■脱出作戦
カンッカンッと、矢が盾に防がれる音。
キィンキィンと、鍔迫り合いの激しい金属音が犇めく。
ラインハルト皇太子殿下は、馬車から出た私アナスタシアに気付くと、身を屈ませるように促す。
背中に当たる大きいその手は温かみを感じられて、一定の安堵さえ覚えた。
「なぜ、出てきた」さっきまでの、にこやかな表情から一変、殿下は真剣な面持ちで私を問いただす。
司令官の話をすると、「無謀すぎる・・・」と頭を抱えてしまった。
馬車に戻ろうにも、今度は矢で狙われかねない。私も殿下もそんな危ない橋は渡れない。
近衛騎士たちにも、疲弊の色が滲む。ついには、鉄壁とも思えた防壁が崩れ始めた瞬間。
聞き覚えのある大声が、はるか天空から聞こえたように感じた。
「ひーーーーーーーーーーーめーーーーーーーーーー!!!」
その物体が敵の只中に飛来したかと思えば、ドォーンと今日一番の衝撃音と共に、土煙が舞い上がる。
衝撃をまともに喰らい、倒れ込む敵兵。また、倒れないまでも膝をつく者もいた。
突風が土煙を取り払うと、周囲から「悪鬼だ」「悪鬼」という声が聞こえ漏れる。
見覚えのある大男。ハイジャック事件の犯人のひとりだ。
名前は・・・なんだっけ?確かに当人の供述で「悪鬼」の渾名が出てきたっけ。
周囲を見渡し、私を見るや、こちらに突進してくる悪鬼。
敵を吹き飛ばし、あわや近衛騎士も、というところで止まり、片膝をつく。
「助けにあがりまして。姫君。」
相変わらずの星印五つ。私にベタ惚れは変わっていない。
私を見るとき、いつも目をランランとさせてくる。
「なにものだ!」と殿下が叫ぶのを無視し、私のもとにゆっくり近づいてくる。
この間、悪鬼は背中に矢を受けているようだったが、傷ひとつない。脂肪なのか?筋肉なのか?大変丈夫で素晴らしい。
佐藤亮二が嗤う。この混乱に乗じて脱出しようと。
「悪鬼!さぁ、出番よ!行きなさい!」
私が司令官を指差してけしかけると、雄叫びを上げて悪鬼が暴れ始めた。
「殿下、今です!脱出しましょう!」と声をかけると、殿下は静かに頷く。
敵は暴れる悪鬼に気を取られていた。それを見て、静かに移動を開始した。
ニーナは既に状況を把握してくれてたみたいで、露払いをしてくれている。
どうにか、追手のいない林まで抜け、帝都まで移動することに成功したのだった。




