第02話
肩をトントンと叩かれる。誰だよせっかく気持ち良く寝てるのに……。うっとうしいので無視していたが何度か叩かれて渋々目を開ける。
そこには眠気を吹っ飛ばすほどの美少女がいた。年齢は17くらいだろうか髪は背中まで届くほどのブロンド、目は優しい感じを受けるやや垂れ目の透き通るようなブルー、肌は白くはないが健康的な小麦色、胸も結構大きいな……。服がちょっと残念だけど一言でいえば布の服?って感じだ。けど間違いなく美少女である。思わず口をあんぐりあけて見ている俺は相当馬鹿ぽく見えるだろう。
「アキヒト様?」
「え、あ、なにかな?というかどちら様で?」
鏑木章仁――それが俺の名だ。声をかけられ緊張して直立し吃りながら相手の名前を聞く。クスリと笑う少女。やばい逐一動作が絵になりすぎだろ。
「まだ名前はありませんよ。だって生まれたばかりですから」
生まれたばかり?見た目は大人中身は子供とでも言うんだろうか――ってそうだった!確か宮殿で俺は寝ててそれで――。
「じゃあもしかして君、労働者?」
「はい!」
ああ、いい笑顔だ。惚れてまうやろー。
「じゃあ君は俺の状況と、自分が労働者であることしか知らないのか」
「そうですね。この世界のことは全く……。ただアキヒト様がいた世界とは違うのは確かですね」
ふむ、まああんな熊もいたし、こんな能力も現実では有り得ないしな。そう考えるとやはり異世界トリップして不思議パワーが付きましたってことか。この不思議な能力はどうやら俺しか使えないらしい。この危険な地域でこの能力は重要な生命線だ。だからなるべく能力について把握しておかないといけないだろう。
冷静になってあの画面を見てみると(必要に応じて画面を呼び出せるらしい)、本来ゲームにあった機能の幾つかがなくなっている。無くなったのはゲーム終了はもちろんのこと、ヘルプ機能やユニットなどの説明されている図鑑、そして現在の各文明の国力を数値化したグラフなどだ。もしかすると他にもゲームとの差異があるかもしれない。これはおいおい調べていくしかないか。
どちらにしても今は資源不足で大したことはできない。取り敢えず残った資源で労働者生産を行っておくか。幸い者他の種族を差別するようなことはなさそうだ。ならば他の種族の労働者を生産してみよう。文明ボーナスがどういう扱いになっているか調べるのにも丁度いい。因みに労働者の性別はランダムである。……もしかすると女性が出た場合彼女みたいな美人ばっかり出るんだろうか、……ごくり。――逆にイケメンばかりでも困るが。
「アキヒト様、それでこれからどうなさいますか?」
とにもかくにも資源の回収が必要だ。食料集め、木材集め両面で人の手が必要になる。食料集めを優先したほうがいいか。早速食料を集めるために外に出かける。あと名前が無いと不便だったので、彼女のことはオリビアと名付けた。危険なので一応石槍を持って慎重に森の中へ入っていく。オリビアは労働者としての必要な知識が既に備わっているらしく、何が食用で何が毒物かを丁寧に教えてくれた。サバイバル経験ゼロな俺は殆ど役に立っていない。せいぜい荷物持ちくらいだ。だからしっかり覚えて足手まといにならないようにしないと。しかし籠かなにか持ってきたほうがいいな。いくらなんでも嵩張りすぎる。
2時間くらいで手に一杯になった食料を携え帰ってくると、一人の青年が宮殿にいた。どうやら労働者の生産は終わっていたらしい。その青年はどっしりとはしていないがなかなか引き締まった体格をしていて、凛々しい印象を受ける。だが何より特徴的なのは頭上にある犬耳だろう。そう彼は獣人である。
獣人は動物の耳や尻尾が人の体にあるのが特徴なのだが、ユニット毎にその動物の種類が異なる。例えば戦士系ユニットは獅子や豹、鷲などが上げられる。確か労働者は犬と猫のどちらかだったはずだ。
「アキヒト様、よろしくお願いしますワン!」
……いい年した凛々しい大人がワンって……。パタパタと尻尾を振って、目をキラキラとされると若干引きそうになるがまあ我慢だ。確認したいこともあるし。
「早速で悪いんだけど、木を集めてくれないかな」
「了解しましたワン!」
シュタタタと駆けて行くワンコ青年。彼自身が単純に早いのかはわからないが結構な早さである。実は獣人の文明ボーナスとして労働者の移動速度が他の種族の労働者より20%ほど早いのだ。早ければ早いほど資源回収が有利になる。彼一人で判断するのは危険だが、どうやら種族ごとの文明ボーナスは存在する可能性は高い。ならば種族に合わせた作業を割り振るのが適切か。
ワンコ青年が薪を持ち帰ってきたので、画面を確認する。木材、食料共に増えているのを確認した。ついでに資源を消費したら数値は減ってしまうのかと試しに取ってきた果実をムシャリと食べるが数値は減ってはいない。どうやら資源を回収したという実績があれば値は増えるようだ。今回取ってきた食料は二人あわせて20上がったが、次の時代に進化するためには500ほどの食料が必要になる。冷蔵庫が無い今、保存のきかない食料の余剰は腐らすだけだもんな。この仕組みのほうが助かる。木材も火を起こした時に使ったが同じ結果だった。他の資源も同様の可能性が高い。
そのあともう一度みんなで木材を集めに行き、夕暮れになったところで危険だと判断して宮殿に戻った。みんな集まって夕食をとる。調味料がなく味気ない野草のスープだったけど、とにかく腹を膨らませたかったから我慢して食べた。せめて塩を探さないとな。水瓶の水もいつまでもつかわからない。やらなきゃいけないことは沢山だ。
夜中は三人身を寄せ合ってブルブル震えながら一緒に寝た。寒いんじゃない。怖いのだ。宮殿の中にいるが、森の方から狼らしきの遠吠えが聞こえてくる。近づいたと思えば遠退き、遠退いたと思えば近づいてくるのだ。いつその牙がこちらに剥くのかが怖くて堪らない。火の番をしながら交代で休んだほうがいいのかもしれないな。これも早急に対策を打たないと。確か木の柵とか造れたはずだ。取り敢えずはそれで宮殿周辺を囲むか。
早く朝になって欲しいと願いながら異世界の初日を終えた。




