指を喰べる
愛し方がわからないんだ。
うまく息ができないかわりにおなかがすいた。
指をなめると味がする。
あなたの味じゃない。 私の味。
ずっとあなたのことばかり考えているのに、
あなたの味がしないのは、
たぶん、あなたのことをなにも知らないから。
死ぬまえにあなたに会いたい。
どんな声で、
どんな息遣いで、
どんな顔をして私を見るんだろう。
わからない。 わからないけれど、
ふやけた指の腹を噛むと、
よれたところから血がにじむ。
あなたの味じゃない。
わたしの血の味。
ぬめって、あたたかい、からっぽの味。
あなたはきっと困ったように眉を寄せる。
その繊細な眉の下にあるあなたの瞳に澄んだ色が浮かぶだけで、
わたしの胃の底が赤ん坊の唇みたいにすぼんで、
触れられない乳のふくらみのほうへ吸い寄せられてほどけていく。
でもわたしの血まみれの指先があなたへむかうたび、あなたはそっと距離をとってくる。
触れたい。会いたい。
こんなふうにしか、あなたを求められない。
それしか思いつかない。
どうすれば会える?
どうすれば嫌われない?
嫌われないためにできることなんてほんとうにひとつもないのに、
わたしの指だけがふやけた皮膚の内側でむずむず疼いて、
この指を全部あげればいいんじゃないかとか、
あなたが欲しがるなら腕をちぎって渡せばいいんじゃないかとか、
あなたの嫌いな部分から先に捨ててしまえば、
あなたの目に映る私は少しはましになるんじゃないかとか、
そんなふうに思えば思うほど嫌われないための方法が、
わたしを削り落とすことと同じ意味になっていくのに、
削っても削っても内側のいちばん汚いところに、
黒い塊みたいなそれだけがべったり貼りついて落ちなくて、
愛していますなんていうゲロい言葉が、
死んで肉が腐って骨が乾いたあとですら骨のくぼみにこびりついて、
臭気が爪のあいだに染みこんでとれなくて、
息をしただけで胃がひっくりかえって吐き気がするのに、
それでもおなかがすいたって腹が鳴って、
舐めれば血の味といっしょに甘い腐れがせりあがってきて、
吸えば吸うほど苦しくておいしくて気持ち悪くて、
黒い脂みたいなあなたを食べているつもりで、
ほんとうはずっとわたしの腐った部分を食べているだけなのに、
これがあなたの味なんだと勝手に思いこみながら、
ほんとうはどうかなんてなにひとつわからなくて、
考えれば考えるほどあなたのかたちがぐずれて、
そもそも最初から実体なんてなかったはずなのに、
なかったものが崩れるようにどろりと垂れてくるそれが、
わたしの傷口を舐めるみたいにひたひたと広がって、
その行為を愛だと言い張ってくる。
ずっとあなたに聞きたかったんだけど、愛ってなんだと思う?
ねえ、おしえてよ。
触れようとすると逃げて、
逃げられると追いかけて、
追いかけながら胃の奥がぎゅっと縮んで、
縮んだ奥からあなたに似た腐れが滲んでくるような、
そんなものを愛と呼んでいいのか、ずっとわからない。
でも、わからないままで、
あなたに触れられるものがひとつでもあるなら、
なんでもあげるよ。
この指でも、この腕でも、
腐ったどろどろした部分でも、
あなたが欲しいなら全部渡す。
あなたが少しでも受け取ってくれるなら、
わたしなんて、生きている必要すらない。
嫌なら殺してくれたらいいし、あなたのためなら死んでもいいよ。
それに、あなたもきっと、どこかでずっと、
わたしとおなじようにおなかがすいてるんでしょ?
だって、あなたもわたしの味を知らないんだもの。
ねえ、食べてよ。あなたもわたしを。




