第04話
オーク襲撃は改めてこの森の中の危険性を認識させられる事件だった。最終的な被害は柵のみだったけど、(幸い襲われたやつらはみな軽傷で済んだ。医学なんてないからちょっとした事が命取りになるかもしれない)今後は拠点防衛をしっかりしたものにしないといけない。早急に対策が必要だな。
まずは石斧戦士の生産した。鬼人は戦士系ユニットだと攻撃力20%上昇する強力な文明ボーナスがあるので統一してもよかったのだが、各種族からバラバラに生産している。何故かと言うと労働者を生産した時に解ったのだが、隠れた特徴が存在するのだ。
例えば獣人の耳の良さ、ドワーフの手先の器用さ、エルフの視界の広さなどだ。本来ゲーム上では獣人は足が速くなるボーナスのみのはずだし、ドワーフとエルフの労働者に文明ボーナスなど存在しない。だがこうした隠れた特徴があるため、今は様々な種族を生産するようにしている。
閑話休題。
そして、オークによって壊された物の修理をしつつ早5日が過ぎた。
「おい、大将。こいつを切り倒せばいいのか!?」
「ああ、頼む!」
オークを倒した石斧戦士・サイラスが石斧で大木を切り倒す。
「しかし、俺がまさか敵さんを倒す以外で働かされるとはねえ」
「まあ、非常時以外働かなかったら暇なんだしいいだろ。古代中国では屯田みたいに田畑を耕してた兵だっていたんだしさ。働かざるもの食うべからずだ」
「やれやれ、大将は人使いが荒いねぇ」
ぼやくサイラス。彼ら戦士系ユニットは戦闘以外だけでなく、こうした力仕事にも十分こなしてくれる。ゲームでは労働者以外が資源回収なんて仕様でできないから有り得ない話だけど現実じゃそんな仕様はないしね。細かい作業は苦手みたいだが、そこは労働者の得意分野だ。そんな彼らの働きによって今までよりも格段に効率を上がった。特に宮殿周辺の木々を伐採したおかげで次の施設も造れる。
『創成』の間に建てられる施設はあと四つ。『伐採所』『採掘所』『港』『穀物庫』である。『伐採所』は木材の資源を収納する施設、『採掘所』は石や金といった鉱石を収納する施設だが四方を森に囲まれたこの場所ではあまり必要がない。同様に『港』もまた海に面していないと建築不可なので却下。となると残りは『穀物庫』である。
『穀物庫』は畑を造ることができるようになる施設だ。畑ができるというなら危険を冒さずに食料を手に入れることができる。ゲームでは畑を造るのにも木材を消費するため資源不足時には行えない。その問題は解決したのだが……。しかし、ゲームであれば畑の作物は実ったが、この世界はやはり現実に則したものなのだろうか?
しかし進化するにはどれかを建てなければならない。それに人が増えた今自然の恵に頼りきりも危険だよな。試してみるか。
画面を開き、『穀物庫』の建築する。建物は高床式倉庫みたいなもので、近くには石製の鍬などの農具と幾種類かの種(麦はわかるが他は何だろう?)が入っていた。これを蒔けってことなのか?畑は別に造らなくても耕したりすれば代用できないかな?農業の知識なんて殆どゼロだけど。でも畑建築のアイコンはあるし、これはなんでだろう。
次に畑を造ってみると設置した一面が耕された状態になった。おおすごいな、鍬いらなくね?でも便利だから早速種を蒔いてみるか。
種を蒔き埋め水を与えるとにょきにょきと芽が生えてきた。な、なんて非現実的な光景。どうやら種子が凄いのではなく土地がすごいらしい。単に耕した場所はやはりすぐに芽など出なかった。改めてこの能力の出鱈目さに気づいたわ。しかし畑が出来ると料理の幅が広まったな。水の問題が起きたけど。井戸を掘るべきなのかな?
でもこれで進化は可能になった。進化中は宮殿から労働者を生産できなくなる弊害がある。進化の時間は確かゲームならば労働者生産の10倍ぐらいなので20時間くらいのはずだ。食料も十分にあるし、よし進化させるか!
深夜、見張りにつく。今は40人近くが生活しているのもあって、二人交代で火の番をしている。今日は俺、サイラスの二人だ。今までのところ夜襲はない。見張りは暇を持て余す。満天に輝く星空は綺麗で最初のころは眺めていたが今はもう飽きてきた。
「お疲れ様です、アキヒト様、サイラス」
「あれ、オリビア。寝られないの?」
「いえ、ちょっと眠れなくて。少し話してもよろしいですか?」
「ああ構わないぞ。嬢ちゃんがいたほうが華があっていいしな。大将と二人きりじゃ盛り上がらんからな」
サイラスが笑い、苦笑しながらオリビアが腰を下ろす。
「なんか三人で寝てたのが大分前のようですね」
しみじみとオリビアが言う。
「あれから二週間以上経ってるもんな。たった二週間でここまで人が増えるなんて思わなかった」
「そうですね。忙しくてあっと言う間でしたけど」
「もう一つの村みたいな規模だよな。するってぇと大将が村長か」
「そんなの柄じゃないよ。つうか大学生が村長なんて有り得ないし」
宮殿に人が収容できなくなり周辺で竪穴式住居が大活躍中である。確かにちょっとした集落だ。
「これからどうなっていくんですかね。なんだか楽しみです」
……これからか。元はと言えば俺が森から抜け出すために始めたことだ。その根底にあるのは自分の世界に帰ることで、自分の都合で彼らを生み出したんだ。
たった二週間だけどみんなは必死に生活を営んでいた。帰れない場合はこんな生活を続けていくのだろう。けれどもし、自分が帰れることになったら、――俺は彼らを一体どうするんだろう。
その日は結局答えを出すことはできなかった。
そして夜は明け、新しい時代に突入する。