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■戦略の第一歩と皇帝との出会い

今日は歴史の授業だというのに、その内容はすっかり頭に入ってこない。

まるで佐藤亮二の記憶が邪魔をしているかのようだ。

転生直前の、天使とのやりとりが頭をよぎる。


ネクタイが曲がってないのに、曲がりを治す仕草。

それに連動したかのような名刺の差し出し方。

あの自然に出てきた初対面の言葉には、思わず唖然としたものだ。

遠回しな言い方に若干違和感を感じたものの、それでも嬉しかった。


俺にとって人と話をするのは、それこそ四十九日ぶりだった。

だからつい嬉しくて好意的に応答していたのだ。


「異世界?転生?何を漫画みたいなことを言っているんだ、と笑いたい。

だが、確かに自分は死んでいる。」


そんな思いで聞いていると、どうやら転生先には「役割」という物があるらしい。

天使曰く、ごく少数が役割を持って生まれ、当人はそれを悟ることはない。

そして、俺、いや私の役割は『黒幕』だと!?


「そういえば、『転生したら忘れる』と言っていたのに、今、思い出しているな。」


そうか!転生の瞬間、あいつ、「アッ」って言ってたな。

この後に及んでミスでもしたんじゃないか?

だが、もう後の祭りなんだろう。


歴史を教える教授。

彼は高位の貴族でもあり、名だたる歴史研究者だ。

国の成り立ちや偉人の業績を書物に編纂し、功績を讃えられている。


そんな彼の頭上に、微かな文字のような光が見えた。

違和感を覚え、目を凝らすうちにそれは輪郭をはっきりさせ、やはり文字なのだと確信した。


『歴史家』


確かに教授は歴史家だ。

だが、なぜ、私にはこれが見えているのか?


「他の子にも見えているのだろうか?」


そんなわけはなかろうが、私は隣に座る侯爵次男のニコライに話しかけた。

「ねえ、教授の頭、いつにも増して散らかってない?」と尋ねる。


ニコライはつい吹き出した。

「いつもの通り、禿げ散らかってるけど、いつも通りだよ。どうしたの?熱の後遺症?」


教室での親の地位が一番高いのは私だけど、部屋の子たちとは仲が良い。

熱のあと見舞いに来てくれたし、もしかしたら私のことが好きなのかもしれない。


内なる俺が私に囁く。

人間関係構築の大事さ、そしてそれが一朝一夕ではいかない難しさを。

俺の言葉に導かれるように、私は教授に質問に行った。

質問といっても、内容は他愛のないものだ。

自身の可憐さが強力な武器のひとつとなることを、俺の記憶は教えている。

私は聞き手に回ることで相手に好印象を与えられる、その戦略を実践しに行った。


教授にはお茶に付き合って貰え、会話は大いに盛り上がった。

今度お孫さんにも会わせたいそうだ。生まれたばかりの赤子だという。

その約束を取り付けたことをニーナに話すと、彼女はとても喜んでくれた。

父上から贈られたぬいぐるみが、将来のための抱っこの練習に役立つ。

そのことを二人で笑い合った。


王都が社交シーズンを迎えた頃、母上が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「直ぐに支度なさい、ドレスは一番高級なものを!」

その後のニーナの迅速かつ的確な仕事ぶりは、見事、という他ない精密さだった。


支度を終えた私の前に現れたのは、華奢な青年だった。

齢は二十歳前後。服装はラフだが、その身から高貴さが漂っていた。

胸元の空いたシャツからは、いわゆる色気が滲んでいた。

シャツとは対照的に、ズボンの派手さは目を見張るほど。

靴は細身だが高級であることはよくわかる。

やや長めの金髪は青眼によく似合っていた。


私はギョッとした。

見えている役割は、『皇帝』。


初対面の彼の頭上には、紛れもなくその文字が浮かんでいる。

息を飲む、とはまさにこのことだろう。


我が国のトップは国王陛下だし、もちろん面識もある。

お二人いらっしゃる王族の殿下たちももちろん存じ上げている。

地理の授業で、遠い地にある大帝国のトップが皇帝であるとは聞いていたが、その時は今の状況に結びつかなかった。


ラインハルト様は、私の目を見て懇切丁寧に事情を説明してくださった。

私を子供扱いせず、一人の淑女として敬意をもって接してくれた。

彼が言うには、王都の何処かに帝国反乱分子が潜伏しており、捜索の手伝いをして欲しいのだと。


母上は彼の美貌に目を奪われ、肝心の話をほとんど聞いていない様子だった。

ニーナに目配せすると、彼女は口元に笑みを湛えながら、静かに頷いた。

ラインハルト様の方は事態の切迫からか、いよいよ困り果てた様子だった。


国王陛下にも状況をご理解いただけたようで、この件は密命として差配されたと、母から聞いた。

表向きは私が見聞を広めるために市井を回り、その護衛としてラインハルト様がつきそうという形になった。

ラインハルト様の発案で『スター大作戦』と名付けられたこの計画は、明日から開始されることとなった。


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