■夕闇を嗤う決意
それからが早かった。
ユリアンは、我が姫への忠誠のもと、反乱分子の拠点はもちろん、次の行動計画の詳細を赤裸々に全て暴露していた。
ラインハルト様は、その情報を受け取るや否や、騎士団を向かわせ、抵抗する間を与えず全員確保という完璧な手腕を見せた。
ユリアンも、ひとまず正式な手続きのため送還されることになったが、裏では恩赦が与えられるという話が着々と進んでいた。
そして私は、王都の治安回復という公的な功績により、直々に国王陛下より恩賞を賜る運びとなった。
「留学」。その言葉を聞いたとき、不安と期待で胸が膨らんだ。
ラインハルト様の強い勧めもあって、国王陛下からの、直々のお言葉だった。
天秤にかけるべきではないと知りながら、心が揺れる。
不安は、父上、母上と会えなくなること。
期待は、未知なる帝国への興味と、より大きな舞台で力を試したいという知的好奇心。
『歴史家』の教授は「是非行くべきだ」と、瞳を輝かせて応援してくれた。
そして、ニーナ。私にとって、ニーナが居てくれればどこへでも行ける。
彼女が私の傍にいてくれるかどうか。それが、私の決断の全てだった。
私は、この作戦を支え、私のために涙を流してくれたニーナの気持ちを、何よりも聞きたかった。
「ニーナ、あのね。
うんとね。
まずは、あの時、助けてくれてありがとう。
今までちゃんと言えなくてごめんね。
好きよ。
大好きだよ」
私は、一気に言葉を吐き出した。
誘拐の恐怖、無茶をした罪悪感、そして彼女の深い愛情が、堰を切ったように溢れ出し、私は勝手に感極まって泣きじゃくる。
ニーナは何も言わず、ただ私を強く抱きしめて、背中を黙って宥めてくれた。
その温かさが、私の涙を止められなくした。
留学の相談をするつもりだったはずなのに、感情の波に飲まれ、すっかり忘れていた。
「どこまでもついて参ります、お嬢様」
その言葉は、私にとって何よりも強い安心であり、何よりのプレゼントだった。
ニーナ、ありがとう。
留学の話が進むと、父上はまるで娘を嫁に出すかのように寂しがっていた。
「そんなに寂しいのなら、もっと構ってくれればいいのに」――私は心の中で毒づいた。
母は気丈に振る舞っていたが、目元は赤い。
両親への感情的なわだかまりは残しつつも、私はニーナと共に帝国へ行く決意を固めた。
留学のための社交の授業、持ち込む書物の収集、そして護衛としてのニーナの準備。
準備に明け暮れる日々は、あっという間に過ぎ去っていった。
出発の日。
ラインハルト様に用意いただいた飛竜船は、非常に大きく壮大だった。
三体の巨大飛竜を使役するのは驚愕の一言だし、何より圧巻だった。
船首の豪華な意匠も見応えがあった。
見送り来てくれた両親はどっちも泣いていたが、私は泣かなかった。
旅立ちだもの。
笑って進みたい。
「さあ、ニーナ。行きましょう。」
「はい、お嬢様。」
二人は静かに乗り込むのであった。




