■ハイジャック
3カ所のダイニングのうち、ひとつは海鮮専門であるという。
王国では海鮮料理などなかなかお目に掛かれない。
ニーナは察してくれて、海鮮ダイニング「カイ」に入店を促した。
ボーイはすぐさま私とニーナを最奥の席に案内する。食事を楽しむ話し声が聞こえて、私も期待が膨らむ。
雲丹の茶碗蒸しの先付に、真鯛の昆布締めの前菜。
脂が乗った魚と海老の甘みを味わえるお造り、甘鯛の酒蒸しに続いて、黒アワビのバターソテー。
旬魚の天ぷらを挟み、伊勢海老のグリルを味わった。
食後の濃厚バニラアイスが私を天へと召し上げた。
ニーナは最初、遠慮していたものの、二人で席についていた。ニーナのマナーを参考にしつつ、完食した。
ふと、料理長が挨拶に来てくれた。
最大の賛辞を料理長に送ると、声軽やかに謝辞を述べていた。
そこでうっかり、微笑む。
あどけない少女の無邪気な笑み。
だが、それと同時に妙齢の淑女の魔性を帯びた笑みを、なぜか同時に併せ持つ。
私が意図せず発したその笑み。ユリアンを落とした笑みで、料理長を落としてしまった。
料理長に役割は見えなかったが、五つ並ぶ星印が全て、眩く光っている。
「明日もぜひ。お待ちしております。」
ユリアンとは違った忠誠の誓いを、感じ取ってしまった。
翌朝、大人たちに混じってボール遊びに興じていた。
体をなまらせるのはよくない、というニーナの助言。
運動着に着替え、軽快にボールを追いかける私を、大人たちは感心して見ている。
私はこれでも運動は得意なのだ。同年代に負けることはない。と思う。勝手な思い込みだけど。
ニーナが近くにいる安心感からか、ボールに夢中になっていると、ふと、乗務員たちの群れが見える。
なにやら揉めている。ニーナも察知して私を引き寄せた。
ニーナは私を連れ、甲板にあった柱の影に身を潜めた。
声が聞こえてくると、それがハイジャックであることがわかる。
各々に武装した乗務員。左腕に赤いバンダナを巻き付けている。味方を区別するためのものだろう。
昨日のボーイも見える。職務に忠実な人だと思っていたのに。残念。
さっきまで一緒にボール遊びをしていた婦人や老紳士を人質に、ハイジャック犯たちは要求を叫ぶのであった。




