉


 剣を元の場所に置こうとした時、彼女は何やら気付いた。


「どうしたの?」


〈何か来よるな…その武器は持っておいた方が良いぞ!〉


「いや、でもコレ…」


〈無駄な私情に(こだわ)っておる場合かっ! 使えるものは使えっ! それが今やるべきことじゃっ!!〉


「…………」


 僕の死者を敬う心など関係なしと言わんばかりに彼女は強く言う。そんな理論に少々傷ついたが、逆に冷静になって考えてみると一理ある。確かにそうかもしれない。(こだわ)っても終わればそれまでだ。

 

 ――割り切るしかないのか…。


「…すみません、使わせていただきます」


 剣の本当の持ち主であろう白骨死体に一応断りを入れて再び剣を拾い上げて構える。次第に何かがこちらへと近づいていく音が大きくなっていく。ずるずると硬い何かが石床を引きずる…そんな音だ。


 『それ』は現れた。一言で表せば、『それ』の正体は一匹の蛇だった。だけど只の蛇じゃない。何十mはあろう黒曜石のような太い胴体にびっしりと並んだ鋭い牙、その内の何本かは毒牙として生えているようだ。しかし、それよりも気になったのは蛇の顔。目がどこにも見当たらない。大きさもそうだが、目がない蛇ってどういうことだ?


〈ほう、こやつは『バジリスク』じゃな〉


「バジリスク? それって確か…」


〈そう、お前が考えている通り、蛇の頂点と呼ばれる化物の事じゃ。こやつらの瞳は見た者を瞬く間に石に変える事が出来る〉

 

 さすが異世界、ファンタジー精神丸出しだね。それにしても瞳? どこにも目なんて見当たらないんだけど。


〈あるぞ、こやつの目とは…〉


 言い切る前に、蛇の方が動き出す。僕を獲物として長い舌をちろちろと覗かせながら僕へと近づいてくる。


〈いかん! 後ろを向くのじゃっ!!〉


「えっ……?」

 

 僕は見てしまった。バジリスクが咆哮を上げると同時に開かれた、『一つ目』をしっかりと…。灰色の眼から発する視線が僕へと襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ