表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

エピローグ あはれ、一千年の果て



 あの次元食の夜から、数年が経った。


 あの日、すべてを飲み込んだ蒼い光のあと、皇の巨大企業……KMTは、中心人物の失踪と共に解体された。

 讃岐の家が守ってきた秘密も、時の流れの中に溶けていき……祠があった森は、今ではすっかり静かだ。 



  

「……これで、よし……」

 

 大学研究室で……助教授は、古い和紙に万年筆で数式を書きながら、顔も上げずにそう言った。

 その数式は、月の理を解き明かすためのものではなく、この不自由な地上で、限られた時間をいかに愛おしむかを計算しているかのようだった。

 彼は淹れたてのコーヒーを一口すすり、ふっと息をつく。

 

「……苦いな」


 その時、目の前の内線電話が鳴り始めた。


「……守夜?いえ、シュウ……」

「教授ですか?」

   

 都和は、年齢の関係で……今は、宇宙事業の研究へと移り、秀造には、大学での研究を引き継いでもらっている。


「大学のプロフィール写真の細工をする必要がなくなって、楽になったかしら?」

「そんな……研究の方が大変で、前のほうが、ずっと楽でしたよ」


 都和と秀造は、電話越しだが穏やかに笑い合った。

 

「そうね……間もなくロケット打ち上げ準備に入るから、しばらく連絡出来ないの。もう、守ってもらわなくて大丈夫でしょ?」 

「もちろんですよ……自由な時間を楽しんで!」


 秀造がそう言って電話を切ると、研究室には再び心地よい静寂が戻った。

 

 デスクの片隅には、あのシミだらけの古いノートが大切に置かれている。

 

 一千年前の契約も、

 

 月の使者の追跡も、

 

 もうここにはない。

 

 あるのは、ただ過ぎ去っていく豊かな時間だけだ。



 ふと窓の外を見上げると、真っ昼間の青い空に、白く透き通った月が浮かんでいた。

 

 かつては……檻の象徴だったその星は、今では都和がその足で向かおうとしている……ただの遠い中継地点に過ぎない。

 

 彼女はもう、隠される必要のない一人の人間として、あの空の先を目指している。

 

 そして自分は、この地上で彼女が帰る場所を守り続ける。それは……守夜という呪縛ではなく、秀造自身が選んだ新しい生き方だった。

 

 秀造は、冷めかけたコーヒーを最後の一口まで飲み干した。

 舌に残る心地よい苦味……。

 

 それは、一千年の永劫よりもずっと確かな、今を生きているという証だった……。

(完) 


 

 

最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ