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ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第二章
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第十一話 スリール村

 商人達を乗せた馬車は再び既定のルートにのっとって進み、目的の村を目指す。馬車の御者がゆったりとした気持ちで手綱を扱い、適当な速度で歩くよう馬達に命令を送っているからには安定した進行として済みそうだ。


 でも、先ほどの盗賊の襲撃もあって警戒だけは怠らない。気が抜けている雰囲気が漂っているけどそれは外側でしかなく、内側には護衛として商人達に雇われている傭兵達が配置されている。


 ピリピリした空気の原因はこれも一つなんだけど、もう一つある。答えは馬車の中、ライリーと僕は初めに自分達が盗賊かと誤解を受けたんだけど、一緒に盗賊の襲撃を防いであげたおかげで信頼を得られた。その恩義を評して商人達がこれから行く村へ送ってくれる事になったんだ。


 さらにその村とはなんと…ライリーの住む場所でもあったから渡りに船だ。


 こうした訳で僕たちは馬車に乗る事になったんだけど…。


「…なぁ、お宅のツレどうにかなんないのか?」


「どうにかって言ってもねぇ…」


 商人の一人とライリーは居心地の悪い感覚に苦しめられつつも、少し遠目でその原因を窺っている。その視線の先には、険悪な雰囲気を漂わす僕と件の弓使い――狙撃手――がお互いに腰を下ろしてくつろいでいる…いや、くつろいでいるというのは間違いだろうな。

 

 馬車の中は二畳程度の広さしかないから人数が多いと必ず隣合う格好となるんだ。それが険悪となる一つであって僕と狙撃手はお互いに「近づくな」と言っているかのようにぎりぎりで離れて座っていた。


「ちっ、暑ぐるしいんだよ。そんな鎧さっさと脱いじまいな、そうすりゃスペースが少しは空くだろうしな」


「余計なお世話だよ、お前に言われる義理なんてこれっぽちも無いからね」


 言葉を憎まれ口で叩き、叩かれつつある事が何度かあるけど、僕達がこの場の静寂を支配しているからこれ以上余計な発展には至ってない。まるで『先に手を出したら負け』をルールにしている冷戦状態がこの場を支配していた。


「アルダがあれほどまで不機嫌になるのは珍しいな」


「そういや一週間前にカフトで貴族のご子息を護衛したからな。ありゃ俺から見ても傍若無人の塊そのものだったしな」


「そういや、お嬢ちゃんのツレはひょっとしてどこかの上流階級の関係者か何かか? あんな見事な鎧を着込んでいるのを見ると…」


 他にいた傭兵達、恐らく狙撃手――アルダ――の仲間達が口々にアルダの現状を察知し、逆に僕について聞いてくる者も出てくる。


「そんなんじゃないわよ。シルヴァーノは――」


「アイリー! 余計な事は話さないでくれない?」


「……そう、わかったわ」

 

 話をややこしくされると面倒だと感じた僕はこの際、自分の正体については厳密な対応をすることに決めてライリーにあえてその先の言葉を言わぬように警告する。


 僕はアイリーが話したゴーレムについての事を考えていた。


 フィロからも聞いたんだけど、魔導人形(ゴーレム)とは魔術師が使う魔道具(イリュージョン・クリエイト)の一つであり、様々な魔術刻印による命令系統を人形に刻むことによって、創造主である主人(マスター)の命令を実行する高等魔道具でもあるらしい。


 熟練した魔術師が作ればその精度は人間と変わらぬ程の動作を可能とさせ、言葉も発することができるとされている。


〈それでも、ほとんどどが助手か護衛として使われるんでそこまで深く研究する物好きなど滅多におらんじゃろうな〉


「ふーん、そうなんだ?」


〈偶に人造生物(ホムンクルス)と混合させて擬似人間として、自分好みの女子(おなご)を創り出そうとして異端審査で裁かれる物好きが人間の中でいるそうじゃが…〉


「極める意味が違うだろ! 『変態』を極めちゃ駄目だろ!? 仁徳以前の問題だよ!」


 この世界におけるゴーレムのいらぬ闇の部分も聞いてしまったけど、それは忘れることにする。何でフィロはこういういらない部分の知識まで幅広く知っているんだろう? ねぇ、何で?


〈単なる暇つぶしじゃ〉


 さいですか、暇つぶしですか…。


「村の門が見えてきました。降りる用意をしておいた方がいいかと思います」


 御者から到着の連絡が伝わり、それぞれが荷物を手を取って馬車から降りる準備をしていく。無論、アルダもまた立ち上がり、自分の獲物である弓を背負って片手に荷物道具を手にしていた。


 そういえば、僕は何にも持ってなかったな。遺跡の中で拾った剣は折れて使い物にならなくなったから柄も捨ててきたんだ。考えてみれば、生身の身体を持っていればこの一日まともに動くことすらままならなかっただろう。第一に空腹に襲われて、第二に疲労で体の自由が効かなくなったりと問題だらけだ。


「…考えなくってゴメンね。その鎧が何で出来ているか少し忘れてたわ」


「へっ?」


 唐突に小声でライリーから謝罪を受け取る。まさか、さっきの僕の言葉の意を「アルザムナイトという超高級鉱石で出来ているから教えたくない」として受け取ったんじゃ…。


 訂正する暇もなく、ライリーはそのまま馬車から外へと出て行く。どうやら僕の事情を詳しく説明できるのはもっと後になりそうだ。僕は心の中でそう思った。






 堅固な丸太の防壁の門を潜った先にあったのはのどかで独特の雰囲気を漂わせる村――スリール――の全貌が目に入る。商人達から話を聞けば、あの門は盗賊等の襲撃者対策として建てられた物らしく、頑丈な警護が張られている。


「おぉ、なんだいあれ?」


「ビアルよ、家畜として定番の動物じゃない。知らないの?」


 牛小屋らしき小屋には僕が見たことも無い様な生物がいた。

 

 大きさはヤギや羊程度の大きさ。特筆すべき特徴は『黄色い毛』を生やしている事だ。別世界ともなると、生態系が違くなるという認識はバジリスクを見たことで経験済みだけど、性格が大人しい類を見るのはこれが初めてだ。


「ほら、こっちこっち」


「あ、手を出さない方がいいわよ?」


 ライリーの何気ない注意が述べられると同時、ビアルは僕のガンドレットにご自慢の前歯を突き立てて噛み付いてくる。でも、固い装甲は逆にビアルの歯を痛める事になって激しい鳴き声を上げて僕から離れていく。


「そいつらって目の前に動くものがあれば所構わず噛み付いてくるんだけど、あなたにそんな注意必要なかったようね」


「なんか、ごめん…」


 未だに痛がっているビアルになんとなく謝らなきゃいけない気がして念のため謝っておいた。ライリーはそんな僕の様子をクスクスと微笑んで眺める。


「あら、ライリーじゃないの!」


「あ、ローリエさん!」


 誰かがライリーに声をかけてくる。どうやらライリーの知り合いのようだ。その人は女性で歳は二十代といったところかな。しかも、彼女のお腹はぽっこりとしており、見るからに妊婦だ。


 二人は何気ない会話を続けていて、自分の入る隙など無いようにも見える。そのうちに仲間外れの時間は過ぎたようで、唐突に二人の視線が僕へと向けられ、こちらに近づいてくる。


「初めまして、シルヴァーノさんでしたっけ?」


「あ、はい! ライリーから僕の名前を聞いたんですか?」


「色々と話を聞かせてもらったわ。何でも、あの子を助けてくれたそうじゃない。私からも感謝するわ」


 ――えっ、助けた? あれは助けを必要としていた訳じゃないんだけど…。


 そんな事を考えてると、女性――ローリエさん――の少し後ろでライリーがニコニコと笑顔でこちらを見ている。

 

 ――なるほど、話を合わせろって訳かい?


 どういう意図があるのか知らないが、僕はライリーの話に合わせることにする。

 

「ひょっとして冒険者の方か何かですか?」


「ハハッ、そんなところですかね。近い物ですよ」


 嘘を混ぜた会話は少し後見が悪くなるけど、この際贅沢は言ってられない。


〈まぁ、あの時のお前は『変質者』と表せるのう〉


「黙らっしゃい!」


 うん、川での半魚人事件(僕命名)は忘れてもらいたいよ。ライリー、君も出来ればあの時の事はこの人には話さないで欲しい。流石にあれは僕にも身に余る失態だ。

 

 フィロに心の中で諭旨(ゆひ)していると、遠くから男性がローリエさんを呼ぶ声が聞こえてくる。


「あ、ごめんなさい、ティモンが呼んでるからもう行くわ。じゃあね!」


「あまり無理しないでくださいね。もうすぐ生まれてくるんですから」


 アイリーの言葉を聞くに、あの人は臨月に入っているんだろう。確かに、身重の女性は丁重に扱うべきであるのは間違いないな。離れていった後、ふとアイリーは話す。


「あの人達は最近にこの村に引っ越してきた新婚さんなの。それに、村の皆があの人達の赤ちゃんを楽しみにしているのよ」


「そうか、無事に生まれてくるといいね…」


 子供は可能性の塊だ。大事にしなきゃいけない。

 

「そうだ、ついでだから私の家に来る? どうせ後先考えてなさそうだし」


「え、いいの? 家族に迷惑かかるんじゃ」


「いいのいいの、別に一人で暮らしているんだから気にすることはないわよ!」


 そう言って「ついてきて」と催促するライリーの姿に僕は何か不安を覚えた。


 ひょっとしたら、僕はライリーに失礼な事を聞いてしまったのではないか? だって、一瞬だけ家族という言葉を聞いたときに眉間に皺が寄るのを見たんだから…。

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