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ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第一章
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第九話 盗賊団

 走る、走る、全力の限り走り続ける。何でこんな事になってしまったんだろう? 理解し難い理不尽に心が押しつぶされそうになるけど、ここで挫けている場合ではない。

 

 とにかくライリーから逃げなければ…でないと――


「待てー! 少しでいいから、ほんの少し削り取るだけでいいから!」


「断固として嫌だ! 絶対分割されるレベルに変えられる気がするよ!?」


〈ふむ、しょせん鎧じゃからな。作り方の構造から繋ぎ目を外せば簡単に分解出来るぞい?〉


「なおさら悪いね! もしそんな羽目になったら僕、売店に並べられる羽目になるかもね!」


 ――身を委ねようものなら、明日の日には手前よくバザー等で骨董品よろしくな感じで店舗に飾られる未来が一瞬見えた。そんな焦りでなおさら僕は足を速める。

 

 肉体が存在しない僕には瞬発力や持久力といった限界は存在しない。このおかげで同じ速さで走り続けることが出来るんだ。それなのに、引き離すことが出来ないのはどうして? おかしい、感覚で予想してもかなりのスピードが出ている筈なのに…。


〈よく調べてみると、あの小娘…風の紋章術を使いおったな〉


「何それ、それ使うとどうなるの!?」


〈お前の世界でいうブースターの役割を果たす事ができるのう、現に小娘の体から魔力で編まれた追い風らしき存在を感じよるわ〉


「何その反則技! ちなみにそれってどれくらい早くなるものなの?」


〈そうじゃのぅ、そちらの世界の物で比較すると、『バイク』とやら乗り物よりは少し遅いくらいじゃな〉


「まんま人間機関車かよ!」


 途轍(とてつ)もないスピードを生み出している事に魔法の多様性に驚嘆を表すと共に理不尽さを覚える。一方、自分もそのスピードとタメを張れるくらいに競えている事に僕は気づいてなかった。仕方ないだろ、今はそのような場合じゃないんだから…。


「もう、いい加減止まってってば! 村の財政難にちょっとした貢献ついでに私のじっけ…手伝いに協力するだけでいいんだから!」


「惜しいよ君! 最後のがなければ僕の良心は完全に痛んでたけど台無しだね!」


〈結構セコイ考えを持っとるようじゃな。まだ幼い癖して中々の肝っぷりじゃのぅ〉


「お前はお前で関心するな!」


 実験素材にされては敵わないので僕は更に加速を強める。もう人生で一番の最速ダッシュに達したかもしれない。


「撃ち落とせ!」


 そんな時、後ろからいきなり消防車の使うホースから出るような水の放射が僕の背中を狙おうとした。けど運よく後ろに重なった樹がそれを(さえぎ)り、激しい水打ちと水しぶきを撒き散らして弾ける。


「ちっ、外したか…」


「うわぁ、完璧に殺しにかかってる。僕って鎧だから死の概念なんてもはやないけど…」


〈走りながら紋章陣を描くとは…あやつ、途轍もない素質を携えておるわい〉


 どうやら僕の事をゴーレムか何かと大体に想像しうる存在であると勘違いしているらしい。ゴーレムってあれだろ? 人間の手で作り上げられた人形で僕の知っているのは主に土や岩で作られたものだけど、この世界じゃ違う概念で存在しているに違いないな。


 でも僕は人工的に作られたという存在ではないし、肉体を代償とされて魂を封じ込められただけの人間そのものだ。あと余計なのが一人いるけど…。


〈貴様、余計なとは失敬な!〉


((うるさ)いな、今はそれどころじゃないんだってば!)


 …話を戻そう。フィロが言うに、僕の身体は消滅したわけでは無いそうだ。只、この鎧を動かす為の触媒として溶けて一体化したにぎないらしい。魂がいわば脳と心臓の役割を果たす(コア)の役割を果たしているんだって。


 これは僕の考えだが、元の姿に戻るには鎧から触媒となっている僕の身体を引き離して再構築し、魂をその身体に移せばいいのかもしれない。フィロから聞いた知識でなんとか考えたがこれが今の限界だ。要はその為の『方法』や『手段』をまったく知らないのが問題なんだ。


 フィロの奴、どうして教えてくれないんだよ…。鎧の主導権は僕の魂があるからこそ奪われているわけで、それを抜けばフィロへと主導権は移る筈に違いないのに…。


〈ふん、教えるにはお前の今の頭では200年速いと判断したからじゃ!〉


「えー、というか、僕の状態って生きてるって表すのが曖昧なんだけど」


 後ろから来るライリーの紋章術による極太水鉄砲を避けつつ、僕はフィロとの会話に夢中になっていた。だからこそ、気付けなかった。そういえば、結構走ったな。目的なんて決めてなかったからまさか、人道(ひとみち)に出るとは思わなかった。

 

 整備され、比較的平らになった土の道が足の障害物の感覚を一気に取り払い、楽な走行を手伝ってくれる。それでも、目の前の『行列』へ突っ込むのを防ぐには至らなかった。


「ふご――っ!?」


 凄まじい速さで後先考えずに走っていたから停止する暇もなく、僕はそのまま偶々歩いていた行列へと突っ込んだ。いや、正確にはその中の馬車の荷台に、だ。強烈な衝撃は馬車の荷台を一気に傾かせる程の力として襲い、動いていた列を混乱に導き、停止させる。衝撃で徐々に傾いていく荷台は完全に地面へと倒れこみ、土煙を上げる。


「な、なんだ! 魔物か!?」


「馬車の荷台が襲われたぞ!」


「こりゃあひでぇな!」


 その場にいた人々は何が起きたのか分からないでいる。土煙が晴れていく中、更に水鉄砲が彼らに襲いかかる。しまった、ライリーの紋章術だ!


 土煙で見えづらくなっていた視界は一気に鎮圧し、明確になるが、おかげで彼らはびしょ濡れだ。余計に現状が分かりづらくなっていた。


「い、痛みを感じなくて良かったよホント…こんなの骨折、挫傷ものだ」


〈我ながら頑丈な体じゃのう。どこまで念入りに硬化の魔術刻印までもを相加して刻んでるんじゃか…〉


 何が起きたのかが未だに分からない。自身の突進が原因でこうなったと理解するには時間が必要だ。それに、荷台に身体が少しめり込んでいる。強く引っ張らないとつっかかりとなる材木が引っかかってうまく外せない。


 無理を承知で僕は思いっきり引っ張り、身体を自由にすると、少しずれた頭部を正常位置に直す。


「はぁ、はぁ、やっと…追いついた!」


「げぇっ!?」


〈何ともしつこい小娘じゃ…〉


 おまけにライリーが目の前にやってきたから僕は露骨に嫌そうな声を出す。待って、話せば分かるから! だから僕の身体(性的ではない)を狙おうとしないで!


「さっきのはちょっとしたジョークだってば! 只、少し調べさせてくれるだけでいいのよ!」


「…嘘つかない?」


「だから…はいはい! 私が悪かったから、これで十分?」


 降参と言う風にライリーは両手を上げ、ため息を付きながら彼女なりの誠意に対して僕に理解を求めてくるのがわかった。内心びくつきながらも、それを受け取り、一応この話はこれで終了かと思われた。


「おい、アンタら! 一体どこの回し者だ!」


「まさか、盗賊団か! 俺達の荷物を狙って……っ!?」


 今度は周りの人間が口々と騒ぎ出した。これは仕方の無い事かもしれない。自分達のイザコザに彼らはただ巻き込まれただけで、いわば被害者なんだ。ライリーは違うと近くの人間から説明をして、自分達が悪い輩ではないと証明を始める。それに習い、僕もまた何故こうなったかを説明していく。


 そんな時だった。大地が響き、森が騒がしくなった気がしたのは…。


 様子がおかしいと感じた僕は何かが来るであろう方向へと瞬時に視線を向け、じっと身構える。そんな僕の姿を見て、ライリーをはじめとした人々も僕の行動に疑問を持ちつつ、僕が視線を向けている方へと同じく視線を向ける。


 次の瞬間、大勢の人間が自分達を取り囲むようにして現れる。その中には剣やら槍やら弓やらと物騒な雰囲気を垂れ流している。見るからにまともな輩ではない事が考えられる。


「この人達は…!?」


〈恐らく『盗賊』じゃな。この騒ぎを聞きつけてやってきたんじゃろう〉


「おぅおぅ、えれー事になってるじゃねぇか。手を貸してやろうか?」


「もっとも、お代はその積荷全てだって事だがなぁ?」


 盗賊達は盗賊達で目的の品を奪うべく、やる気満々のようだ。どうやら僕の周りにいる人々は商人らしい。近くの人に話を聞くに、王都へ売り物を届けに行く途中だったようだ。

 

 馬車の後方から武装した人間達がこちらへと集まってくる。彼らはこの商人達の護衛隊なのかもしれない。この場合、どうしたらいいのかな? 取り敢えず、見て見ぬ振りは出来ないとして、商人達を守る方向で行くべきかな?


 そう考えている内に、戦いが始まる。それに伴って、僕へと盗賊の一人が槍を向けて突っ込んでくる。咄嗟につい癖で体を動かして槍を腕で弾き返し、そのままストレートで殴ると、その場には先程まで盗賊が持っていた槍が落ちていた。


「関わった以上、仕方ないね…」


〈関わったというより、巻き込まれたが正しいかのう?〉


「ハハッ、それもそうだね…うーん、この手の武器はあまり使ったことないんだけどなぁ」


 そう思いつつも、僕は戦乱の真っ只中へと突っ込んでいった。

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