表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第01話

起きたら森の中だった。


……いや待て。どう考えてもおかしい。キョロキョロと辺りを見回すがまさに森の中と言わんばかりの景色であり、全く見覚えの無いところだ。俺の家の周辺にこんな辺鄙な所はない。むしろ電柱や道路といったものが見当たらないなんて、一体ここはどんなド田舎なんだろうか?


手持ちに何かないか探すがなにも持っていない。携帯が無い以上連絡の取りようもないな。……あっても電波が届きそうな気はしないけど。


それにしてもほんとここはどこなんだ?記憶を辿っても遊び疲れて寝たくらいしか覚えていない。知らない間に連れ去られたとでもいうのか?だがそれにしてはこんな所に放置というのもなんか変だ。


寝起きドッキリなら早めにネタバレして欲しいが生憎そんな不愉快イベントをかましてくれるような知り合いはいない。……多分。


一面森の中のせいかやたら空気が美味いのでのんびりしたいが、このままいてもしょうがない。とにかく移動して人を探すくらいしかないよな、と宛もなく歩きはじめた。


しばらくすると小川を見つけたので、これを目印に川に沿って上流を目指す。上流が小高い山になっていたので見下ろせば何かわかるかもしれないと期待したからだ。はてさてこの選択は正しかったのだろうか。




15分ほど上流に向かうと黒い点のようなものが見えたので、おやと思い足を止め、目をこらしてみる。――それは頭に角の生えた熊だった。……頭に角って、ねーよ新種かよ化け物かよ。遠目から見ても巨体とわかるその熊は小川の水をゴクゴクと飲んでいる。最悪なことに何頭かいやがるし。ここは猛獣の宝庫か?そういやこうした水場は野生動物が集まりやすいってのをテレビで見たような。幸いなことに風下だったからかこっちに気付いていない。静かにだが急いでその場から逃げ出した。


30分くらい逃げたのだろうか。もう走れないと思ったところで野原に出た。喉がカラカラに渇いているが、水場は怖くて行く気がしない。すでにどうやって逃げてきたかわからないような迷子になってるし。あーどうすればいいんだこれ。ああ早く帰りたい。帰ってゲームやりてぇ。


ポン――と音が鳴り宙空に浮いた半透明の画面が視界に入る。なんだこれと焦るが、この画面には見覚えがあった。それは帰ってやりたいと思っていたゲーム――『アルハイム ミソロジー』のプレイ画面だったのである。


『アルハイム ミソロジー』とはアルハイムという中世ファンタジーな世界を舞台にしたRTS(Real Time Strategy リアルタイムストラテジー)である。これはアルハイムという世界で国を興し、国造りを並行しつつ軍事力を拡大して戦争を行い敵国を倒すという箱庭ミニスケープ要素と戦略ストラテジー要素を含んだゲームだ。ゲームはリアルタイムで進行するため当然敵国も独自に成長し襲い掛かってくる。それを如何に防ぎ如何に早く国を成長させるかが重要になってくるのだ。


それにしてもそんなゲームの画面がなぜ?しかも画面の地図は今まで歩いてきた場所も表示されているし(因みにゲームでは、自国民が踏破した範囲しか表示されない)しかもその画面には俺らしき人物が表示されている。


もしかして俺が労働者ワーカー扱いなのか?労働者はユニット――ゲーム上の駒のこと――の一つであり、施設の建築や資源の回収といった国家運営に欠かせないユニットだ。代わりに戦争にはあまり役に立たず、せいぜい草食動物の狩りができる程度でしかない。まさかと思い画面の自分に触れると最初の拠点となる施設『宮殿』が建築可能だとアイコンが点滅している。


恐る恐る宮殿の建築のアイコンを押す。すると目の前が急に鮮烈な光を放つと木と枯れ草でできたみすぼらしいが大きく広い建物が出来ていた。本来なら労働者でも建築作業が必要なんだけど一瞬で出来てるし……夢じゃないよなあ。でも現実じゃ起きっこない。……もしかしてこれって異世界転移ってやつか?しかもヘンテコな能力を与えられた系の。もしかして魔王倒す勇者にでもなれというのか?


現実逃避に浸っていたいがゲームの能力を与えられているのは事実だ。深く考えるよりも中を確認してみる。外見も古めかしいというよりはボロっちいものだったが中も殆ど変わらない。ゲームと似た建物だけど宮殿と呼ぶにはおこがましいよな。五人分の斧やナイフらしきもの、槍や釣竿とトンカチなどの道具があった。労働者は資源の回収で木や狩りを行うときにその作業に合わせた道具を使うのだ。多分ここから持って行けということなのだろう。……でもなあ、全部石器や木製なので実際に使えるのかは甚だ疑問なんだが。


ゲームの序盤は『創世』と呼ばれ、まだ青銅すら存在せず石器時代な世界なのだ。どうやらこの状況はそのゲームのルールが適応されているらしい。ゲームに則ると鉄製のものを手に入れたければ、その国の文明を次の時代に進化させるしかないのだ。


けれどそれはすぐには出来ない。なぜならば進化を行うには二つの条件を満たさなければならないからだ。一つはその時代で建築できる施設を2つ以上建てること、もう一つは一定量の資源を確保する必要がある。


資源――ゲームでは木材、食料、石材、金の4種類に分類されるのだが序盤に支給される資源は木材と食料のみ。しかも僅かなものでしかなく、宮殿と家が建てられるほどの木材と労働者二人分の食料しか渡されない。所有する資源の値を見るとゲームの初期値と変わらないものだった(宮殿を建てた分木材は減っていたが)これでは進化なんぞ出来るわけがない。


さすがにあの熊が棲息するような一帯で一人石斧や石槍を持ってうろつく気にはなれない。少なくとも対抗できるようにしないと。だとすると確実に倒すなら戦士系ユニットを生産するしかないか。戦士系ユニットを生産するには宮殿ではなくて最低でも『戦士育成所』という施設を建てる必要がある。しかしその施設を建築するための木材はない。ここはセオリー通り労働者を造るしかないのか。――生命を自分の都合で生み出していいのか少し逡巡するが、このままだと餓死するのは目に見えている。ゲーム通りだというのならばできるはずだ。


労働者を生産するにはまず宮殿を選択しなければならない。画面の宮殿に触れる。それを選択すると、本来労働者の生産アイコンが表示されるのだが、しかし、そこはいつもと微妙に変化していた。


本来『アルハイム ミソロジー』では始める前に文明を選択する必要がある。その文明は八つの種族――人間、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、魚人、鬼人、魔人――に分かれ、それぞれの文明によって施設の形が違ったり、生産できるユニットや開発できるテクノロジーが異なったり、文明ボーナスと呼ばれる種族ごとのメリット、デメリットが設定されているのだ。そのため生産できるユニットはその文明の種族しかできないはずなんだけど……。何故か労働者生産アイコンが八つあり全ての種族を生産できるようだ。


労働者の生産には食料の資源を消費する(建物には水瓶はあったけど食料なんてなかったんだがな。一体なにを消費しているんだろう)竜人は他の労働者と違い体力があるため、若干コストが高い。(鬼人も竜人と同じなのだが移動速度が若干遅いデメリットもあり相殺されている)それと基本的にほぼ外見は人と同じで耳が長かったり獣耳だったり、角が生えていたり羽があったりするだけなのだが、やっぱり無難に人間の労働者を生産するべきだよな。気にはなるけど種族の違いで嫌われたり酷い目にあうかもしれないし。


そう考え人間の労働者のアイコンを押す。生産中になり0%と表示された。時間経過で上昇し、これが100%に達するとユニットが現れるはずだ。……話が通じるといいけどなあ。と思いながら生産完了を待つために宮殿の中で寝転がりそのままウトウトと眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ