第03話
労働者の人数も今は20人に増えた。一通りの種族は揃え、そろそろ平屋でしかない宮殿が手狭に感じてきたので、創世時代に建てられる家――ゲーム上ではユニット数は一定以上増やせないようになっており、家を建てることでその上限を増やすことができる――を建ててそちらに住もうかと思ったんだが。見事なまでの竪穴式住居だったので宮殿の方がマシかと思い、みんなで住んでいる。
それと初日の晩の恐怖から、宮殿の廻りはぐるりと柵で囲んで見張り台を建てた。あまり頑丈なものではないから早く石壁に変えたいのだが、次の時代に移行しない限り造れない。
「じゃあ水を汲みに行ってくるから、そっちはいつも通り木材集めをお願いするね」
「はい、アキヒト様」
俺を中心にする班とオリビアを中心とする班に分かれる。水は貴重なのでこちらの方が多いけどね。人が増えたおかげで仕事を割り振りできるようになってよかった。
そうそう、手先が器用なドワーフの労働者に頼んで造ってもらった背負子や、怪力を持つ竜人、鬼人が増えたので大分木材や食料集めの効率が上がったのも大きい。このペースで行けば時代の進化も近いうちに出来るだろう。
とは言え森の危険は相変わらず。この間も食料を集めに行った時に猪に襲われた。その時は5人で石槍を突き殺したけれど一人で行動してたらこちらが餌食になっていただろう(ちなみに猪はみんなで美味しく頂きました)
だから水汲みも命懸けだ。瓶背負うもの、石槍で周囲を警戒するもの、役割分担して行動している。
そして俺はあの能力を利用して周囲に狂暴な生物がいないか画面上の地図で偵察を行っている。ユニットの円を描くように周囲の状況が表示されているので死角からいきなり襲われる心配もない。上手くやれば相手に気付かれずにやり過ごすこともできた。これで森を脱出できないかと思ったが、猛獣はこの有視界外からも襲ってくることあったので安全に脱出できるのは無理だろうな。というかこの世界ほんと人いるのか?
水汲みを終え無事に宮殿に帰ると、丁度木材集めから帰ってきていたオリビア達が待っていた。集めた木材の量を確認すると、ようやく戦士育成所が建てるだけに十分な木材が集まっていた。
戦士育成所は近接攻撃が強い戦士系ユニットを製造することができる施設だ。これを建てないと今後の時代を進めた場合、他の戦闘系ユニットを生産する施設が軒並み建てられないので(このように施設建築には前提条件が必要になるものがある)必ず建てる必要がある。次の時代から建てられる射手系ユニット――遠距離で戦える弓などを持つユニット――を生産する『射手育成所』や騎兵系ユニット――その名の通り馬などに騎乗するユニット――を生産する『騎兵育成所』が建築可能になるからだ。騎兵は馬ごと出るかはわからないが、弓は欲しいな。
戦士育成所を建てた所、かなり広い建物だった。まだ建築できるだけの広さは十二分にあるが、そろそろ周辺の木々を切り開く必要があるかもしれない。中には宮殿のように石斧がおいてある。
早速鬼人の石斧戦士の生産を開始。%の上昇速度から見て労働者と同じぐらいかな。その間に他の資源回収に行くか。
「アキヒト様大変です!」
木材を探しに行ったはずのエルフ女性のイレーネが叫ぶ。目の良さはみんなの中で一番だ。
「こちらに向かってくるオークがいます!」
「なっ!?数は」
「一体だけのようですがかなりの大きさです!」
ファンタジーでもよく出てくる醜い豚の怪物だ。『アルハイム ミソロジー』でもランダムで配置されている怪物である。序盤最大の脅威でよく労働者が犠牲になるのだ。まだ石斧戦士が生産されるには時間がかかる。今一体だけとは言えかなり厳しい。
とにかくみんなを宮殿に戻さなきゃ。見張り台から大声でみんなを呼ぶようにイレーネに指示を出す。幸い森の奥深くまで行っていた労働者はいなかった。
「応戦の準備を!槍を持て!足りないやつは投石するんだ!」
森から3mを超えるの巨体のオークが現れる。うわ、こんなにデカイのかよ。ゲームと同じで人間には友好的ではなさそうだ。人肉が好きだったり、女をさらったりする気なのか?どちらにせよ獲物を見つけたと言わんばかりに雄叫びをあげ、どすどすとこちらに向かってきた。
咄嗟に画面を開き、オークの周りを柵で囲み閉じ込める。急に現れた柵にオークは戸惑うが再び興奮状態に戻り、柵に体当たりする。木の柵はミシミシと音をたて今にも壊れそうだ。柵を二重に覆うが所詮時間稼ぎにしかならない。
「今のうちに見張り台から石を投げろ!このままだとやられるぞ!」
そう呼びかけこちらの攻撃が始まった。石は勢いよくぶつかるがまだ血を流す程度で致命傷には到らない。最初の柵が薙ぎ払われる。倒した柵を手にとるとオーク。なんだ――?って危ない!
ブオンと投げ込まれる木の槍。オークが柵の木を投擲したのだ!幸い狙いが甘かったのか外れたものの、外れた槍は宮殿の壁面に突き刺さっている。どんな勢いの槍だよ、絶対に喰らいたくねぇな。
石斧戦士生産までもうすぐだ。仕方ない、柵で囲みつつ時間を潰す作戦にしよう。更に二重に柵を建築する。――はずが囲もうとしたところでそれ以上建てられなくなった。なんで囲めないんだ!?と画面を見ると木材の資源が尽きていたのだ。そういえばさっき戦士育成所で木材を結構使いこんだ。柵は余り木材を消費しないが無限に使える訳じゃない。
あとはオークが柵を壊すのを遅らせるしかない。投石を続け怯ませつつ、時間を稼ぐ。まだ……まだ持ってくれ!
オークを囲っていた全ての柵は壊れた。もう宮殿を囲う柵しか残っていない。ここが壊れれば宮殿に立て篭もるしかないな。けれどゲームでは高い耐久力を誇る宮殿だが現実のあばら屋に近いこれがどの程度耐えられるか不安だ。すでに槍が刺さってるしな。
ミシリ、ミシリと柵が悲鳴をあげる。もうダメそうだ。見張り台から降り、石斧を持つ。覚悟を決めた。最悪は犠牲を出しても倒すしかない。
緊張が走る。ゴクリと喉を鳴らした。そして宮殿を囲う柵が決壊し、オークの醜い姿を曝した。
槍でつこうとする者、斧を振り上げる者がオークに立ち向かう!けれどオークは手にした木の棒で全てを薙ぎ払った。そしてオークがこちらに突進してきた!
やられる―――!
一瞬間を置いて悲鳴。――オークの悲鳴が響いた。
「やれやれ、生み出された途端にいきなり壊滅状態とは大丈夫かね」
オークの鮮血に身を染めながら、ニヤリと笑みを浮かべる2m近い大男がオークの肩を切り裂いていた。石斧で。……って石斧で切れるんだな。
オークはズシリと倒れる。そしてみんなの歓声がこだました。