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コンセプトは、強い女になる。
凛々しくて──かつ麗々しくなるべしと彼が旗印を掲げた。
「れ、れれしく?」
「某ほうきのおじさんじゃないわよ。目立っていきましょ、ってことよ」
難しい漢字をスッと書いて、言いながら丸印をつけた。
「よく分かってると思うけど、まず無理な……というかダイエット自体はしなくていい。体型なんて人によるから」
たからちゃんはどこまでもその人が持つものを否定しない。脂肪さえも捨てなくていいと言う。ただ本人が捨てたいなら捨ててもいいよと──その分優しさを拾っておくねと。、
「ただ筋肉をつけたい、ならオッケー。そうねえ、コンセプト的にちょっと筋トレとか頑張るのは合いそうね」
どうする?
たからちゃんが目を細めて私に聞いた。
「や、やります」
不登校期間と週一登校の生活で、自分の体型はより気になっていた。
これはチャンスだ。
挽回の機会だ。万全の気概を持つ。
「やれることは全部やります」
そう言うとたからちゃんの口元から白い歯が覗いた。
「かっこいいじゃん」
じゃあ明日から始動だ。
そう言ってから、おっと、失礼、とウインクをした。
──ああ、今夜は眠れないな。
そう思ったのに私はすんなり眠ってしまった。
次の朝たからちゃんは眠そうで、聞くと虫の声のデカさにびびったわ、とのことでどっちのキャラともつかずにそう言った。
*
たからちゃんは持ってきていた三脚にカメラを設置する。
私の部屋でいいんですか、と聞くと、いいのよ、と頷いた。
「今回は、等身大の──見る人に近くて重なるような感じを大事にするの」
身近にいそうな子、身近でありそうな部屋。
たからちゃんがリングライトを並べた。……間近に見たことないものだった。よくまあ持ってきた。まあ必要な道具なのだから当然か。
「生配信じゃないしいくらでも取り直せる」
たからちゃんが私の肩を叩いた。
「編集するから安心して」
その手はやっぱり大きくて、声のトーンをいくら上げてもこのひとは男の人なのだとぐっと息を飲んだ。
──始まった第一回では、私の体型などのスペックをまず紹介した。
生配信ではないとはいえ、カメラが回っていると──レンズの向こうにいる無数の相貌を想像して身が固くなる。
「か、変わでぃたくて、こうして出演させていただきました」
噛んだ。
しかしたからちゃんは止まらない──うんうんと私の話を書いて話し出す。
「この夏はこの子の変身企画よ」
うわ、動画で聞く声だ。なんてハリがある。
動画をとっている横顔は鼻が高くて、顎までツンと尖ってとても綺麗だ。
「何回かに分けて、この子が変わる様を見せていくわね」
ああカメラの枠の外からだとこんな角度で彼を見られるのか。
そしてカメラに向かうと言うのは──レンズの先がまだ世界と繋がってなくともこんなに萎縮する思いなのか。
彼の隣は勇気がいる。
「今回は日常から日常への変身メイクよ。普段づかいできるメイクでいくわ」
しかし彼の隣じゃないと新しい自分が与えられない。
瞳を閉じる。
瞳を開く。
私がそれだけの間に、彼は化粧品の説明をしながら私の上に化粧品と言葉を載せて──さあ出来たと言った。
「ああ、ほら、気になっていたって言うここのニキビもすっきり消えた」
私に鏡を差し出された。
鏡よ、鏡。
──ああ、こんなに、とっても。
鏡に映る私は知らない私だった。
白雪姫の女王様はきっとこんな気分を知っているから鏡に問いかけていたのだ。
「す、すごい……」
「学校やお仕事でも使える感じにしてみたわぁ」
たからちゃんが笑った。
それからカメラを止めると──ふう、と息を吐いた。
「おつかれさま、どう? あたしにメイクされた感想は──」
「……す、すごいです」
陶器のようになった自分の頬に触れる。
肌が綺麗に見えるとそれだけで人の目を見る恐怖心が減るのか。
唇が綺麗に塗られるとそれだけで人の言葉を聞く余裕ができるのか。
心までニスで塗装されたようだ。
それに、それに。
それに何より──。
「あ、あんな、優しく」
彼の触れ方は優しかった。
といっても直接肌に触れるわけでなく、触れそうなところにはティッシュが当てられていたし塗装作業は基本ブラシだったが。
とてもとても優しかった。
まるで宝物にかかった埃を羽箒で払うかのような繊細さで。
まるで削りたてのの氷を握るかのような穏やかさで。
変わった自分への驚きだけではない。変えられる最中の柔らかな手と感じた吐息の温かさにまだ鼓動が高鳴っている。
たからちゃんは顎をあげて笑った。
「そりゃあどうも。その顔は雄弁ねぇ」
ファンデーションと優しさを筆に乗せられて染められた。
この感情は筆舌に尽くし難い。
きっと愛されるとはこういうことなのだろう。
そう思うほどに──錯覚するほどに交歓の時間だった。
「まだまだこれからよ。見た目が変わると人生変わるのよ。見る目が変わるもの」
たからちゃんの名言は予言だった。




