■侯爵令嬢、大地に立つ。
「大地に立つ」。この言葉を聞くと、何故だか私の中の佐藤亮二が湧き立つ。
飛竜船から降りたときに、必ずつぶやくようにしていた。
数週間に及ぶ飛竜船の旅。途中で寄港した各地の歓待も賑やかだったけど、帝国はその中でも一際豪華だった。
出迎えの先頭に立つ御仁。『皇帝』ラインハルト皇太子殿下だ。
白い礼服に、相変わらずの長めの金髪。青眼は服装や髪型によく似合う。
市井のご令嬢にもファンがいるらしく、その色香に黄色い声援が聞こえる。
引き連れる近衛騎士たちは、何れも屈強そうで、兜の奥の眼光は鋭い。
騎士の最後尾には『スパイ』。ユリアンだ。
二人とも星印がよく見える。星印を見るたび、佐藤亮二が嗤う。
皇太子殿下に公式でお目見えするのは二度目だが、衆人環視という状況では初めてだ。
王国淑女の流儀で挨拶をすれば、帝国紳士の流儀で帰ってくる。
フフッとほほ笑むと、殿下の耳は赤く染まる。
王国では伝統として、公衆の面前ではヴェールを付ける。
ヴェールはごく一般的で、市井のご令嬢でもつけるし、季節の流行もある。
ニーナが今の流行りだという、ピンクのヴェールは私のお気に入りで、細やかなハート柄が特徴的だ。
ヴェールのおかげで、遠目では、その表情まで読み取れない。
伝統を利用して、不用意に魅了してしまわないように配慮しているつもりだ。
もう魅了済みであれば問題はないのだろうが。
ヴェールを主役に沿えるような、ドレスを選んでいる。
年齢相応のドレスは、花柄を基調にしつつ、穏やかさを強調している。
ニーナが持ってくれている、日差し除けの傘も衣装に合わせた色合いで私は満足だ。
皇太子殿下に連れられ、馬車に乗り込むと、一行は帝都に向かうのであった。




