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ストレンジ・シバリー  作者: 篠田堅
第一章
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プロローグ 夢か幻か

初めてのオリジナル連載作品です。

これからも精進いたしますので何卒長い目でお願い致します。

 まるで『誰か』が見ている風景を僕の視界に映している。


 周りには人集りができ、誰もが一つの場所に集中して視線を向けている。


「人間共、やはり貴様らは蔑如(べつじょ)されるべき存在だっ!!」


 その先には身体中を(かぎ)付きの鎖で貫かれ、地面に鮮血を撒き散らしながら拘束されている女性の姿。彼女は街中で数人の男性が見れば振り返るほどに美しい褐色の美女だ。


 だけど、そんな彼女は今、身体中を血で濡らし、美しい顔を憤怒(ふんぬ)侮蔑(ぶべつ)といった表情で恐ろしく変えている。

 

 僕にはなぜこのような出来事が起きているのかは理解できなかった。


「ならばこれまで通り、永久(とわ)に争い続け、苦行(くぎょう)の道を踏み進むがいい。それこそ醜き生き物としての貴様等あるべき姿であろう!」


 声を荒げつつ、自分自身を見つめ続ける人間達へとありったけの呪詛(じゅそ)を吐き続ける彼女の姿は鬼気迫るものだ。そんな恐怖漂う風貌(ふうぼう)でありながら、何故だか僕は彼女を『美しい』と感じていた。


 (はずかし)められ、自由を奪われてもなお、誇りを貫こうとしている。先程からの様子が僕にはそう(とら)えられた。


 その間にも彼女を拘束している鎖は地面からさらに多くが現れ、串刺しにしていく。夢であるはずなのに、僕は息を飲んだ。あのままでは本当に死んでしまうんじゃないか?

 

 そんな心配とは他所に彼女は体を締め付けられ、地面に(ひざまづ)けようと強く引っ張る鎖の力に抵抗し、依然として鬼の如く鋭い目を睨みつかせた。身体中は血まみれで、吐血しているというのに、何が彼女をここまで駆り出たせるのだろうか?


 いつの間にか、僕は一つの欲求に支配されていた。


 ――彼女の事を知ってみたい。

 

 と、ここで僕の見ている景色は唐突に色を無くして消去されていく。

 

 ――朝が来たんだ、夢が覚める時間だ。

 

 意識が完全に覚醒する前に、僕は最後に彼女の姿を見た。


 もはや声は何も聞こえなかったけど、大声を出しつつ、あんな状態であるにも関わらず、腕をどこかへと必死に伸ばそうとする姿。髪で隠れて見えてなかったけど、僕には分かった。


 彼女は…泣いていたんだ。


 それも『血涙』を流してしまうくらいに…。






 夢から現実世界へ帰還した僕を迎えたのは、寝返りを打った際にベッドから落ちた衝撃。額部分を強く打ち、じんじんと痛むものの、顔を押さえながらベッドから立ち上がった。


「…あれは、なんだったんだろう?」


 覚醒し始める意識の中、しばらく先ほどの夢を思い出していた。寝癖を手ぐしで整えながら、まだ眠たそうな顔を時計に向けた。


「はぁ、八時か…」



 欠伸をし、カーテンへと手を伸ばすと勢いよく開かれた。今日も天気は絶好の晴れだ。これなら気持ちよく登校できるに違いない。


 ――だが待てよ?


 確か学校の登校終了時間は8:40の筈だ。そして家からは約30分かけての通学となる。

 

 つまるところ、結論を言えば…遅刻である。


「やべっ!?」


 急いで服を着替え、カバンを手にして部屋から出ていった。自分の部屋は二階にあるから階段を使わなければならない。であるからして、急いで駆けるとドタドタと(わずらわし)い音が響き渡る訳だ。


 そのまま大急ぎで僕はリビングへと向かった。言っていなかったが、僕の住む家ではある決まりが一つ存在するのだ。


「すみません、遅くなりました!」


「遅い、いつまで寝てんだこのバカタレがっ!」


「ぬあぁぁぁあ!?」


 リビングへとたどり着いた僕に送られたのは、伯母からのフォーク投げであった。

 

 綺麗な曲線を描きながら真っ直ぐ飛来してきたフォークは横の壁に勢いよく突き刺さった。これが本当に当たっていたら、と思うと多少震えが止まらないよ。

 

 でも、毎回のことだから慣れているんだよねぇ。


「まったく、朝飯はキチンと全員で揃って食べるものだと言ってるだろう」


「す、すみませんでしたーっ!」


「アレット、やりすぎだよ」


 ここで自己紹介をさせてもらいたい。

 

 僕の名前はシルヴァーノ・グランドン。今年で17歳になる現役の高校生だ。

 

 そんな僕には両親がいない。三年前、交通事故で亡くなってからは親戚中をたらい回しにされてきたけど、遠い都市化が徐々に計画されつつある田舎町に住む母方の姉夫婦――アゼマ夫妻――に引き取られてからは多少安定した暮らしができるようになったんだ。


 そして今、目の前にいるのがアレット伯母さんとセザール伯父さんだ。

 

 アレット伯母さんは少々頑固なところがあるけれど、厳しさと優しさの両方を(かさ)ね備えたいい人だ。けど、かつては少女ギャングとしてこの田舎町に名を轟かしていた過去を持ってたりする。


 おっかないよ、洒落にならないくらいに…。


 セザール伯父さんは普段は飄々とした極めてマイペースな人だ。ここ自宅でもあり、アンティークショップでもある店を営み、他にもこの町のナイトスクールで西洋剣術を教えていたりしている。僕もまた、その教えを教授してもらっているんだ。


 そんな二人の出会いは、伯父さんがナイトスクールからの帰りの途中、仲間を侍らせて歩いていた伯母さんとの偶然な物で、互いに強烈な一目惚れをしたそうだ。


 この二人が結ばれたのは、この町のちょっとした伝説にもなっているんだって。


 テーブルに元からいた伯母さんと伯父さん、僕を最後にようやく全員が集合したところで朝食開始だ。伯母が用意してくれた朝食のクロワッサンにジャムを塗り、口いっぱいに頬張って早く済ませようと急いだ。

 

 口直しにはカフェオレで甘くなった口の中を苦味で癒し、リフレッシュしてから再度クロワッサンを頬張っていく。


 この繰り返しを何度かして今日の朝食は終わりだ。今から走ればなんとか間に合うかもしれない。


「ご馳走様!」


「気をつけて行ってくるんだよ」


 伯父からの労いを背に僕はようやく家から外出する。筆記用具等が入ったバッグを背負いつつ、いつもの通学路を走りながら進んでいき、遅刻阻止を目標に掲げて学校を目指した。


 この頃になれば、僕はすっかり『あの夢』の事は忘れていた。






「早くしないと閉めるぞー。急げ急げ!」


「やべっ、生活指導員のフィリップだ」


「捕まるといびられまくるぞ!」


 地元の高校生が通うジュリー・フェリー高校は既に多くの学生達が我先と校門をくぐり抜けていく。チェック表を持ち、校門傍で何やら記録をし続ける生活指導員のフィリップ先生には幾人もの生徒達が恐怖の視線を向けている。

 

 遅刻者にはこの高校では有名な罰が与えられるからさ。


 僕も例外じゃない。チャイムが終わる前に全速力で校門を急いでいた。校門が閉まる直前、ギリギリの所でスライディングをして残った隙間をくぐり抜け、校庭内へと進入することに成功した。 


「や、やった……」


「残念、アウトだ」


 校門はくぐり抜けた。でも、出席は教室につかなければOKと言えないのでここで罰が決定した。なんてこった…。

 

「勘弁してください、ウサギ跳び校庭三周は嫌だぁーっ!!」


「うだうだ言ってないでほら、始めるぞ」


 僕はフィリップ先生に後ろの襟元を掴まれ、ズルズルと校庭へ引きずられていった。そんな哀れな僕の姿に校舎内から見ていた何人かは笑って見守ることにするのだ。薄情者め…。


 なお、教室へ改めてたどり着いた頃には千鳥足で机に座る僕の姿が更に教室のクラスメートの笑いを誘ったそうな…。いつか覚えてろよ!






「じゃあなシルヴァーノ、今度は遅刻すんなよ」


「う、うん。じゃあね」


 今日、自分自身に起きた悲劇を思い出しつつ、顔を引きつらせながらなも友達に笑顔を向けた。

 

 四時頃になり、ようやく学校が終わった後は下校の支度を済ませた。ヨーロッパのほとんどの学校には部活という概念はない。学校が終わった=下校となっているのさ。


 仲の良い友達と下校路に沿って別れてからは真っ直ぐと『ある場所』を目指した。個人的に楽しみにしている事があるんだ。


 それは『ナイトスクール』。

 

 前にも話した通り、伯父さんはナイトスクールで西洋剣術を教えている。その種類はフェンシング、サーベル、ドイツ流剣術等と様々であり、その中で僕はサーベルを好む。


 実際、僕は西洋文化という物に強く興味があり、その中でも騎士道を特に一目置いていた。初めは、伯父さんに勧められるがままにナイトスクールへ通う事になったのが切っ掛けなんだけど、のめり込んで行くうちに原点に至るまでハマってしまったんだ。


 こんな僕の事を周りは騎士道マニアと呼ぶけど、その事には何の羞恥心はなかった。


 だって、親戚中をたらい回しにされて心が錆びかけていた僕の事を真摯に接してくれた伯父さんがくれた『道標』なんだから…。

 

 こうして、いつもの扉を開けた。


 この先にあるのは現代でもなお、輝き続ける騎士達の巣窟だ。多少、変人も混じっているけどね…。

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